東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)132号 判決
一 請求原因一ないし三の各事実、すなわち、原告が特許権を有する本件発明につき、その特許を無効とした本件審決の成立に至る特許庁における手続の経緯、本件発明の特許請求の範囲及び本件審決の理由の要点は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、本件審決の取消事由の存否につき判断する。
(一) 要旨認定について
(1) 原告は、本件発明の特許請求の範囲中、「各種線心の種類を分別する」という意味は各種線心それぞれにおけるその中の種類を分別することであつて、本件審決が認定するように各種線心群を相互に分別することではないと主張する。
成立に争いのない甲第二号証の一、二によれば、本件発明の明細書中には、「各種線心の種類を分別する」という意味につき明確に定義した直接の記載はないことが認められるから、明細書の記載全体からその意味内容を検討する必要がある。
前掲甲第二号証の一、二によれば、本件発明の明細書に記載されている唯一の実施例(別紙図面(〔編註〕省略)第1表参照)の基本的構成は次のようになつていることが認められる。すなわち、八〇本の心線の集団が第一種線心から第四種線心まで各二〇本宛に分けられ、右各種線心に所属するそれぞれ二〇本の心線に対し1ないし20の線番を与えてあるものにおいて、各心線を個別に識別する方式として、各種線心のいずれにおいても、線番1ないし10の心線のグループと線番11ないし20の心線のグループに大別し、各心線の絶縁被覆上に付する符号の形状を、第一種線心ないし第四種線心の右各二つ宛のグループ毎にすべて異ならせ(したがつて、符号の形状は合計八種類になる。)、各種線心のいずれにおいても、符号の色は、線番の順に線番五個毎に黒と赤とを交互に付し(線番1ないし5及び線番11ないし15の各心線は黒、線番6ないし10及び線番16ないし20の各心線は赤となる。)、さらに、絶縁被覆の色は、線番の順に青、橙(桃)、緑、鳶、鼠の五色を繰返すものであり、この構成によつて、ある心線に付せられた符号の種類(形状)から当該心線が第一種線心ないし第四種線心のいずれに所属し、線番1ないし10のグループと線番11ないし20のグループのいずれに所属するかが判明し(例えば、二つの長点からなる符号であれば、第二種線心のうち線番1ないし10のグループに所属する。)、符号の色から右グループのうちさらに線番五個宛に二分割されたもののうちいずれであるかということが分かり(例えば、右の例で、符号の色が黒であれば、当該心線の線番は1ないし5のいずれかである。)、さらに、その絶縁被覆の色から特定の線番を識別する(例えば、右の例で、絶縁被覆の色が緑であれば線番3である。)ことができるのである。右のとおり、本件発明の実施例は、符号の種類により、ある心線が第一種線心ないし第四種線心のいずれに所属し、線番1ないし10と線番11ないし20のいずれのグループに所属するものであるかを分別することができるのである。
さらに、前掲甲第二号証の一、二によれば、本件発明の明細書中、発明の詳細なる説明の項には、「本例においては、線番10個毎に符号を異ならせて使用しているので、各線が如何にばらばらに入交るようなことが起つても、同一符号を集めるだけで一定の線番群を分別し、その中の符号の色が黒であるか赤であるかによつて該線番群を二分割し、単一色の絶縁被覆の色別によつて各分割群の各線の線番順位を決定するものである。したがつて、各線の線番は実に容易に簡単に間違いなく且つ迅速に決定され、各種線心の種類は相互に符号を異ならせてきわめて容易に決定され、かくして各線の完全識別がいとも容易に行なわれる。」との記載及び「本発明によれば、図示されたものの外、同一種の線心及び異種の線心に対して使用する符号の種類の増加、使用する符号の色の種類の増加等により第1図の図表に例示した簡単な基本構成方法を替えなくても、容易に識別しうる各線の数を無数に増加しうる。」との記載のあることが認められる。
