東京高等裁判所 昭和45年(う)850号 判決
被告人 岡村忠
〔抄 録〕
論旨は要するに原判決は重過失傷害の事実(第二)を認定しているが、被告人の重大な過失の内容が不明確であり、本件はむしろ過失傷害(刑法第二〇九条)として処断すべきであるのに、これを重過失傷害罪に問擬した原判決は、審理不尽ひいては事実誤認の誤りを犯したものである、というのである。
しかし記録を調査すると、原判示重過失傷害(第二)の事実は、挙示の関係証拠により所論の点を含めすべて肯認するに十分である。すなわち右証拠によれば、原判示のように、被告人は、公安委員会の運転免許を受けておらず、運転技術も未熟であつたから、公衆に危害を及ぼすおそれのある、道路上における自動車の運転を厳につつしみ、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、あえて原判示日時場所において、普通乗用自動車を時速約四〇キロメートルで運転中、交差点の信号機に従い一時停止していた被害者小島トシ運転の普通乗用自動車を約六〇メートル前方に認めながら運転技術の未熟によつて制動措置を講ずるのがおくれたために、同車後部に自車前部を衝突させ、よつて同人に対し全治約六か月を要する頸部損傷、右側胸部打撲傷の傷害を負わせた事実が認められる。右のような事実関係のもとにおける被告人の過失(注意義務違反)は、極めて重く正に刑法第二一一条後段にいう「重大なる過失」に該当するものというべきであるから、本件につき刑法第二〇九条を適用することなく、同法第二一一条後段を適用処断した原判決は正当であり、所論の審理不尽、事実誤認の瑕疵は存しない。論旨は理由がない。
(青柳 菅間 酒井)