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東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)134号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(一) 本件特許発明の特許出願公告を掲載した特許公報の「発明の詳細な説明」の項中の「復水排除弁が開弁中は弁と弁座の間隙を流れる流体の流速は、復水排水中よりも復水が排出完了して蒸気に代つたときの方が早くなる(復水と蒸気の比重量、粘性係数等の差により速度差が生ずる)から、弁と弁座との間隙の圧力は争激に低下し、変圧室内の蒸気圧力も負圧となるので、弁と弁座に吸収させる力が作用し、ピストン(又はベローズ)の下動は促進されて閉弁作用が容易に行はれ」るとの記載を総合すると、本件特許発明は、サーモスタチックスチーチームトラップにおいて、「変圧室に封入した液体の蒸発昇圧、冷凝降圧の圧力差」とともに、「弁と弁座との間隙を流れる復水と蒸気の速度差による圧力差」を積極的に利用するものであることが認められる。この認定をくつがえす証捜はない。

(二) 他方、引用例について考えるのに、引用例には、「弁と弁座との間隙を流れる復水と蒸気の速度差による圧力差」の利用につき、何ら記載するところがないことは、当事者間に争いがない。しかしながら、同時に、一般に弁間隙を流れる流体が蒸気である場合にはそれが復水である場合よりも流通速度が大きく圧力の低減が大であることは、技術者の当然理解している事項であることも、また当事者間に争いがなく、かつ、引用例のスチームトラップにおいても、弁と弁座との間隙を流れる復水と蒸気との速度差によつてある程度の圧力差の生ずることは、原告自身の認めて争わないところである。

(三) もつとも、引用例ににると、引用例のものの構造は甲第二号証中の添付図面に示されたものの構造とは多少趣を異にし、膨張型ベローズGの円錐弁体Hが復水溜中に直接露出しているものであることが認められる。しかしながら、その点について格別の反証のない本件にあつては、叙上引用例のごとき構造のものにおいては先に述べた速度差によつて生ずる圧力差が著しく減殺され、弁の開閉に奏効するところがないと断定することはできない。のみならず、先に認定した本件特許発明の要旨によると、本件特許発明が、右引用例の構造のように弁体を復水溜中に露出する構造のものを除外することを要件としたものと解することはできないし、叙上圧力差の利用のため引用例には見られない格別の構成を採用しているところも看取することができない。

(四) そうすると、先に認定したとおり、引用例は前述した速度差による圧力差の利用について特に明記するところはないが、この点について本件特許発明と同様な作用効果を奏しているものと認められるから、これと同趣旨の認定をした本件審決を違法であるということはできない。

(五) 原告は引用例の装置は、甲第五号証の三の説明の対象となつている装置と類似するところ、甲第五号証の三には、かかる圧力差が閉弁の作用をする旨記載されていない旨を主張する。なるほど、成立に争いのない甲第五号証の三によると、同証の説明中にはかかる圧力差の弁開閉作用に対する関係についての記載がないことは認められるが、そのゆえをもつてその圧力差が開閉弁作用に関係していないことを述べているものとは解せられないのみならず、甲第五号証の三の説明の対象となつている装置が引用例と類似した装置であることを認定するに足りる確証はない。したがつて、甲第五号証の三の存在は、前記認定を左右するものとはいえない。

(六) さらに、原告は、本件特許発明における実施例の構造において通路Cが設けられたことにより、前記圧力差を閉弁に十分有効に利用することができる旨強調する。しかし、前認定の本件特許発明の要旨および前顕甲第二号証によると、通路Cの存在はあくまでも本件特許発明の実施例として記載されているにすぎないことが明らかである。したがつて、右通路Cの存在は本件特許発明の構成要件であるとはいえないから、かりに右通路Cの存在により格別の作用効果を生ずるとしても、この点に関する原告の主張は到底採用することができない。

三 以上述べたとおり、本件審決には、原告主張のような違法はなく、したがつて、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却する。

(服部高顕 石沢健 奈良次郎)

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