大判例

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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)835号 判決

森本貿易は、銀行に対して信用状を開設する能力がなかつたため、昭和四一年秋ころから控訴人に輸入代行を依頼し、同人を介して人毛等の輸入を行なつてきたものであるが、昭和四二年九月ころには千七、八〇〇万円の負債を負い、経営が思わしくない状態にあつたため、本件人毛を買付ける資力がなくこれを訴外五第科研株式会社に直ちに転売する約束のもとに右訴外会社から金一〇六万円及び金一一五万円の約束手形二通の交付を受け、これらとともに自己振出の手形五通合計金額六〇六万円の約束手形を被控訴会社に交付したものであるが、他方控訴人は右訴外会社に対し約千二〇〇万円の債権を有し、同年九月はじめころそのうち約四〇〇万円について弁済期が到来したにも拘らず、右訴外会社の経営悪化により支払いを受けられずその支払能力について危惧の念を抱いていた矢先、同年九月一六日ころ本件人毛が右訴外会社の手中に入つたことを知るや、控訴人は右人毛をもつて自己の右訴外会社に対する債権の一部を回収することを企て、右訴外会社の代表者森本光雄に本件人毛の引渡しを要求したところ、右森本は、もし本件人毛を控訴人に対する債務の弁済のために同人に提供するならば、すでにこれを転売することを約してその代金として前記合計金二二一万円の約束手形の交付を受けている五第科研株式会社に対して本件人毛の引渡義務の履行ができなくなり、被控訴人に対してもこの代金として交付した約束手形七通について期日に支払いができなくなるばかりでなく、右会社にとつて相当高価な商品である本件人毛を控訴人の既存債権のみの弁済に提供するときはそれだけ債権者一般を不利に陥しいれる結果になることを知りながら、あえて控訴人の要求をいれて同年九月一八日ころこれを控訴人の取引倉庫である大信運輸倉庫に納入し、代金を金六一二万円と定め(これが当時の時価相当額であることは当事者間に争いがない。)、売買名下にこれを引渡し、これが引渡しを受けた控訴人はそのころこれを訴外東京義髪整形株式会社に代金四八八万二、五六五円で売却した(この売却の事実も当事者間に争いがない。)。しかして森本貿易と控訴人との右売買については両者の間に代金の授受はなく、控訴人の帳簿上は右代金は未払債務として現に残存している如く、記載されているが、形式上のことにすぎず、控訴人にその支払意思はなく、実質は森本貿易に対する債権のうち金六一六万円に対する代物弁済としてこれを受領したものであり、森本貿易もまたその趣旨でこれを引渡したものである。〔反証排斥〕

右認定事実によれば、森本貿易は、債務超過の状況にあつたものであるが、控訴人の要求を入れこれと相謀つて同人に優先的に債権の満足を得させるために、森本貿易にとつて相当高額な商品である本件人毛を控訴人に代物弁済として交付したものであるから、右代物弁済は、その価格が時価相当の適正なものであつて計数の上では右森本貿易の総財産に増減を来たさなかつたとしても、控訴人は債務超過の状況にある森本貿易から同訴外会社に対する債権中六一二万円について、その完全な回収を得る一方、被控訴人をはじめ他の一般債権者は右訴外会社の有する担保財産の減少によつて同人等の債権の満足は一層困難ならしめられたものというべく、その限りにおいて被控訴人を害するものと解するのが相当である。そしてまた森本貿易はかかる事情を知悉して右代物弁済をしたものと認められる。よつて右は詐害行為を構成するというべきである。

(菅野 小林信 中平)

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