大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(行コ)27号・昭44年(行コ)25号 判決

すなわち、第一審被告主張の連合国最高司令官の指示に基づく処分が、たとえわが国の憲法の規定に反しても、これを講和条約発効前にさかのぼって無効とすることのできないことはいうまでもないことである。ところで、同指示の内容及びその適用範囲を理解するには、厳にその指示の意味内容を確め、それが憲法の規定に反することがないようにできるだけ限定的に解釈、適用するのが、わが国及びわが国民のとるべき態度でなければならない。次に、同指示の内容及びその適用範囲は、当裁判所に顕著な当時発表されていた同司令官からのわが国総理大臣宛数次の書かんにおける記載のみでは、必ずしも明瞭ではないけれども、当時その指示の内容及び適用範囲として政府が了解し、かつ、その実施に関して決定したものは原判決書添付・別紙(二)及び(三)に記載の各閣議決定に示されているとおりであることは、第一審被告がみずから主張するところであり、それらによれば、当時、わが政府は、右連合軍最高司令官の指示は、公務員にも適用されるものであること及び公務員が共産主義者またはその同調者で、官庁等の機密をもらし、業務の正当な運営を阻害するなどしてその秩序をみだし、またはそのおそれのある者をその地位から排除すべきことを指示されたと了解していたものと解されるのである。そうとすれば、右指示は、一般的に憲法第一四条の規定に反してまで、単なる共産主義者またはその同調者であることのみの理由で公務員をその地位から排除すべきことをわが国政府に命じたものではなく、それらの信条をもつほかに、さらに官庁等の機密をもらすなどその秩序をみだしまたはみだすおそれのある者を排除すべきことを命じたものと理解されるのである。もっとも、特定の公務員が右指示された者に該当するか否かの判断は、わが国の各当局者に委され、その秩序等をみだしまたはみだすおそれは、いわゆる抽象的な危険をもって足り、その公務員の属する官庁等において具体的に認定されるいわゆる具体的危険を要するものではない(そのことがいわゆるレッド・パーヂと称されるゆえんであり、具体的危険はあえてレッド・パーヂをまつまでもなく懲戒、分限上の措置で排除されうる。)ことは、これまた右各閣議決定等によって明らかである(なお右のいわゆる具体的危険の有無に言及した最高裁判所昭和三〇年一一月二二日言渡同庁昭和二九年(オ)第三五五号事件判決(民集九巻一二号一七九三頁)は、たまたま、具体的危険があると認定された事例にかかるものであって、抽象的危険のみでは足りないことまでをも示している事例ではない。)。そして、それら閣議決定等によれば、当時、日本共産党が公然と反社会的・反民主々義的、暴力的手段を用い、わが国の立憲政治を転覆するのに都合のよい状態を作り出すような社会不安をひき起そうと企てているとしているので、その認識からすると、あたかも日本共産党員であることは、同時に、官庁等の機密をもらすなどその秩序をみだし、またはみだすおそれのある者に該当すると認定し、前記指示によって公務員の地位から排除されるべき事由に該当するとしているかのようにみられないでもない。しかし、もし、そうとすれば、その排除の根拠法令をあえて国家公務員法に求めるならば、同法第三八条第五号を摘示し、同号所定の事由に該当することを理由として同法第七八条第三号を適用するのが自然であるのに、右第三八条の摘示をしないで単に第七八条第三号のみを根拠法条としているところからすれば、やはり、単に共産党員であることだけで、同時に前記のように秩序をみだしまたはみだすおそれのある者と認定してはおらず、その認定のためにはそのような秩序をみだし、またはみだすおそれがあるとの附加事由を必要としていたものと解される。そのことは、また、当時日本共産党はいわゆる非合法政党ではなく、それ自体としてわが国政上政党活動をすることが公認されていたことは公知の事実であること及び前記司令官の指示内容等を理解するのに重要な資料であるとされた原判決添付・別紙(三)記載のエーミス労働課長の談話内容にも、いわゆる私鉄従業員についてではあるが、共産主義の積極的指導者等のみを排除の対象者として列挙していることからも明瞭である。

なお、最高裁判所昭和三五年四月一八日言渡同庁昭和二九年(ク)第二二三号事件判決(民集一四巻六号九〇五頁)によれば、前記連合国最高司令官が、前記指示の解釈について、直接最高裁判所にも指示をしたことが推察されるが、その指示の内容は、右事件に関する部分以外は当裁判所においてこれを知るよしもなく、右事件に関する部分は前記特別附加事由の有無及びその認定に関してはいないので、このことに関する理解は結局、前記各閣議決定等によらざるをえない。<中略>

定員法は、当時のわが国の経済及び公務員組織を再建、再編するための必要上制定されたものであって、それによる新定員を超えた過員をやむをえず整理、免職させる措置を講ずることとしたものであるから、それによる免職処分は、例えば懲戒または分限による処分とは全く異り、一定の要件が具備されなければ、することのできないもの、することを要しないものではなく、過員を解消して新定員に至るまで、定められた期限までには必ず果されなければならなかったものである。したがって、その整理に当って当局が定めた整理基準は、その実施の適正、公平を期するためのものであるにすぎず、いわば内部的な取扱基準であって、その基準に該当するか否かの認定が、ときに職場により、整理実施担当機関により、全国的視野からして結果的に必ずしも画一的に均衡が保たれていなかったとしても、また、その認定にかかる整理基準該当事由を処分に当って被処分者に告知することがなかったとしても、それらによって処分自体を当然に違法、無効とすることはできず、事業所毎の過員の状態、仕事の質、量、人員構成上のつり合い、職場規律の状態、また、各職員毎の年令、勤務年限、能力、素養、勤惰等が綜合的、相対的に考慮され、そのうえに多数、多岐に亘る整理実施担当機関及びその構成員の個性の相違等も影響することはやむをえないことであり、その結果、特定の事例を摘出して比較した場合に、ときに非情、過酷と思われる事態の生ずることや派ばつ的、信条的差別感を招来することも免れず、そうかといって、その結果について行政上の救済措置を求め、または行政的に、さらに政治的に批判追求することは別として、全国数万人の職員を対象として、残留者、任意退職の勧告を受けた者、被処分者等のすべてを通じ、処分の適否を逐一比較検討して司法的是正の措置をとることはできない。

したがって、定員法実施による免職処分が不当、違法であるとして、無効とされうる場合は極めて限定され、その処分が無効とされるとすれば、それが、(イ)無権限の者によってなされた場合、(ロ)根拠となる定員法に基づかない場合、(ハ)同法に基づく権限のある者の処分とはいえない程に他の目的に悪用され、または私的に乱用された場合が考えられるにすぎない。そして、本件が右の(イ)、(ロ)に当る場合でないことは前出当事者間に争いのない事実自体から明らかなことであって、問題があるとすれば、右(ハ)の場合であるが、本件ではその場合に当る事情も結局、ないと判断するのほかはない。

(畔上 岡垣 兼子)

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