以上認定した実施例の基本構成(なお、特許法施行規則第二四条、様式第一六備考13ロによれば、一般に、実施例には、出願人が最良の結果をもたらすと思うものを記載すべきものとされている。)及び明細書の記載内容に照らすと、本件発明は、一定の複数個からなる線番のグループ毎に符号の種類を異ならせるとともに、第一種線心ないし第四種線心のような各種線心の間においても相互に符号の種類を異ならせる構成であり、符号の種類により「各種線心の種類を分別する」とは、符号の種類によつて第一種線心ないし第四種線心の各種線心を相互に分別する意味であると認められ、そう解する方が、本件発明の明細書の記載内容全体を矛盾なく理解することができ、「種類」という言葉の一般的な用法にも合致しているといわざるをえない。原告は、符号の種類により「各種線心の種類を分別する」という意味が、一定の線番毎に符号を異ならせて各種線心それぞれ(同一種線心)の中における種類を分別することであつて、各種線心相互間に符号を異ならせてそれぞれを分別することではなく、各種線心相互間の符号を異ならせて分別することは要旨でないと主張するが、前掲甲第二号証の一、二によれば、本件発明の明細書には、原告が要旨外と主張する各種線心相互間において符号を異ならせる構成(もつとも、その一の同一種線心については、さらに符号を異ならせて分別がされている。)の記載しかなく、本件発明が各種線心相互間において符号を同一とする構成をも包含することを示唆する記載は全く存在しないことが認められるのみならず、前記認定の「各種線心の種類は相互に符号を異ならせてきわめて容易に決定され」という明細書の記載部分を原告主張のように解すると、明細書記載の順序に従つて、符号の種類により線番群を分別し、符号の色と絶縁被覆の色とによつて各心線の線番を決定しても、第一種線心、第二種線心等の各種線心のいずれに属するかが不明であり「各線の完全識別がいとも容易に行なわれる」ことにならない場合が生ずるから、やはり右記載部分は、各種線心相互間において符号を異ならせることにより各種線心のそれぞれを分別するという意味に解する方が合理的である。また、前記認定の「同一種の線心及び異種の線心に対して使用する符号の種類の増加」なる記載部分も、同一種線心において一定の複数個からなる線番のグループ毎に符号を異ならせるとともに、異種線心相互間においても符号を異ならせることを当然の前提とする表現であると解するのが相当であり、結局、明細書の記載からは原告の主張を根拠づける理由を見出すことはできない。
ところで、本件審決が、本件発明の特許請求の範囲の記載中「各種線心の種類を分別する」という部分を「各種線心群を相互に分別する」ことであるとし、本件発明の要旨認定において「各種線心群」なる言葉を三回にわたり用いていることは、当事者間に争いがないところ、前掲甲第二号証の一、二によれば、明細書には、例えば「第一種線心、第二種線心、第三種線心………等の各種線心」なる記載はあるが、「各種線心群」なる言葉は記載されていないことが認められる。しかしながら、当事者間に争いのない本件審決の理由の要点によれば、本件審決は、識別の対象となる多数の心線が実施例のように第一種線心ないし第四種線心に分けられている場合、それぞれ複数の心線によつて構成されるこれらの各種線心(実施例の場合、第一種線心ないし第四種線心の四種類)を総称する言葉として「各種線心群」を用いていることは明白であり、また、「各種線心の種類を分別する」という意味を、実施例における第一種線心ないし第四種線心のような各種線心を相互に分別することと解し、これを「各種線心群を相互に分別する」と表現しているものであつて、要旨認定におけるその余の二つの「各種線心群」という言葉も右と同様の意味で各種線心の総称として用いているのであつて、多義的に使用しているものではないことも明らかである。そして、一般に、発明の要旨を認定する場合、常に、明細書の特許請求の範囲の記載と一字一句変らない表現をもつて認定しなければならないものではなく、要旨の内容を正確に把握するために語句の一部を言い換えて認定したり、明らかに必須要件とはいえない記載部分を削除して認定することも許されないわけではない(勿論、それによつて要旨を不明ならしめ、あるいは要旨の範囲を変動させるものであつてはならない。)ところ、本件審決が要旨認定をするに当り「各種線心群」という言葉を用いたことによつて、明細書の記載との間に矛盾を生ぜしめて要旨を不明確にし、あるいは要旨の範囲を変動させたことを認めるに足る証拠はない。
