東京高等裁判所 昭和45年(う)1573号 判決
被告人 小島壮介
〔抄 録〕
所論は、原判決は、起訴状の訴因に含まれない暴行、傷害の事実を認定し、審判の請求を受けない事件について判決をした法令の違反がある、というのである。
そこで一件記録に徴し、原判決認定の事実と起訴状記載の訴因とを対比考察すると、所論指摘のように、原判決は、右の訴因(俵木裕光に対するものとしては、同人の顔面を手掌で数回殴打し、これにより左眉部挫創、上口唇部挫滅創等の傷害を与えた)に全く記載されていない被告人の俵木裕光に対する新たな態様の暴行として、被告人が足で同人の左そけい部を蹴つた事実を認定し、その結果訴因に含まれない左そけい部打撲症を認定しているが、右の場合は被告人の同人に対する訴因記載の暴行による傷害と原判決認定のそれとは同一の機会に属するとはいえ、暴行の態様、傷害の部位を異にする検察官の主張しなかつた事実を付加して認定するもので、被告人側の防禦に実質的な不利益を与えるおそれのある重要な事実の変更にあたるものとして訴因の変更を要すると解すべきであるから、訴因変更手続を経ないで原判決が右事実を認定したのは、審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるものというべく、論旨は理由がある。而して原判決は、被告人の俵木裕光に対する傷害と俵木美咲子に対する傷害を併合罪として処断し、一個の罰金刑を科しているので、その全部について、破棄を免れない。
そこで、その他の論旨について判断するまでもなく、刑事訴訟法三九七条一項、三七八条三号により原判決を破棄し、なお本件は、当審において検察官が訴因を変更し、当裁判所において直ちに判決するのが相当である場合なので、同法四〇〇条但書を適用して、被告事件について、更に自ら判決する。
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和四四年三月一九日午後一〇時三〇分ころ、被告人の兄小島伸介と俵木裕光とが、右俵木が飯能市仲町七番二〇号の同人方居宅と隣家の右小島方居宅との間に板戸を立掛け通行を妨害したことに関し、右板戸付近で口論をした際、右俵木方裏庭で、同人に向い手拳でその顔面を数回殴打し、足でその左そけい部を蹴り、その結果同人に加療約二週間を要する左眉部挫創、上口唇挫滅創、鼻部打撲傷、前額部打撲傷、左そけい部打撲傷の傷害を与え、また、同人の妹俵木美咲子に対し手拳や平手で顔面を三回位殴打し、その結果加療約一週間を要する下額部打撲傷の傷害を与えた。
(江里口 上野 粕谷)