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東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)92号 判決 1979年7月31日

原告 古川仁郎

被告 特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和四四年七月二八日、同庁昭和四二年審判第六二三五号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四〇年七月八日、特許庁に対し、別紙(一)のとおり「夕刊日曜」の文字を縦書きした商標について、第二六類新聞、雑誌を指定商品として登録を出願したが、昭和四二年六月二九日付で拒絶査定を受けた。そこで、原告は、審判の請求をしたところ、昭和四二年審判第六二三五号事件として審理されたが、昭和四四年七月二八日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決がなされ、その謄本は同年八月一三日原告に送達された。

(二)  審決理由の要旨

本願商標、その指定商品および登録出願日は前項記載のとおりである。

これに対し、登録第七三二二六七号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙(二)のとおりゴシツク体で「日曜夕刊」の漢字を横書きしてなるもので、第二六類印刷物を指定商品として昭和三九年一二月一〇日登録出願がなされたものであるが、その後指定商品を第二六類新聞と補正して、昭和四二年一月三一日登録がなされたものである。

そこで、両商標の類否について検討するに、両者の構成は前記のとおりであるから、外観の点においては、前者は後者の類似の範囲を脱する差異があるものと認められる。

しかしながら、これを称呼及び観念の点からみるときは、両商標を構成する文字中の「夕刊」の語については、辞書を繙くまでもなく、われわれが日常の経験によつて、「朝刊」(朝に発行される新聞)に対して「夕方に発行される新聞」を認識し、理解するものといわざるをえない。そこで、前記意味合を有する「夕刊」の文字を両商標の指定商品との関係において考えてみるに、該文字は、単に商品(新聞)の発行間隔を表わすものにすぎなく、たとえ、両商標中の「夕刊」の文字が、「日曜」の文字の前後にあることに関係なく、取引者、需要者は「日曜」の文字を顕著に印象するものと認められるから、両商標中自他商品の識別標識としての機能を有する部分は「日曜」の文字にあるというを取引の経験則に照らして相当とする。

してみれば、この「日曜」の文字からは「ニチヨウ」、「日曜」の称呼及び観念を生ずることは明らかであるから、両商標は、この点において誤認、混同を生ずるおそれ十分な類似の商標たるを免れない。のみならず、両者の指定商品においても互に牴触するところがある。

したがつて、本願商標は、商標法第四条第一項第一一号に該当し、同法第一五条第一号の規定によつて、本願商標の登録を拒否した原査定は相当であつて、これを取り消す限りでない。

(三)  審決を取り消すべき事由

本願商標の構成とその指定商品、引用商標の構成とその指定商品が審決認定のとおりであることは認めるが、審決は、次のとおり違法であるから取り消さるべきである。

1(1) 出願商標は商標法第四条第一項第一一号に該当するから商標登録を受けることができないとした審決は、その取消訴訟の事実審の口頭弁論終結時に引用商標が登録されていなければ違法と判断さるべきである。

(2) 本件の場合、原告は、特許庁に対し、引用商標が使用されていないことを理由としてその商標登録を取り消すことについて審判を請求していたところ(昭和四五年審判第一〇五八号)、昭和五三年五月八日特許庁において引用商標の商標登録を取り消す旨の審決があり、右審決は同年七月七日確定し、同年一〇月二〇日引用商標は商標登録原簿から抹消された。

(3) したがつて、このような引用商標と本願商標を対比し、本件審判請求を成り立たないとした審決は違法である。

2 かりに右の主張が認められないとしても、本願商標は引用商標と類似しているとはいえないから、類似しているとした審決の判断は誤りである。

(1) 審決は、両商標中自他商品の識別標識としての機能を有する部分は「日曜」の部分にあるとしているが、本願商標と引用商標の指定商品は新聞や雑誌であるから、それぞれ、「夕刊日曜」、「日曜夕刊」と、「日曜」の部分と「夕刊」の部分が不可分のものとして認識され、しかも定期刊行物の題号として認識されて特段の観念を有しないとみられるし、そうでないとしても定期刊行物はそれぞれ内容が異なり、それぞれの読者層を有することによつて取引されるものであるから、異別に観念されるものである。

したがつて、本願商標と引用商標が観念上類似しているとはいえない。

(2) 本願商標の称呼は「ユウカンニチヨウ」であり、引用商標の称呼は「ニチヨウユウカン」であつて、本願商標と引用商標は称呼上非類似である。

しかも、審決は、本願商標と引用商標を比較して「……この点において誤認、混同を生ずるおそれ十分な類似の商標たるを免れない。」として本願商標の商標登録を排斥するのに商標法第四条第一項第一一号を適用しているが、商品の誤認混同は同条第一項第一五号、第一六号の問題であるから、本願商標と引用商標の類否を右誤認、混同をもつて論ずる審決は判断を誤つている。

