東京高等裁判所 昭和45年(ネ)240号 判決
控訴代理人は東京地方裁判所昭和四三年(ワ)第八二号建物明渡等請求事件について同裁判所が昭和四四年一二月一九日に言い渡した判決に対し控訴を提起したが、本件記録によると、控訴代理人が原審における控訴人の訴訟代理人として原判決の送達を受けたのは同年一二月二五日であり、本件控訴状が当裁判所に提出されたのは右送達の日から控訴提起期間として定められている二週間を経過した後である昭和四五年一月三一日であることが認められる。
ところで、昭和四五年一月三一日付の控訴代理人提出にかかる上申書によると、控訴代理人は昭和四四年一〇月二三日東京高裁からの帰途高血圧にて倒れ、以後重態に陥り絶対安静が続き、その後容態も少しよくなつたが、再び一二月二〇日倒れて現在まで引き続き安静加療中のところ、その間七〇件余りの関係事件の復代理選任および期日の延期等の処置に困難をきたし、本件原判決正本の送達されたことに気付かなかつたため控訴期間を徒過してしまつたので、右懈怠した訴訟行為を追完する旨の記載がある。
しかしながら、訴訟代理人は、その職務の重要性にかんがみれば、常に周到な注意をもつてその委任事務の処理にあたらなければならないのであるから、疾病その他不慮の事故のため自から執務できない場合をも予想してあらかじめその事務員、家族その他に対し臨機の措置を指示しておき、委任事務の処理に万全を期すべき義務があるものと解するのが相当である。そして、本件記録によれば、控訴代理人は昭和四四年一〇月二〇日午後一時の原審第一二回口頭弁論期日に出頭し、同日弁論が終結されて判決言渡期日として昭和四四年一二月一九日午後一時が指定告知されたこと、右判決言渡期日には控訴人本人が出頭して原判決の言渡を受けたことが認められ、他方、前記控訴代理人の主張によれば、同代理人は同年一〇月二三日高血圧にて倒れたが一時は少し回復し、その後再び同年一二月二〇日に倒れたというのであるから(前記原判決言渡期日は右小康状態の最終日にあたることが窺われる。)、とくにこのような事情のもとにおいては、控訴代理人において病気再発前に万一の再発の場合に具えて十分の対策を講じておき、控訴代理人の関係する七〇余件の訴訟事件の復代理人の選任や期日の延期申請等の措置のうち、最も優先的に本件事件の判決の結果に留意して、敗訴の場合に控訴代理人に事故あるときに対処するため、事務員、家族はもとより当事者本人ともよく連絡をとつておき、復代理人を選任するか、または他の代理人に委任して控訴を提起する等の方策をあらかじめ準備しておくべき職務上の義務があるというべきであつて、原判決の送達に気付かなかつたため控訴期間を徒過したことについては控訴代理人の過失の責を免かれないし、まして、本件においては、前記のように控訴人本人が原判決言渡期日に出頭して敗訴判決の言渡を受けていることからすれば、爾後の措置につき控訴期間を懈怠するに至つたことには控訴人本人の過失のそしりを免れないところである。これら諸般の事情からすれば、本件控訴期間の懈怠について民事訴訟法第一五九条にいう当事者の責に帰すべからざる事由によつて不変期間を遵守することができなかつた場合には該当しないものと解すべきであるから、控訴人が右懈怠した控訴提起行為を追完することは許されない。
(桑原 高津 浜)