したがつて、本件審決が、「各種線心の種類を分別する」という意味を第一種線心ないし第四種線心のような各種線心を相互に分別することと解し、これを「各種線心群を相互に分別する」こととして要旨認定をしたことをもつて誤りとすることはできないし、また、「各種線心群」なる言葉を用いて要旨認定をしたことが違法であるということもできないから、この点に関する原告の主張は理由がない。
(2) 原告は、本件発明における「線番群」とは「同一符号を有する心線の集団」の意味であつて、本件審決がこれを多義的に解して「符号の色によりさらに線番群毎に分別する」旨要旨認定をしたのは誤りであると主張する。
本件審決が「線番群」を「複数の線番(の心線)のグループ」という意味に広く解して要旨認定をしていることは、前記本件審決の理由の要点に照して明らかである。前掲甲第二号証の一、二によれば、本件発明の明細書には、「線番群」の意味を明確に定義した記載がないところ、発明の詳細な説明の項には、基本構成が前記(1)において認定したとおりである実施例が示され、「本発明においては、各線一本(ケーブル心線一本)宛絶縁被覆の色を単一色とし、これらの単一色としては最も分別し易い数種の色を選定し、選定された単一色の絶縁被覆上に、短点数、長点数あるいはこれらの組合わせ等よりなる符号のうち非常に分り易い絶縁被覆の色とは異なる色の符号を一定の線番毎にあるいは一定の線番群毎に異ならせて繰返し印刷し、各線の個々の識別をきわめて容易ならしめ(る)」との記載及び「本例においては、線番一〇個毎に符号を異ならせて使用しているので、各線が如何にばらばらに入交るようなことが起つても、同一符号を集めるだけで一定の線番群を分別し、その中の符号の色が黒であるか赤であるかによつて該線番群を二分割し、単一色の絶縁被覆の色別によつて各分割群の各線の線番順位を決定するものである。」との記載があることが認められる。
右に認定した「絶縁被覆の色とは異なる色の符号を一定の線番毎にあるいは一定の線番群毎に異ならせて」との記載部分からすれば、「線番群」なる用語は「複数の線番(の心線)のグループ」を指称すると解するのが自然であり、前記認定のとおり、本件発明の実施例は、符号の種類により、ある心線が第一種線心ないし第四種線心(本件審決でいう「各種線心群」)のいずれかに所属し、線番1ないし10と線番11ないし20のいずれのグループに所属するかを識別する構成であり、これが特許請求の範囲における「符号の種類により線番群並びに各種線心の種類を分別する」という意味にほかならないから、「線番群」とは線番1ないし10、線番11ないし20のような複数の線番(の心線)のグループであるといつて何ら差支えないし、符号の種類により各種線心の種類とともに線番群も分別するものである以上、「同一符号を集めるだけで一定の線番群を分別し」うることも当然であるということができる。
さらに、本件審決は、特許請求の範囲における「単一色の絶縁被覆の色別と該符号の色別とにより各線の識別を行ない」という意味を、「線番群毎に分別された各種線心群を符号の色によりさらに線番群毎に分別し、単一色の絶縁被覆の色別によつて各線を識別する」こととしているが、前記認定のとおり、本件発明の実施例は、符号の種類により第一種線心ないし第四種線心の各種線心の種類並びに線番一〇個宛からなる各線番群を分別したうえ、右のように各線番群に分別された各種線心のいずれをも(本件審決は、これを「この線番群毎に分割された各種線心群を」と表現している。)、さらに符号の色が黒であるか赤であるかによつて線番順に線番五個宛からなる各グループに分別し、その結果、符号の種類により分別された線番一〇個宛からなる各線番群は符号の色によりさらにそれぞれ線番五個宛からなるグループに分別され、その各グループにおいては絶縁被覆の色によつて線番順位を決定し、各心線を個別に識別しうる構成であるから、前記のとおり「線番群」とは「複数の線番(の心線)のグループ」であると解しうる以上、符号の色によつて分別される線番五個宛のグループも「線番群」ということができ、本件発明が「線番群毎に分別された各種線心群を符号の色によりさらに線番群毎に分別する」ものとした本件審決の右認定を誤りということはできない。