二  被告の答弁

(一)  請求の原因(一)(二)の事実は認める。

(二)  請求の原因(三)について

審判請求が成り立たないことは審決理由に示されているとおりであり、審決には何らの違法もない。

1 について

(2) の事実は認めるが、本件審決当時、引用商標は有効に存在していたから、本件審決は適法になされたものというべきで、原告の主張するような後発的事由によつて違法とされることはない。

2 について

(1) 商標を観察する場合にはまず商標のもつ機能を念頭におくのが常識的であるところ、例えば「アサヒビール」、「扇雀飴」、「ナシヨナルテレビ」がそれぞれ「アサヒ」印のビール、「扇雀」印の飴、「ナシヨナル」印のテレビというような認識のもとに観察されると同じように、「夕刊日曜」「日曜夕刊」における「夕刊」も、右「ビール」や「テレビ」の語が当該商品の名称を表わすものであると同様に、「新聞」の発行時限を表わす言葉として日常普通に使用されるところであるから、それ自体商標としての機能を果さないものであり、したがつて両商標において自他商品の識別機能を有する部分は「日曜」の文字にあること明白であるから、審決において両商標が称呼および観念上類似し、またその指定商品も牴触するものであるとした点に誤りはない。

理由

一  請求の原因(一)(二)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。

1  まず、引用商標の商標登録は不使用による取消審決(確定)に基づきすでに抹消されているから、審決は違法である旨の主張について考えてみるのに、請求の原因(三)1(2)の事実は当事者間に争いがないけれども、本件のように出願商標につき商標法第四条第一項第一一号に該当するとして商標登録を受けられないとした審決の違法性判断の基準時は審決時であると解すべきであるから、その後引用商標の商標登録が不使用により取り消されたからといつて、その効力は遡及しない(商標法第五四条参照)のであるから、審決の適否に影響を及ぼさないと解すべきである。この点に関する原告の主張は独自の見解に基づくもので採用できない。

2  つぎに、本願商標と引用商標の類否についての判断の当否について考えてみる。

審決は、称呼及び観念について、両商標において自他商品の識別標識としての機能を有するのは「日曜」の部分のみにあると解し、両商標は右「日曜」の部分から生ずる称呼、観念を共通にしているから、類似するとの判断をしていることは明らかである。

しかしながら、両商標を対比すると、両商標において自他商品識別機能を有するのは前記「日曜」の部分のみであるという根拠に乏しく、一般に「夕刊」の語自体は「夕方に発行される新聞」という意味を有することから、両商標中の「夕刊」の部分の印象が稀釈化されがちであるということを考慮に入れても、「日曜」の部分のみが自他商品識別の機能を有する部分であると分断して解するのは相当ではない。何となれば、両商標はそれぞれ定期刊行物の題号でもあるため、全体として取引者、需要者に印象を与えるものであるから、全体として自他商品識別機能を有するとみるべきである。したがつて、まず称呼について考えてみるに、それぞれの構成からみて、本願商標からは「ユウカンニチヨウ」の称呼が、引用商標からは「ニチヨウユウカン」の称呼がそれぞれ生ずると考えられる。

しかし飜つて時期を異にして各商標の称呼に接したときに相紛れることがないかどうかについて考えるのに、「ユウカンニチヨウ」と「ニチヨウユウカン」では「ユウカン」の音が「ニチヨウ」の音の前にあるか後にあるかの差異があるに過ぎないので、両商標の称呼が相紛れるおそれがあることは明らかである。

そうすると、一般に定期刊行物は異なる読者層をある程度有することがあることを考慮に入れても、本件両商標の前記相紛れるおそれの程度からみて、両商標が称呼上類似しているとした審決の判断は結局正当として肯定できるものである。

なお、原告は、審決が「誤認、混同」という表現を用いている点を把えて審決を攻撃しているが、審決は両商標が相紛らわしいことを述べたものに過ぎないことは前後の文脈から明らかであり、右の表現は審決の判断に誤りがあることを示すものではない。

3  また、本願商標の指定商品は第二六類新聞、雑誌であり、引用商標の指定商品は第二六類新聞であることは前記のとおり当事者間に争いがないから、本願商標を使用すべき商品は引用商標の指定商品と同一ないし類似であることは明らかである。

4  そうすると、その余の原告主張、特に、定期刊行物の内容を表わす題号に一般商品の商標のような意味での観念があるかどうか、及びその類否の点について判断するまでもなく、本願商標は引用商標と類似するというべきであり、また本願商標の指定商品は引用商標の指定商品と牴触するから、登録できないとした審決は正当として是認でき、審決を取り消すべき事由はない。

三  よつて、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用は行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小堀勇 高林克巳 小笠原昭夫)

別紙(一)

別紙(二)

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