大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)131号 判決

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が、いずれも、原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、第二引用例及び第三引用例に開示された技術内容についての認定を誤り、ひいて本願発明との比較において判断を誤り、本願発明をもつて各引用例から当業者の容易に推考することができる程度のものであるとした点において判断を誤つたものである旨主張するが、この主張は、理由がないものといわざるをえない。すなわち、

1 原告は、第三引用例は、ジルコニウム結晶棒の製造法であり、本願発明とは、その対象物質が異なり、また、その製造方法において、本願発明に求められる純度に関する観念を欠く旨主張するが、本願発明の対象である半導体シリコンは、炭素族元素で半導体物質であるに対し、第三引用例の対象であるジルコニウムは遷移元素であり、半導体物質ではないから、両者は、その目的とする結晶物質の製造原料が異なること原告主張のとおりであるが、成立に争いのない甲第四号証(第一引用例)及び第六号証(第三引用例)によれば、第一引用例には四臭化シリコンを、シリコン種フイラメントの表面で加熱分解してシリコン結晶を析出することが、第三引用例には四沃化ジルコニウムを、ジルコニウムフイラメント上で加熱分解してジルコニウムを析出することが、それぞれ開示されているのであるから、両者は、その目的成分のハロゲン化物を加熱したフイラメント上で熱分解して析出するところの、一般に、高純度の結晶物質の製造法として知られた技術の一種として、共通する性状を有するものであることが明らかである。

原告は、第三引用例は、析出結晶したジルコニウムを、鍜造、冷間圧延するから、担体が不純物を含む旨主張するが、前顕甲第六号証によれば、第三引用例においては、フイラメント上に前回に析出した結晶棒の一部を利用していることが認められるところ、このことは、高純度の物質を得ることを目的として高純度の担体を用いるという技術思想を開示しているものとみるを相当とし、このようにして析出したジルコニウムを、鍜造、冷間圧延により、担体に形成すると、不純物を含むに至ると認むべき証拠はない。

したがつて、第三引用例も高純度の結晶物質の製造法であるというべく、その対象物質が本願発明の対象物質と異なること前記のとおりであり、また、原告主張のように、その機械的性質が異なるとしても、第三引用例が純度に関する観念を欠くものとはいい難く、第三引用例に開示されたこの点の技術思想は、本願発明において、保持体上に析出した結晶棒の一部を、次に続く同一析出操作の棒状保持体として用いるという技術思想を示唆するものというに十分である。なお、第三引用例が、前回の処理で得られた結晶棒を細分化することについては、前顕甲第六号証に明文の記載はないけれども、第三引用例には前回の処理で得られた結晶棒の一部を保持体として用いることが開示されていること前認定のとおりであるから、この結晶棒の一部をもつて、本件審決が、「分割した部分」及び「細分化することによつて得たもの」と認定したことは、措辞やや正確を欠くが、後記のとおり、第二引用例に、保持体を細分し、これを精製出発原料として使用することの技術思想が開示されており、本件審決は、保持体の製造手段として第二引用例に開示されている技術思想を引用しているのであるから、本件審決の第三引用例についての前記認定部分は、何ら本件審決を違法ならしめるものといい難い。

2 原告は、第二引用例には、シリコンの半導体棒を単に半割りするという技術思想が開示されているにとどまり、長手方向に多数に分割する技術思想は見出せない旨主張するが、成立に争いのない甲第五号証(第二引用例)によれば、その第八頁から第九頁には、タンタルテープに析出した棒状珪素をその長さ方向に鋸引きして半割りすることが記載されている(タンタルテープに析出した棒状珪素を長さ方向に鋸引きすることの記載があることは、原告の認めて争わないところである。)が、多数の棒に細分することは、示されていない。しかしながら、前顕甲第四号証から第六号証によれば、結晶を析出せしめる担体として、第一引用例は珪素フイラメントを使用し、第二引用例はタンタルテープを使用し、第三引用例はジルコニウムフイラメントを使用していることが認められ(この事実は、原告の認めて争わないところである。)、このことからすれば、電気的に高純度物質を製造する方法において、結晶保持体として細い棒、テープを使用することは公知の技術に属するということができ、第二引用例において、鋸引きしたシリコンの半割り棒を、次に続く析出操作の精製出発原料として使用するに際し、可能な限りの適宜の大きさにまで鋸引きにより細分割して多数の保持体を形成することに特に技術上の困難性があるとは認め難いから、この点は、当業者の容易になしうる事項というべく、第二引用例は、シリコンの半導体棒を多数に分割することの技術思想を含むものとみるのが、相当である。