もつとも、本件発明の特許請求の範囲には、「符号の色によりさらに線番群毎に分別する」旨の直接の記載はなく、「絶縁被覆の色別と該符号の色別とにより各線の識別を行ない」とされているのみであるが、前記認定のとおり、発明の詳細な説明の項に「符号の色が黒であるか赤であるかによつて該線番群を二分割し、単一色の絶縁被覆の色別によつて各分割群の各線の線番順位を決定する」との記載があり、ここで「分割群」とされているものは、「複数の線番(の心線)のグループ」であるという意味における「線番群」であることが明らかであるから、本件審決が「符号の色によりさらに線番群毎に分別する」としたことに誤りはない。なお、特許請求の範囲には、右のとおり、「絶縁被覆の色別と符号の色別とにより各線の識別を行ない」とされているのみであるから、本件発明は、符号の色によつてではなく絶縁被覆の色により、本件審決のいう「線番群」すなわち複数の線番(の心線)のグループを分別する構成をも含みうるものであるが、絶縁被覆の色により線番群を分別して符号の色により線番順位を決定する構成も、その前提となつている符号の種類により分別された各線番群の中においては、線番の順序を符号の色が同一であるものを順次まとめて並べ替えると、符号の色により線番群を分別して絶縁被覆の色により線番順位を決定する構成と一致することになる(符号の種類、符号の色及び絶縁被覆の色により分別された多数の心線をもつて、一本のケーブルや配線類を形成するということは、当然に、このような並べ替えをしたと同一の結果を生ずる。)。したがつて、符号の色により線番群を分別して絶縁被覆の色により線番順位を決定することと、絶縁被覆の色により線番群を分別して符号の色により線番順位を決定することとは、「符号の種類により線番群並びに各種線心の種類を分別する」ことを前提とするものにおいては、相互に転換しうることであり、実質的に同一の構成(「絶縁被覆の色別と符号の色別とにより各線の識別を行なう」)ということができるから、本件審決の右要旨認定は、これをもつて誤りであるとはしえない。
以上の次第であるから、本件審決が「線番群」を「複数の線番(の心線)のグループ」と解したうえ本件発明の要旨を前記のとおり認定したことに誤りはなく、原告主張のように「線番群」を「同一符号を有する心線の集団」であると限定して解すべき必然的な理由は認められず、本件審決が「線番群」を多義的に使用して要旨を誤認した旨の原告の主張は採用しえない。
(3) 別紙図面(甲)第A図、第A´図表示のものが本件発明の要旨とする構成を具備しており、本件発明の実施態様に含まれることは、当事者間に争いがない。ところで、原告は、「符号の種類により線番群並びに各種線心の種類を分別する」の趣旨を前記主張のとおり限定的に解すべきであることを前提として、別紙図面(甲)第B図、第B´図表示のものも本件発明の要旨とする構成を具備しているにもかかわらず、本件審決の認定する要旨によればこれらの実施態様が排除されることになり不当である旨主張する。しかしながら、原告の右主張の前提が採りえないことは、すでに(1)、(2)において説示したとおりであり、右第B図、第B´図表示のものは、符号の種類(形状)により、線番群すなわち複数の線番(の心線)のグループを分別するものではあるが、「各種線心の種類を分別する」(本件審決のいう「各種線心群を相互に分別する」)ものではなく、「符号の色により各種線心の種類を分別する」構成であることが明らかであるから、「符号の種類により各種線心の種類を分別する」構成を備えていないものというべきであり、したがつて、これらは本件発明の実施態様に含まれないものといわざるをえない。
