東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)12号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決が、本願発明をもつて引用例記載の発明と同一と認められるとしたことをもつて判断を誤つた違法のものである旨主張するが、右主張は、以下に説示するように、理由がないものというほかはない。
(一) 本願発明の要旨
本願発明の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の右記載に本願特許公報を参酌すると、本願発明要旨は、前掲記<注>のとおりのハンダ合金にあることを認めうべく、この認定を左右するに足る証拠はない。原告は、本願発明には、錫、鉛、銅のほか、各0.1%以下の銀及びニッケルを含むことをその構成要件とするものである旨主張し、本件審決は、本願発明の要旨の認定を誤つたものであると非難するが、本願発明の詳細な説明の項には、本願発明の一実施例として、0.01%又は0.03%の銀、0.005%のニッケルを組成分とするものが示されているが、同時に、全くこれらを含まないものも示されているばかりでなく、これらの銀及びニッケルが常に必ず組成分を構成していなければならないものであることを窺わせるに足る記載もなく、しかも、特許請求の範囲の記載によれば、銀及びニッケルは、いずれも〇%でありうることとされているのであるから、原告の前記主張は、採用するに由ないものといわざるをえない。
(二) 引用例の技術内容
引用例には、電気ごてを使用する場合の錫、鉛のハンダ合金は、共晶合金を作るのに充分な全属を含有すべく、ハンダごてが銅製の場合は、ハンダは、銅を少なくとも、錫の一%含有すべき旨の記載があり、そのハンダ合金の例として、
(イ) 錫四〇%、鉛五九%、銅一%のもの
(ロ) 錫五〇%、鉛48.5%、銅1.5%のもの
(ハ) 錫六〇%、鉛三八%、銅二%のものが挙げられているほか、銅は五%まで含(may contain)まれてもよい旨記載されていることが明らかであり、これらの記載に徴すれば、特段の事情の認むべきもののない本件においては、引用例には、錫四〇〜六〇、鉛三八〜五九、銅一〜五%の組成割合の金属から成るハンダ合金が示されているものと認めるのを相当とし、これに反する原告の主張は、採用しがたい。
(三) 両者の比較
よつて、本願発明と引用例記載の技術内容とを比較すると、本願発明における錫、鉛及び銅の組成割合は、引用例に開示されたこれらの金属の組成割合の上限と下限との間にあるものを含むことが明らかであり、この事実に、当事者間に争いのない本願発明及び引用例ともハンダ合金すなわち、ハンダ付けに使用する合金に関するものである事実とを参酌して考量すると、本願発明は、引用例に開示された技術と部分的に重複するものであることが明らかであるから、この重複部分を補正により削除する手続でもとらない限り、本願発明は、引用例に開示された発明と同一発明といわざるをえない。原告は、引用例は、銅を五%も含有することがありうるとした点において、本願発明と技術思想を異にする旨主張するが、銅を五%も含むこととした場合、原告主張のような不都合を生ずるとしても、ハンダ合金の組成として、一〜二%の銅を含有するものが示されている事実を動かしうるものではない。したがつて、このような補正手続とられていない本件において、両者を同一発明であるとした本件審決には、法律的に非難すべきものではない。この点に関し、原告は、本件審決が、両者は、発明の課題(こて先の損耗防止)も同一であるとしたことを論難するが、前認定のような事実関係のもとにおいて、本願発明がこて先の損耗防止を解決課題としているとすれば、引用例のものも、その金属成分、組成割合において本願発明と重複するハンダ合金である場合には、そのような課題の解決に奉仕しうべきものであることは、引用例にその旨の明確な記載がなくても、当然のことといわざるをえない筋合であり、これを左右するに足る明確な証拠はない。したがつて、本件審決が解決課題の点においても、両者は同一であるとしたことを違法とすることはできない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、いずれにせよ理由がないものといわざるをえない。よつて、これを棄却する。
(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)