3 原告は、本願発明は、従来技術では予想することができなかつた格別の作用効果を奏する旨主張するが、各引用例及び気相析出によつて半導体棒を成長せしめるという技術分野において、得られる生成物の純度を高めるため、使用する保持体として高純度のものが必要であることが周知技術に属し(この点は、原告も争わない。)、また、担体フイラメントに高純度のものを用いれば純度の高い結晶物質が得られることはいうまでもないことであるから、原告主張の作用効果は、これらの事項から当然予期される程度のものにすぎないものとみるを相当とし、他にこれを左右するに足る証拠はないから、原告の前記主張も採用しうべき限りではない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本願発明の要旨

半導体物質のガス状化合物からその化学変化によつて生成する高純度の半導体物質を、同じ半導体物質からなる棒状保持体上に析出させることによつてこれを太らせ、ついでこれを多数の棒に細分し、少なくともその一部を次に続く同一析出操作の棒状保持体として使用することを特徴とする高純度半導体物質の製造方法。

本件審決理由の要点

本願発明の要旨は、前項掲記のとおりと認められるところ、本願出願前の昭和三十二年五月二十九日、国立国会図書館受入の、「ジヤーナル・オブ・ジ・エレクトロケミカル・ソサエテイ」第百四巻(本件審決に、第百五巻とあるは、誤記と認める。)第五号(以下「第一引用例」という。)の第三百十七頁から第三百十九頁には、加熱された珪素フイラメント上に、臭化珪素ガスを熱分解して珪素を析出せしめることによつて珪素結晶を成立させるという、気相熱分解析出法による珪素結晶の成長についての技術が記載され、本願出願前の昭和三十二年一月十七日、特許庁資料館受入の、「プログレス・イン・セミコンダクターズ」第一巻(以下「第二引用例」という。)の第八頁から第九頁には、棒状珪素を長さ方向に鋸引きして、析出基材に用いたタンタルテープを除去すること、第百四十五頁には、半導体薄片を電解蝕刻により製造することが、それぞれ記載され、本願出願前の昭和三十二年五月二十九日、国立国会図書館受入の、「BMI―523、ザ・プレパレイシヨン・オブ・ラージ・ダイアメーター・ジルコニウム・クリスタル・バー・バイ・ザ・デ・ボーア・プロセス」一九五一年(昭和二十六年)三月六日号(以下「第三引用例」という。)には、ジルコニウムのハロゲン化物を気相熱分解して大径のジルコニウム結晶棒を製造するについて、保持体として、前回に析出した結晶棒を冷間圧延及び鍜造加工して分割した部分より作つたジルコニウムフイラメント上に、ジルコニウムを析出せしめることが記載され、本願発明と各引用例を比較すると、本願発明が、気相析出によつて半導体棒を製造するにあたり、その保持体として、前回の析出によつて得られた棒を細分化したものを使用するものであるに対し、第一引用例には気相析出による珪素結晶の成長について、第二引用例には半導体棒の鋸引き電解蝕刻による切断について、第三引用例にはジルコニウム結晶棒の気相析出製造において、保持体として、前回の析出で得られた結晶棒を細分化したものを用いることが、それぞれ記載されているところ、本願発明が半導体結晶棒を対象とするに対し、第三引用例はジルコニウムの気相析出による結晶棒の製法であり、対象物質において相違するが、ハロゲン化物を保持体上で熱分解するにあたり、前回の処理で得られた結晶棒を細分化することによつて得たものを保持体に使用することにおいては全く異なるところがない。そして、気相析出によつて半導体棒を成長せしめることは第一引用例により開示されており、この種技術分野において、得られる生成物の純度を高めるため、使用する保持体として高純度のものが必要なことは自明のことであり、半導体棒を分割することも、第二引用例に開示されているように、可能な技術であるから、本願発明は、第一引用例における保持体の製造手段として、第二引用例及び第三引用例に開示された技術を適用することによつて、当業技術者が容易にできるものであり、格別顕著な作用効果を生ずるとも認められない。したがつて、本願発明は、前掲各引用例の記載に基づき容易に推考することができる程度のものというべく、旧特許法(大正十年法律第九十六号)第一条に規定する特許要件を具備しないものである。なお、請求人(原告)は、明細書の訂正案を提出して、本願発明を高純度の珪素製造法のみに限定する旨を主張し、特許請求の範囲においては、珪素保持体の製造手段をより具体的に規定するが、本願発明が、たとえこのように訂正されたとしても、各引用例に記載の技術内容に基づいて容易に推考し得る域を出ないものということができるから、この訂正案は採用する必要を認めない。

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