東京高等裁判所 昭和45年(う)2048号 判決
被告人 池田富夫
〔抄 録〕
職権で調査するに、原判決は起訴状記載どおりの犯罪事実を認め、「被告人は、ヽヽヽヽさきに口論となつた者の乗車する自動車を追跡するのに気を奪われて、一時前方を通行中の車両の状況等に注視しなかつた過失により折柄前方を同一方向に進行中の須永邦彦運転の普通貨物自動車に気付かず、同車後部に自車前部を追突させたうえ自車を右斜め前方に進行させ、対向車である田中隆男運転の普通乗用自動車に自車前部を衝突させ、うんぬん」と判示しているが、これによると、あたかも、被告人が、さきに口論となつた者の乗車する自動車を追跡するのに気を奪われて前方を進行中の他車に気付かずしてまずこれに追突させた後、さらに対向車に自車を衝突させたことになつている。しかし、原判決挙示の関係証拠中、司法警察員作成の検証調書(乙)のほか、警察技師染谷邦臣作成の交通事故現場図に照らすと、被告人車は、まず先行車の右後方から中央線を越えて対向車線内に入り、対向して来た田中隆男運転の乗用車の右前部に衝突した後、その衝撃で左方に寄りこんどは先行車である須永邦彦運転車両の右側面に接触して右に逸走をはじめ、ふたたび中央線を突破して道路右側の人家のトタン塀につつ込んで停車したことが明らかであるばかりでなく、被告人の司法警察員ならびに検察官に対する各供述調書を一読すれば、被告人が右側面に接触したという須永車こそはほかならぬ当初から被告人が追跡していた車両それ自体であることを容易に推知することができるのであつて、当審で証拠調をした電話聴取書(昭和四五年一二月一〇日付)は、右各事実を裏書するものと思われる。してみると、原判決は、本件事故の態様そのものの認定を誤つたものであつて(なお、原判決が本件各犯行の年月日を昭和四四年一月八日と判示しているのは、昭和四五年一月八日の誤記と認める。)、その結果は、判決に影響を及ぼすことが明らかであると思われるから、原判決は、この点で破棄を免かれない。
よつて、弁護人の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い当裁判所においてさらに次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
被告人は
第一、自動車運転の業務に従事するものであるが、昭和四五年一月八日午前一時四〇分ころ普通貨物自動車(埼四ろ四二三〇)を運転し、さきに口論した須永邦彦の運転する普通貨物自動車の後を追い、毎時約七〇キロメートルの高速度で草加市旭町四番地付近国道を東京都方面から越谷市方面に向つて北進中、右須永車を追跡するのに気を奪われ、自己の進路前方を充分注視し交通の安全を確認しながら進行すべき業務上の注意義務を怠り、対向車の来るのに気付かず、漫然対向車線内に入つて進行したため、おりから対向進出して来た田中隆男運転の普通乗用自動車の右前部に自車の前部を衝突させたうえ、その衝撃で自車を左斜め前方に進出させて、こんどは先行していた前記須永邦彦運転の普通貨物自動車の右側面に自車の左側面を接触させ、それらの衝撃によつて右田中隆男に加療約三週間を要する頸推鞭打症、同須永邦彦に加療二週間を要する左頭部、顔面挫傷等の各傷害を負わせ、
第二、呼気一リツトルにつき二、〇〇ミリグラムのアルコール分を身体に保有し、その影響により正常な運転ができないおそれのある状態で前記日時場所において前記車両を運転したものである。
(樋口 目黒 伊東)