東京高等裁判所 昭和45年(ネ)1306号 判決
(1) 被控訴人はまず、控訴人の本件土地建物の使用につき用法違反を主張(原判決三枚目裏七行から四枚目表五行までに記載のとおり)するが、この主張の理由なきことは、前記認定の本件賃貸借の目的に照して明らかである。
(2) 成立に争のない乙第八号証、被控訴人所有家屋と庭の写真であることに争ない乙第九号証、本件係争地の空地の写真であることに争ない同第一〇号証、原審証人田中雄三の証言により、目黒通りから見た被控訴人所有地の一部の写真であると認められる同第一一号証、被控訴人方南側道路から同人方の塀を見た写真なることに争ない同第一二号証、成立に争ない乙第一三号証、原審証人市川歌子の証言、原審における被控訴人の供述によれば、被控訴人は、本件土地の隣りに広い邸宅をもつているが、弟の市川博厚が幼少時に交通事故によつて受けた怪俄による歩行困難(この事実は当事者間に争いがない)のため、工業高校を卒業したが、他に就職することができない状態にあるので自宅に隣接し、目黒通りに面した本件土地建物を用いて博厚に自立できる仕事をさせたいという切実な希望をもつていることが認められる。
(3) 当審証人倉橋総八の証言により真正に成立したと認められる乙第一四号証、原審及び当審証人蒲徳広、当審証人倉橋総八の各証言、原審における鑑定並びに検証の結果によれば、「本件家屋はいずれも木造モルタル塗セメント瓦葺平家建の間口、奥行各約四間の方形の建物で、下級の用材で車庫として建築され、しかも建築後三〇年以上を経ており、昭和三九年一二月施行の原審検証当時A・B二棟(いずれも原判決物件目録添付図面の表示による。以下同じ。)は棟木中央が若干湾曲してたるんでおり、G棟は表通りの壁面が破損し、巾一〇センチメートル、長さ約三メートルの板が巾約一〇センチメートルづつの空隙を以て応急的に縦に打ちつけられている状況であり、同四〇年四月施行の原審鑑定当時ABDEFG各棟は基礎コンクリート以外の主要部分、即ち土台、柱、梁、小屋組、屋根、野地、垂木、外壁等に腐朽部分が多く大修理の必要があり、その修理に関連して全面に亘る修繕も要し、修繕費として当時の価額で坪当り約四万円(新築に要する費用の約八割)を要するものと算定され、総合して直ちに倒壊の危険を伴う程のものではないが、腐朽度は可成り高かつたこと。そして本訴第一審係属中の昭和四四年九月頃控訴人が右建物を修理したがそれはBDEの各棟の屋根が部分的にさがり、雨漏りし、建物として充分に使用できず、人の出入りに危険が感じられたためで、屋根のセメント瓦をはがし、下のたる木、もやを取替えて瓦を葺く修理をしたものであり、ついで翌四五年五月頃A棟の屋根の雨漏りがひどかつたので瓦をはがし、痛んだ個所を補修して瓦を乗せる修理をしたこと。」が認められる。
(4) 成立に争のない甲第一、第三号証、原本の存在ならびに成立につき争のない甲第四号証、成立に争のない乙第五号証の二、原審証人市川清蔵、同蒲徳広、同田中雄三の各証言、原審における控訴会社代表者吉田貞臣尋問の結果を総合すると、控訴会社は、都内に八つの営業所と一つの梱包工場をもつて貨物自動車運送、同運送取扱荷物梱包事業等を営み、本件土地建物をそのうちの一つの下目黒営業所として使用しているが、この下目黒営業所は控訴会社の営業所の最大のもので、従業員約八〇名で大型トラツク、小型トラツク併せて三〇台以上を常備して控訴会社の営業の重要な一部を担当し、本件土地建物をその駐車場事務所、車庫、従業員の仮泊所、休憩所、自動車修理工場などとして使用していること、右下目黒営業所の得意先はすべて本件土地の近くにあり、また本件土地は都内の目黒通りに面し東名高速道路にも近く、貨物自動車による運送事業を営むについて好適の位置にあること、他方控訴会社は昭和四三年四月一日東京都南西地区トラツク事業協同組合から同組合所有の大田区平和島五丁目埋立地の土地のうち一六五三・〇四一一平方メートルの区画を自動車車庫として使用する目的で同四八年三月末日まで五カ年、利用料一カ月一平方メートル当り金一〇円、同地上に建物を建築するときは右両名名義を以て建築しうべき特約付で賃借し、同時に同所にある同組合事務所の二階の一部をも事務所として賃借したこと、同所は巾員の広い、自動車の自由に出入できる道路に面し、控訴会社の事業の遂行に適していると考えられるにも拘はらず、控訴人はこれを賃借以来全く使用せずに放置していること、もつとも東京都南西地区トラツク事業協同組合との間の右土地賃貸借契約は、控訴会社が貨物自動車運送事業の監督官庁(陸運事務所)から事業の認可を受ける都合上締結したものであること、同組合は組合員の共同施設設置の目的で右土地を所有しているものであるため、同組合所有の土地の一部を区画して単独の組合員に使用させることができるかどうかは疑問と考えられているが、いずれにしても、控訴会社は、同組合に対し、以後右土地の使用料を払つており、右土地をいつでも使用することが可能であるに拘わらず使用せずに放置していること、がいずれも認められる。
(5) 原審証人市川歌子、同蒲徳広の各証言、原審における被告東横モーター有限会社代表者花房金三郎および原審における控訴会社代表者吉田貞臣の各尋問の結果ならびに本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、控訴会社は昭和二八年頃から最近に至るまで被控訴人に無断で本件建物のうちのE棟を原審被告東横モーター有限会社に賃貸し、同会社がこれを自動車修理工場として使用していたこと、同会社は主として控訴会社の自動車の修理を営むために設立されたものであるが、そればかりでなく他社の車の修理をも引受けていたこと、が認められ、また原審及び当審証人市川歌子当審証人蒲徳広(一部)の各証言によれば、「控訴人は本訴第一審係属中の昭和四四年秋頃及び翌四五年春頃控訴人が本件第一審敗訴判決を受けた前後にかけて、被控訴人からかねて控訴人が本件建物に手を加えることに異議を述べていたにも拘はらず、これを無視して前記のとおり本件建物のうち三棟の屋根の瓦をはがし、下のたる木、もやをとり替えて瓦を葺き、ついで他の一棟も雨漏り修繕のため屋根瓦をはがして痛んだ個所を補修する等大がかりな修理をした。」ことが認められ、右認定に牴触する当審証人蒲徳広の証言はたやすく採用できないところである。
(6) 以上によれば、本件建物は既に老朽の域に達し、控訴会社としては、この建物賃借の目的をおおむね達成したものと考えられるのみならず、本件土地使用の必要性は、どちらかと云えば、被控訴人の方が高いと云わなければならないうえ、控訴会社には前記(5)に認定したような不信行為もあつたことを考え併せると、本件賃貸借は、被控訴人が原審第二九回口頭弁論期日(昭和四五年二月一二日)において、弁論をすることによりその更新拒絶の意思を表明したと解される時点までには、更新拒絶につき正当事由を具備するに至つたものとみるのが相当であり、したがつてその期間の満了日の同年一一月三〇日の経過をもつて賃貸借が終了したと認むべきである。
(松永 長利 小木曾)