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東京高等裁判所 昭和45年(ウ)742号 判決 1970年11月27日

申立人

社団法人

産経倶楽部

代理人

神山欣治

外一名

被申立人

沢野サト子

外三名

代理人

内藤功

外二名

主文

当裁判所が当庁昭和四二年(ウ)第一、〇〇九号仮処分申請事件につき昭和四四年六月三〇日なした仮処分決定はこれを取消す。

申立費用は被申立人らの負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実および理由

申立人代理人は、主文第一、二項と同旨の判決ならびに同第一項に仮執行の宣言を求め、その理由として別紙、申立の理由に記載のとおり陳述した。

被申立人ら四名およびその代理人は、適式な呼び出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、また答弁書その他の準備書面を提出しない。

まず本件申立につき当裁判所が管轄を有するか否かを検討する。事情変更による仮処分取消申立事件の管轄は、当該仮処分を命じた裁判所の専属管轄に属し、ただ本案訴訟がすでに係属しているときは本案の裁判所の専属管轄に属するものとされているが(民事訴訟法第七五六条、第七四七条、第七六二条)、本案訴訟につき控訴裁判所の判決に対し上告が提起された場合には、原裁判所(控訴裁判所)が右上告の適否に関する法定の事項を審査する権限を有するため、訴訟記録が原裁判所に存するときは、事件はなお原裁判所に係属し、同裁判所が右にいわゆる本案の裁判所であると解するのが相当である。これを本件についてみるに、本件仮処分事件の申請人たる本件被申立人らは、該仮処分の本案訴訟たる当庁昭和四二年(ネ)第一、七三七号雇用関係存在確認事件につき、当裁判所のした控訴判決に対し上告を提起したけれども、本件申立のなされた当時には右上告の適否を審査するため前記訴訟記録はいまだ当裁判所に存しており、上告裁判所たる最高裁判所に送付していなかつたことは当裁判所に顕著な事実である。してみれば、本件申立当時、取消の対象である仮処分の本案訴訟は当裁判所に係属していたのであるから、本件申立は当裁判所の専属管轄に属するものというべきである。

そこで本件申立の理由についてみるに、被申立人らはいずれも民事訴訟法第一四〇条第三項の規定により申立理由たる事実を自白したものとみなすところ、その事実によれば、さきに当裁判所が当庁昭和四三年(ウ)第一、〇〇九号仮処分申請事件につき、昭和四四年六月三〇日なした仮処分決定(当庁昭和四四年(ウ)第五七三号仮処分異議事件につき昭和四五年七月一五日言渡の判決で認可したもの)に事情の変更を生じたものと認められる。(なお、前記事実によれば、本件仮処分決定により被申立人沢野は金七〇万〇、〇一八円、同徳竹は金六七万五、二七六円、同牛山は金六二万二、二三七円、同沢野は金六〇万四、五六一円の賃金支払いを受けうるものとされているところ、同人らは、右仮処分決定正本を債務名義とする昭和四五年七月二〇日の差押及転付命令が送達された結果、申立人の供託保証金中より被申立人沢野は金七〇万円、同徳竹は金六七万円、同牛山は金六二万円、同野沢は金六〇万円の各弁済を受けたものの、なお若干の残債権を有するが、被申立人らはすでに当庁昭和四二年(ネ)第一、七三八号事件の無担保仮執行宣言付の一部勝訴判決により本件仮処分決定による認容額以上の債務名義を取得しているため、右仮処分決定を維持すべき必要性も認められない。)

よつて、申立人の本件申立は理由があるのでこれを認容し、申立費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第九三条第一項、第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。(多田貞治 上野正秋 岡垣学)

(別紙)

申立の理由

一、被申立人ら四名は東京高等裁判所昭和四三年(ウ)第一〇〇九号事件の昭和四四年六月三〇日なされた仮処分決定正本に基く申請により東京地方裁判所昭和四四年(ル)第二九九六号、(ヲ)第三〇七二号事件において昭和四四年七月三日同地裁民事第二一部より別紙目録(一)記載の債権に対する「債権差押及転付命令」を得て前掲債権に対する差押を行なつたが、転付命令は同年七月一〇日取消決定があつた。

二、申立人は予てより右仮処分決定に対し異議の申立をしこれに伴い東京高等裁判所昭和四四年(ウ)第五七四号(仮処分異議事件による強制執行停止事件)の強制執行停止決定を得たのであるが、その際被申立人四名に対し別紙(二)目録記載の保証金を東京法務局に供託した。

