東京高等裁判所 昭和45年(ネ)643号・昭45年(ネ)619号 判決
本件物件の相当賃料について考察する。相当賃料は、借家法第七条所定の諸契機を考量し、具体的事実関係に即して確定さるべきものであるが、それには客観的に算定された基準賃料に従来の契約内容、経緯、契約の継続期間、従来の賃料の増額の経緯、近隣の家屋の賃料等の種々の事情を勘案して補正を加えて算定するのが相当である。
当審における第一審原告代表者の尋問の結果により成立が認められる甲第四号証の一ないし三、原審証人米田敬一の証言、原審における鑑定人米田敬一の鑑定の結果によれば、米田鑑定は、本件物件の価格三七七万七、九六〇円、土地利用権の価格(地価の七〇%)四、二五二万五、〇〇〇円、以上合計の土地利用権を含んだ本件物件の価格四、六三〇万二、九六〇円であつて、賃料の基準となる借家権(三〇%)を控除した額は三、二四一万二、〇七二円となり、地代相当額を含まない純賃料相当額は、二五九万二、九六五円(期待利廻り年八%)、それに地代三七万九、六八七円、必要諸経費(償却費、保険料、固定資産税額、管理費)七六万四、二三六円を加えると、賃料年額は、三七三万六、八八八円、月額三一万一、四〇〇円と評価していること、右評価においては、借家権については争訟中であることを理由にその価格を建物の価格の三〇%と計算したが、争いのない場合には五〇%が相当であることが認められる。本件物件の賃貸借については、返還請求訴訟について第一審原告の敗訴判決が確定し、権利関係に争いのないことは、第一審原告の自陳するところであるから、借家権価格を建物(土地利用権を含む。)の価格の五〇%相当として前記計算方式により計算すれば、本件物件の賃料年額は二九七万三、一二八円、月額二四万七、七六〇円となることは、計数上明らかである。なお、前顕甲第三号証、同第四号証の一ないし三、当審証人矢沢伸元の証言によれば、矢沢伸元は、本件物件の賃料を次の如く評価していること、即ち、土地価格七、一〇四万三、〇〇〇円、建物三五七万六、〇〇〇円につき期待利廻りをそれぞれ年六%、一二%として算出した合計額(純賃料相当額)四六九万一、七〇〇円に必要諸経費九七万〇、〇五一円を加えれば、積算賃料(新規賃料)年額五六六万一、七五一円、月額四七万一、八一二円となり、不動産賃貸借一般の実情、家主価格を基礎とする試算賃料月額三三万六、三九五円の額、近隣の賃料水準等を総合的に比較考案して本件継続賃料を前記新規賃料の七〇%と判断して、月額三三万〇、二六八円と評価したこと、又新規賃料に対する継続賃料の比率は、事情によつて必ずしも一様でないが大体六〇%ないし九〇%と考えられることが認められるが、右比率を五五%ないし六〇%とすれば、賃料月額は二五万九、四九六円ないし二八万三、〇八七円となり、前記二四万七、七六〇円に近い数値を得ることは計数上明らかである。以上の次第であるから、本件物件の客観的に算定された賃料としては、月額二四万七、七六〇円を採用すべきものと考える。
そこで前記認定の第一審被告が、八四〇万四、六八七円の修理費を支出して本件建物を使用に耐えるようにし、前記価格を維持している事実、右修理費のうち類焼補修費五〇〇万円を除く三四〇万四、六八七円が契約に基づき第一審被告の負担すべき修理費だとしても平均年額二三万四、八〇〇円である事実、従来の賃料改定の経緯、本件物件の賃貸借契約の継続期間等の諸事情を勘案して前記認定の評価額に補正を加えて判断すると、本件物件の昭和四二年七月当時の相当賃料額は、月額二〇万円をもつて相当というべきである。
しこうして、右賃料額は、昭和三九年一月一日からの賃料一六万円の一、二五倍であるところ、前顕甲第三号証によれば、昭和四五年四月以降の賃料は、昭和四二年七月の一、一五倍程度と考えるべきであることが認められるから、前記増額率は当を失していないものということができる。
(石田哲 小林定 関口)