東京高等裁判所 昭和44年(ラ)883号 決定
抗告人は、原決定は、本件増改築を許可すると同時に、その付随処分として、抗告人に金一二六万円の給付を命じているが、右付随処分の裁判は、抗告人に金八万円の給付を命じることが相当であるとの鑑定委員会の意見を全く無視した独自の議論にもとづいてなされたもので、はなはだしく不当である、と主張するので、判断する。
記録に綴られた資料を総合すると、抗告人は、昭和二二年五月ころ、相手方から原決定てん付目録(一)記載の土地合計二五七坪六合(以下、本件土地という。)を建物(その種類、構造の定めなし。)所有の目的で、敷金、権利金なしで、期間の定めなく賃借し、賃料は、昭和四四年四月一日改定されて同日以降一か月につき金二万七、〇四八円(坪当り金一〇五円)と定められたこと、右賃貸借契約については、賃貸人の承諾なく地上建物を増改築することを禁ずる旨の建築制限の特約があること、抗告人は、本件土地上に、前記目録(二)1.記載の建物一棟を昭和二二年ころ、同目録(二)2.記載の建物一棟を昭和四一年五月一七日ころ、同目録(二)3.記載の建物一棟を昭和三〇年七月一〇日ころ(同四一年七月二〇日ころ増築)、それぞれ相手方の承諾を得て建築し、これらの建物を所有し使用していること、本件土地は、現在都市計画の施設として、住居地域、準防火地域、第三種容積地区(ただし、南側部分は、商業地域、準防火地域、第五種容積地区)に指定されていること、抗告人は、前記目録(二)1.記載の建物のうち、西側三四・七一平方メートルを収去し、そのあとに同目録(三)記載の建物を増改築しようと計画し、その承諾を得るため、相手方と数回にわたって交渉を重ねたが、その間に協議が調わなかったため、本件申立に及んだこと、本件土地上に前記のように三棟の建物が存在し、これらの建物は必ずしも有機的に一体として利用されていないが、さればといって、本件土地賃借権がそれぞれ右建物の敷地部分に分割されるものとも考えられないこと、本件土地賃貸借については、期間の定めのなかったことは前認定のとおりであるから、その存続期間は一応賃借権設定のときから三〇年後の昭和五二年四月末日までというべきところ、抗告人において、昭和四一年五月一七日ころ、本件土地上に前記目録(二)2.記載の建物を相手方の承諾を得て建築していることが前記のとおりであるので、本件土地賃貸借における存続期間は、事実上特段の事情のない限り、いきおい、右の建築日時から大蔵省令による同建物の耐用年数二二年を経た昭和六三年五月一七日ころまでとなるが、本件増改築を行うことにより、これが更に事実上三年余延長されると考えられること、原審における鑑定委員会は、原審裁判所に対し、本件土地の更地価格は総額二億八、一〇〇万円(一坪当り一〇八万九、〇〇〇円)で、利用上における公法的制約を考慮に入れると総額二億五、二九〇万円となり、これを基本として、昭和五二年四月(本件賃貸借において認められる当初の存続期限)におけるいわゆる更新料(この場合、更新料は借地権価格の五%とし、借地権の土地所有権に対する割合を七五%とする。)を算定し、これを現価に修正すると六四一万六、〇〇〇円となり、これを本件増改築によって延長されると考えられる賃貸借期間三年間の本件全敷地に対する承諾料は九六万円となる旨の意見を報告していること、等の事実が認められる。
そして、以上認定の諸事情のほか、本件記録によって認められる本件増改築の位置、その規模、内容、これによって生ずる本件土地、建物の利用効率の増加ならびに抗告人の受けるべき精神上の利益、本件土地、建物の利用の状況および本件借地に関する従前の経過等一切の事情を総合勘案すると、原決定が、本件増改築の許可の裁判をするについて、当事者間の利益の衡平を図るために、その付随処分として、本件事案のもとにおいて抗告人に金一二六万円の給付を命じたのは、右数額を算出するについて示した原判決の説示の当否は別としてその数額について必ずしもこれが高額に過ぎ不当であるとは思われない。
(石田哲 杉山 唐松)