三、その後東京高等裁判所第一民事部が右仮処分異議事件の本案訴訟たる昭和四二年(ネ)第一七三八号雇用関係存在確認控訴事件につき昭和四五年七月一五日被申立人ら一部勝訴の判決(仮執行宣言付)の言渡をなし、同日右仮処分異議事件(昭和四四年(ウ)第五七三号)につき判決をもつて右の仮処分決定を認可するに至るや、被申立人ら四名は、右一部勝訴の判決に基き、申立人がさきに東京法務局に供託した右保証金(供託金取戻請求権)に対する債権差押及び転付命令を申請し、東京地裁昭和四五年(ル)第二九二五号、(ヲ)第五八二三号事件の昭和四五年七月二〇日なされた債権差押及び転付命令を得て直ちに右保証金に対し差押及び転付命令の執行を了し、ここに被申立人沢野サト子は金七〇万円、同徳竹道子は金六七万円、同斎藤こと牛山喜美枝は金六二万円、同野沢治枝は金六〇万円の各金員を取得するに至つた。

四、ところで、さきの仮処分決定の主文第一項において申立人に被申立人らへの支払を命じている金額は次のとおりである。

すなわち

(1) 被申立人沢野サト子に対し昭和四〇年一一月一日より同四三年一〇月一一日まで一か月金一九、八〇〇円、

(2) 同徳竹道子に対し昭和四〇年一一月一日より同四三年一〇月一一日まで一か月金一九、一〇〇円、

(3) 同牛山喜美枝に対し昭和四〇年一一月一日より同四三年一〇月一一日まで一か月金一七、六〇〇円、

(4) 同野沢治枝に対し昭和四〇年一一月一日より同四三年一〇月一二日まで一か月金一七、一〇〇円

の各割合による金員である。

五、他方本案訴訟である前掲東京高裁昭和四二年(ネ)第一七三八号の被申立人一部勝訴の判決が主文第二項において申立人に被申立人らへの支払を命じている金額は次のとおりである。

すなわち

(1) 被申立人沢野サト子に対し昭和四〇年一一月一日から同四三年一〇月一二日まで一か月金一九、八〇〇円

(2) 同徳竹道子に対し昭和四〇年一一月一日から同四三年一〇月一二日まで一か月金一九、一〇〇円

(3) 同牛山喜美枝に対し昭和四〇年一一月一日から同四三年一〇月一二日まで一か月金一七、六〇〇円

(4) 同野沢治枝に対し昭和四〇年一一月一日から同四三年一〇月一三日まで一か月金一七、一〇〇円

の各割合による金員である。

六、そこで右四、の仮処分決定が支払を命じた金員と右五、の判決が支払を命じた金員を対比すると、被申立人らにつき夫々基準たる一か月分の金額すなわち金一九、八〇〇円(沢野分)、金一九、一〇〇円(徳竹分)、金一七、六〇〇円(牛山分)及び一七、一〇〇円(野沢分)並びに期間の始期(昭和四〇年一一月一日)は四、五、双方につき同一であり、唯僅かに違うのは終期の点が一日異なるのみである。すなわち、四、では被申立人沢野、徳竹、及び牛山につき昭和四三年一〇月一一日、野沢につき昭和四三年一〇月一二日であるのに対して五、では前三名につき昭和四三年一〇月一二日、後者につき同年一〇月一三日である。要するに、五、すなわち本案訴訟の東京高裁判決が申立人に支払を命じた金額は四、に比べて被申立人四名につき夫々一日分だけ多いものであることが明らかである。

七、そこで右四、又は五、の支払うべき金額を各人別に集計すると夫々次のとおりとなる。

すなわち

(1) 被申立人沢野に対して四、は金七〇〇、〇一八円、五、は金七〇〇、六五六円

(2) 同徳竹に対して四、は金六七五、二七六円、五、は金六七五、八九二円

(3) 同牛山に対して四、は金六二二、二三七円、五、は金六二二、八〇四円

(4) 同沢野に対して四、は金六〇四、五六一円、五、は金六〇五、六六三円

なお四、の四名合計金二、六〇二、〇九二円、五、の四名合計金二、六〇五、〇一五円となる。

八、ところで冒頭一、に前述したとおり前掲四、の債権保全のために被申立人らは昭和四四年七月三日の債権差押及び転付命令により別紙目録(一)記載の申立人債権五口すなわち

1、第三債務者三井銀行に対する債権

金六〇二、〇八二円

2、同  三井銀行に対する債権

金五〇〇、〇〇〇円

3、同  第一銀行に対する債権

金五〇〇、〇〇〇円

4、同  東海銀行に対する債権

金五〇〇、〇〇〇円

5、同  日本勧業銀行に対する債権

金五〇〇、〇〇〇円

右合計  金二、六〇二、〇八二円を差し押えた。しかるに被申立人らは前述のとおりその後さらに前掲五、の債権確保のため申立人の供託保証金つまり東京法務局に対する左記四口の供託金取戻請求権すなわち

(イ) 金七〇〇、〇〇〇円(沢野関係)

(ロ) 金六七〇、〇〇〇円(徳竹関係)

