東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)1号 判決
一、請求原因一、二、三項の事実は当事者間に争いがない。
二、そこで、審決取消事由の有無について判断する。
(一)、原告の主張(一)について
成立に争いのない甲第三号証(先願)、同第五号証(本件特許発明)によれば、本件特許発明と先願とは「先端に糸案内を設けた糸取バネを有する糸取上装置」である点で、またその作用として糸の張力の調整をふくむ点で一致しているが、先願における「弾線ガイド」、「片持式のスラツシヤー(マクラ)」に対応する構成が本件特許発明では「その糸取バネを支持させた支持部体に固定した固定部体とバネ装置によつて常にその固定部体に向つて圧動されるように支持部体に枢支され、かつ、前記糸取バネと係合して作動させる可動部体との間に編糸を挾持してなる編糸制御部体を設け」「前記糸取バネが前記可動部体と係合した後一定以上撓屈したときに前記バネ装置の作用に抗して前記可動部体を回動させ前記固定部体との繋合を外すようにしたことを特徴とする」と特許請求の範囲が具体的に限定されていて、先願とは明かに構成要件を異にし、しかもその差異が設計上の微差にすぎないことを認めるに足りる証拠もない。したがつて、作用効果に論及するまでもなく両者は同一の発明ということはできない。それ故、この点に関する原告の主張は採用できない。
(二)、原告の主張(二)について
成立に争いのない甲第四号証(公知例)、および前掲第五号証によれば本件特許発明の弾線7、6が公知例の弾線導糸杆23、導糸環24に相当し、先端に糸案内を設けた糸取バネを有する糸取上装置である点で一致することが認められるが、つぎの相違点が認められる。すなわち、<1>本件特許発明の弾線の弾力強化装置と横振り防止装置12、13と公知例の22、23、25、26とを対応させてみると、本件特許発明における12は円筒部体、13はバネであつて、円筒部体にはバネ13により回動を制限されていて、糸取バネ7が彎曲して円筒部体12の前端縁14bに接触押圧した場合に糸取バネ7がさらに彎曲するのに対して支えとなり、結局その弾力強化装置となつており、また、円筒部体12に設けた切欠孔14により糸取バネ7の横振り防止作用をも奏するものであるとは考えられるが、公知例のピン22、弾線導糸杆23、弾線調整杆25、切欠部26による構成は、単に弾線導糸杆23の弾線調整のために設けられているにすぎず、本件特許発明のように張力の変化に応じて円筒部材が回動する構成にもなつておらず、その具体的構成および目的・作用効果において明かな違いがある。また、<2>本件特許発明のブレーキ装置10、11と公知例の17、18、18とを対応させてみると、本件特許発明において10はピン、11は糸押えであつて、両者により編糸にブレーキをかける装置となつているが、糸押え11は円筒部体12に一体に設けられていて、糸取バネ7の屈曲により回動され、ピン10との圧接の制御作用が行われるのに対し、公知例の17、18、18、すなわち一対の軸承片、一対の抑糸板は、摺動板1が編針のバツトに衝突しなくなつた場合に編糸にブレーキ作用を及ぼすようになつていて、編糸の張力変化に応じて編糸にブレーキ作用を及ぼすものではなく、その目的・構成も明かに相違している。したがつて、この点に関する原告の主張も採用できない。
(三)、原告の主張(三)について
前掲甲第五号証によれば、本件特許発明では、キヤリツジが編機の端部に到達して糸取バネ7が復帰しようとする場合において、それまで糸取バネ7により円筒部体12の切欠孔14の前端緑14b部を押えて回動させていた力がなくなり、円筒部体12はバネ13により回動し、円筒部体12と一体の糸押え11はピン10との間で編糸を挾持して編糸の繰出しを停止する。この時でも糸取バネ7は円筒部体12の切欠孔の範囲内でまだ相当屈曲した状態にあり、キヤリツジを折返し移行すると編糸が垂れ下ろうとするが、編糸はピン10、糸押え11とにより挾持されていて繰出されないため、屈曲した状態にある糸取バネ7がさらに起上ることにより垂れ下り分の糸を吸収することが認められる。したがつて、糸取バネ7が円筒部体12を押圧していた屈曲状態より少し起き上り、まず糸押え11とピン10との間で編糸を挾持し、さらに起き上ることにより、キヤリツジが編機の端に来て反転する場合に生ずる編糸のたるみを吸収できるものと認められるので、本件特許発明が実施不可能とはいえない。したがつて、この点についての原告の主張も採用できない。
三、以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却する。