(二) 一致点、相違点の認定について
(1) 本件審決の理由の要点によれば、本件審決は、本件発明と第一引用例との間においては、本件発明が、符号の種類により各種線心群を線番群毎に分別し、この線番群毎に分別された各種線心群を符号の色によりさらに線番群毎に分別するのに対し、第一引用例は、符号の色により各種線心群を線番群毎に分別するのみであるという点で相違があると認定したうえ、右相違点に対する判断をしているのであつて、本件発明が符号の種類により線番群を分別するのに対し、第一引用例が符号の種類により線番群を分別するものではないという相違点を本件審決が看過していないことは明らかである。
また、成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用例記載の心線識別方式は、例えば別紙図面(乙)第四図のA及びBに示すもののように、一対と単線からなる三本の心線の絶縁被覆上にそれぞれ異なる形状の符号を付し、この一組(同一線番)の三本の心線については絶縁被覆の色を同じ単一色にするものであり、三種類の符号の形状により線心の種類(「一対の線」が本件発明の第一種線心及び第二種線心に、「単線」が本件発明の第三種線心にそれぞれ対応する。)を分別し、四種類の符号の色によつて線番八個宛の四つのグループに分別し、その各グループにおいては八種類の絶縁被覆の色により各心線を識別する構成であることが認められ、前記のとおり、本件審決は、線心の種類を総称する言葉として「各種線心群」を、複数の線番(の心線)のグループを指称する言葉として「線番群」をそれぞれ用いており、これらの言葉の用い方が誤りとはいえない以上、第一引用例のものは、符号の種類によつて各種線心群を相互に分別し、該各種線心群を符号の色により線番群毎に分別し、単一色の絶縁被覆の色別によつて各心線を識別する構成であるということができる。そして、本件発明と第一引用例の構成を対比すると、両者は、心線識別の手段として、単一色の絶縁被覆の色だけでなく、符号の種類及び符号の色の三つを組合わせて用いており、少なくとも、符号の種類により各種線心の種類を分別し、各種線心のいずれにおいても符号の色により線番群毎に分別し、さらに絶縁被覆の色別を各心線の識別手段としているという限度において一致していることは明らかである。そうである以上、本件審決が認定するとおり、本件発明と第一引用例とは、「符号の種類により各種線心群を相互に分別し、該各種線心群を符号の色により線番群毎に分別し、単一色の絶縁被覆の色別を各心線の識別手段として用いる」という限度において一致しており、また、両者は、「単一色の絶縁被覆の色別だけでなく、符号の色のような別の識別手段で各種線心群を線番群毎に分別し、絶縁被覆の色別と別の識別手段との組合わせにより各心線の識別を行なう」点において差異がないとすることも可能であり、両者の一致点に関する本件審決の認定に誤りはない。原告の主張は、本件審決が「各種線心群」なる言葉を多義的に用いていることが誤りであり、また、「線番群」の意味につき同一符号を有する心線の集団であると限定的に解すべきであるということを前提とするものであり、その前提が採用できないことは、前(一)において説示したとおりであるから、原告の主張は失当といわざるをえない。
(2) 前掲甲第二号証の一、二、甲第四号証によれば、本件発明は、例えばその実施例の基本構成において、八種類の符号の形状、二種類の符号の色、及び五種類の絶縁被覆の色を組合わせて八〇本の心線を個別に識別するものであり(別紙図面(乙)第一図のA及びB参照)、第一引用例は、三種類の符号の形状、四種類の符号の色及び八種類の絶縁被覆の色を組合わせて九六本の心線を個別に識別するものである(別紙図面(乙)第四図のA及びB参照)ことが認められるから、本件発明も第一引用例も、多数の心線を識別するための手段として符号の形状、色及び絶縁被覆の色を組合わせて用いるという着想に基く構成であることにおいて特段の差異はなく、ただ、前記のとおり、本件発明が同一種線心につき線番群毎に符号の種類(形状)を異ならせ、符号の種類により線番群を分別するのに対し、第一引用例は同一種線心につき同一の符号を付するものであつて、符号の種類により線番群を分別する構成ではないという点において両者の間に相違のあることが明らかである。