(ハ)金六二〇、〇〇〇円(牛山関係)

(ニ) 金六〇〇、〇〇〇円(野沢関係)

合計金 二、五九〇、〇〇〇円

に対する昭和四五年七月二〇日の差押及転付命令の送達によりこの金額は既に弁済を受けている(民訴法第六〇一条)。

九、以上をもつてすれば、前掲四、及び五、の債権はいずれも債権者、債務者及び発生原因を同じくするのみならず賃金の一日分相当額の相違あるのみに過ぎないものであり、つまり五、は四、を含むものに外ならず、従つて四、を含む五、の債務名義金二、六〇五、〇一五円によつて既に金三、五九〇、〇〇〇円の弁済ずみとなつていることは前述したとおりである。

そうだとすれば、五、の一部分である四、の被保全債権金額二、六〇二、〇九二円の保全のために前記八、の銀行預金債権五口合計金二、六〇二、〇八二円の差押を継続すべき必要性ないし緊急性は最早消滅してしまつたものというべきであり、仮に右の弁済金額合計金二、五九〇、〇〇〇円をもつてしては未だ四、の被保全債権金額合計金二、六〇二、〇九二円に満たないからとてその差額は僅かに一二、〇九二円(被申立人四名分合計として)極少額に過ぎず、それがためにこれと比較にならない多額の金二、六〇二、〇八二円の銀行預金債権の差押を継続すべき必要性ないし緊急性も存在しなくなつたものである。仮に百歩を譲り一二、〇九二円の極少額が未済であるために右仮処分決定全部の取消が許されないとしても、既に弁済ずみとなつた金二、五九〇、〇〇〇円の限度においては右銀行預金債権の差押を継続すべき理由は全く消滅したものである。

一〇、よつて前掲債権差押及び転付命令の送達により仮処分認可当時と事情を変更するに至り、前掲仮処分の必要性ないし緊急性は消滅したものであるから仮処分の取消を求める。

以上

目録(一)(差押える債権の種類と数額)

1、第三債務者株式会社三井銀行(東京都千代田区有楽町一丁目一二、代表者代表取締役板倉譲治。命令送達場所、東京都千代田区丸の内一丁目六株式会社三井銀行丸の内支店)に対する分

一、金六〇二、〇八二円也

但し、申立人が第三債務者に対して有する普通預金債権、通知預金債権、定期預金債権の順

2、第三債務者株式会社三菱銀行(東京都千代田区丸の内二丁目五の一、代表者代表取締役田実渉。命令送達場所、東京都千代田区大手町一丁目四株式会社三菱銀行大手町支店)に対する分

一、金五〇〇、〇〇〇円也

但し、申立人が第三債務者に対して有する普通預金債権、通知預金債権、定期預金債権の順

3、第三債務者株式会社第一銀行(東京都千代田区丸の内一丁目一の一、代表者代表取締役村本周三。命令送達場所、同上)に対する分

一、金五〇〇、〇〇〇円也

但し、申立人が第三債務者に対して有する普通預金債権、通知預金債権、定期預金債権の順

4、第三債務者株式会社東海銀行(名古屋市中区錦三丁目二一の二四、代表者代表取締役河島孝基。送達場所、東京都千代田区大手町二丁目四の二株式会社東海銀行大手町支店)に対する分

一、金五〇〇、〇〇〇円也

但し、申立人が第三債務者に対して有する普通預金債権、通知預金債権、定期預金債権の順

5、第三債務者株式会社日本勧業銀行(東京都千代田区内幸町一丁目一の五、代表者代表取締役西川正次郎。送達場所、東京都千代田区大手町一丁目四株式会社日本勧業銀行大手町支店)に対する分

一、金五〇〇、〇〇〇円也

但し、申立人が第三債務者に対して有する普通預金債権、通知預金債権、定期預金債権の順

目録(二)

申立人の東京法務局に対する供託金額、供託年月日、供託番号、相手方

一、(イ)供託金額 金七〇〇、〇〇〇円也

(ロ)供託年月日 昭和四四年七月一日

(ハ)供託番号 昭和四四年度(金)第四六、〇九一号

(ニ)相手方 沢野サト子

二、(イ)供託金額 金六七〇、〇〇〇円也

(ロ)供託年月日 前同日

(ハ)供託番号 昭和四四年度(金)第四六、〇九〇号

(ニ)相手方 徳竹道子

三、(イ)供託金額 金六二〇、〇〇〇円也

(ロ)供託年月日 前同日

(ハ)供託番号 昭和四四年度(金)第四六、〇八九号

(ニ)相手方 斎藤こと牛山喜美枝

四、(イ)供託金額 金六〇〇、〇〇〇円也

(ロ)供託年月日 前同日

(ハ)供託番号 昭和四四年度(金)第四六、〇九二号

(ニ)相手方 野沢治枝

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