しかしながら、成立に争いのない甲第六号証(乙第一号証)によれば、第二引用例には、ケーブル心線識別用の符号として図形、文字あるいは短点と長点のパンチング(打印)の組合わせ等を使用することによつて多くの違つた表示が可能であること並びにケーブル心線を識別するためにテープの色、絶縁被覆の色及びパンチングの形状(それぞれ本件発明における絶縁被覆の色、符号の色及び符号の種類に対応する。)を多様に組合わせることが可能である旨記載されていることが認められ、したがつて、第二引用例は、心線識別のために用いる符号の種類、符号の色及び絶縁被覆の色の組合わせ方を適宜変更しうることを示唆しているものである。そして、第一引用例において、九六本を超える多数の心線を個別に識別しようとする場合、符号の色及び絶縁被覆の色をすでに合計一二種類使用しているから、符号の形状を三種類にとどめることなく、これを増加し、例えば、符号の形状をさらに三種類追加して、同一種線心の線番33ないし64のグループに線番1ないし32のグループとは異なる符号を用いれば(但し、符号の色と絶縁被覆の色との組合わせ方は線番1ないし32のグループと同じくする。)、さらに九六本、合計一九二本の心線を識別しうるようになることは自明であつて、右のように構成することは必要に応じて適宜なしうるものであり、これが困難であるとの事情を窺うことはできない。したがつて、本件発明における如く、同一種線心につき線番群毎に符号の形状を異ならせ、符号の種類により線番群を分別する構成とすることは、第一引用例及び第二引用例から容易に想到しうるものというべきである。
なお、原告は、本件発明が同一種線心につき二つ以上の符号を選定して使用したことをもつて、従来一つの事物を代表する符号は二つ以上あつてはならないとされていた固定観念を脱却した全く新しい着想である旨主張するが、一般に、多数の事物を個別に識別しようとする場合、同一種類に属する事物についてもこれらを複数のグループに分けて各グループ毎に異なる符号を付することにより識別の一手段とすることは、改めて例示するまでもなく、日常生活や科学技術の分野において従来から広く採用されている周知の事項であり、右原告主張の本件発明における着想が従来全く存在しなかつた新しいものであるとはいえず、右判断を左右するに足りる証拠はない。
(三) 作用効果について
前記甲第二号証の一、二によれば、本件発明の明細書には、本件発明が原告の主張する(イ)ないし(ニ)の作用効果を奏するものとされていることが認められるが、前記認定のとおり、第一引用例の心線識別方式もその構成上多量の心線を容易に識別することが可能であつて、本件発明の(イ)、(ロ)、(ニ)と同様の作用効果を奏することが明らかであり、また、前掲甲第四号証によれば、第一引用例には、ビニール絶縁被覆が施されたこの新しい線が識別上の特色を有するばかりでなく製造費も安い旨記載され、本件発明の(ハ)と同様の効果があるとされていることが認められる。したがつて、原告が主張する本件発明の作用効果(イ)ないし(ニ)は、第一引用例においても収めうるか、少なくとも第一引用例から当然に予測される程度のものであつて、特段顕著な作用効果ということはできない。
(四) 結論
以上のとおりであるから、原告の主張はいずれも理由がなく、本件発明が各引用例から容易に推考できたものであるとする本件審決の判断に誤りはない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕 特許請求の範囲は左のとおりである。
各線の単一色の絶縁被覆上に、短点数、長点数、あるいはこれらの組合わせ等よりなり、該絶縁被覆の色とは異なる単一色の符号を繰返し印刷し、該符号の種類により線番群並びに各種線心の種類を分別し、単一色の絶縁被覆の色別と該符号の色別とにより各線の識別を行ない、該符号の種類により各線の方向判別をも行ないうるケーブル心線並びに配線類の各線符号識別方式