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東京高等裁判所 昭和45年(ラ)951号 決定

一 抗告人提出の疎明および当審における当事者双方審尋の結果によると、本件特許発明は、抗告人主張の(a)ないし(d)の四つの構成要件からなる組立式果実キヤツプに関するものであること、相手方の製造販売にかかる(イ)号物件は、右(a)ないし(c)の各要件を具備した組立式果実キヤツプであり、右(d)の要件である取付片を欠いているものであることを認めることができる。

二 ところで、抗告人は、本件特許発明における右(d)の要件である取付片による取付と(イ)号物件における切溝の両側部分を重ね合わせてホツチキス等の保定条線類で綴止することによる取付とは、果実用キヤツプを果樹に取付ける手段として均等である旨主張するので、まず、この点について検討する。

本件特許公報(疎甲第二号証)によると、発明の詳細な説明の項に、実施例の説明として、「切溝は果軸の通路であると共に本体を傘型状に形成するための溝でもある」(第一ページ右欄一八行ないし一九行)、「切溝の終着点に果軸の挿通区帯が位置するのであり、図示の場合取付片を曲げ起してできた空間が果軸挿通区帯を形成している」(第一ページ右欄二七行ないし二九行)と構成に関する説明をしたうえ、取付成型の方法の説明として、「これを果樹に取付けるのは、……入口を果軸の方に向けその入口から果軸が入り込むように押進めれば果軸は切溝に連続している果軸挿通区帯に到達してこの内部に挿通される。ついで本体を傘状にしながら取付片を起立させて果軸を挟むようにし、一方の取付片の挿通孔(割孔)に予め用意した……帯金をU字状にして挿し通し、果軸を挾んで向うがわにある取付片の挿通孔(割孔)にそれぞれ挿し通し、先端部を捻り止めれば、………傘型状キヤツプ体ができると共にこれが果樹に取り付けられ、そしてなり花(後に果体)を傘覆し、切溝両側辺の重なり部分を確保

する。」(第一ページ右欄下から九行ないし第二ページ左欄七行)との記載があること、および取付片の機能ないし作用効果に関し、「果軸に取付片を添着して帯金や針金等の保定条線類で固定するために装着操作が頗る簡単で容易で、しかも保定が確実で本体の重ね合せ部分の開離を抑止するものであり、かつ弾性的に装着されるから風雨等にも脱落するおそれが少しもなく、取外しも帯金等を捻じ戻して引抜けば本体は果樹から簡易に取外され、取外された上は弾性によつて自然にもとの扁平状に戻るので破損率が頗る低い。」(第二ページ右欄七行ないし一五行)との記載のあることを認めることができる。

他方、取付片を欠く(イ)号物件の取付方法としては、別紙(イ)号図面および説明書の記載に徴し、果軸を切溝の入口から押し進めて果軸挿通区帯に挿通し、次いで切溝の両側辺部分を重ね合わせて本体を傘状に成型し、右重なり部分をホツチキス等の保定条線類で綴止することにより装着するものであることが明らかであるところ、このような取付方法は、本件特許発明の取付片によるものに比し、本体の重ね合わせ部分の開離を抑止する点においては同様のものであるが、さきに認定した取付片のその余の機能ないし効果に関しては、必ずしも同様のものと断じ去るわけにはいかないものである。すなわち、本件特許発明にかかる果実キヤツプにおいて、取付片を果軸に添着して帯金や針金で固定することによる保定の確実なことおよび弾性的に装着されること、さらに取外し方法が簡易であり、また破損率が低いことは、単に果軸が本体中央部の果軸挿通区帯に挿通されているにすぎず、本体が果軸との関係で固定されておらず、かつ、切溝の両側部分を重ね合わせてその部分をホツチキス等で綴止するものであることを抗告人自身が自認している(イ)号物件のものとは、吾人の経験則に徴し、明らかに異なる機能ないし効果であるといわざるをえない。

したがつて、本件特許発明における取付片による取付手段と(イ)号物件におけるホツチキス等の保定条線類によつて綴止することによる取付手段とは均等であるとする抗告人の主張は、理由がないものであり、本件特許発明の前記(d)の要件を欠き、これと異なる取付手段を採用する(イ)号物件は、明らかに本件特許発明の権利範囲に属しないものといわざるをえない。

三 以上によれば、被保全権利の疎明を欠くことを理由に、抗告人の本件仮処分申請を却下した原決定は、結局相当であり、本件抗告は理由のないことが明らかである。よつて、これを棄却すべきものと認める。

〔編註その一〕 本決定は左の抗告理由に対する判断である。

第一 抗告の趣旨

「原決定を取り消す。相手方は別紙(イ)号図面および同(イ)号図面説明書記載の物件を製造し、譲渡し、貸し渡し、譲渡もしくは貸渡のために展示してはならない。甲府市中央四丁目五番一二号所在の相手方営業所内、同所六番一八号所在の同駐車場内、同所六番一九号所在の同倉庫内および同所五番一三号所在の同倉庫内に存在する相手方所有の前記物件に対する占有を解いて、抗告人の申請する甲府地方裁判所執行官にその保管を命ずる。執行官はその保管に係ることを公示するため適当な方法をとらなければならない。」との仮処分決定を求める。

第二 抗告の理由の要旨

抗告人が専用実施権を有する特許発明(特許第四〇七、三二二号、以下「本件特許発明」という。)は、次の四つの構成要件からなる組立式果実キヤツプである(別紙図面参照)。

(a) 本体が実質的に扁平状をなすプラスチツクもしくはこれに類する材料でつくられていること。

(b) 右本体のほぼ中央部分に果軸挿通区帯を有すること。

(c) 右果軸挿通区帯に向けて周辺から果軸の通路を兼ねた傘型形成用切溝が設けられていること。

(d) 右果軸挿通区帯に位置して保定条線類の挿通孔をもつた取付片が具備されていること。

そして、右組立式果実キヤツプは、これを傘型状に成型して果樹に取付けることにより、なり花、果実類の雹、霜害等を防止し、消毒薬が降雨等により流亡することを防止し、また、果実の栽培促進または抑制に利用しうる等のすぐれた作用効果を奏するものであるが、これらの効果を奏するためには、右(a)、(b)および(c)の三要件を具備すれば十分であり、(d)の要件は、傘型状に成型したキヤツプを果樹に取付け保定し、かつ、その重ね合せ部分が開離することを抑止するための機能を営むにすぎないものである。

一方、(イ)号物件は、同じく組立式果実キヤツプとして、右(a)、(b)および(c)の三要件を具備していることは明らかであり、外形上(d)の取付片を欠如しているようにみえるが、これを果樹に取付け保定し、重ね合わせた部分の開離を抑止する手段としては、本体の切溝から果軸を果軸挿通区帯に入れ、切溝の両側部分を重ね合わせて、本体を傘型に成型するとともに、右重ね合わせた部分をホツチキスで綴止するものである。したがつて、(イ)号物件において、切溝の両側部分を重ね合わせてこれをホツチキスで綴止することは、本件特許発明における前記(d)の要件と同一の機能を営むものであり、その作用効果の点においても、異なるものがないといわなければならない。この点について、原決定は、本件特許発明においては、取付片の挿通孔に帯金または針金を通して果軸に固定するものであるとし、回動自在な(イ)号物件とは作用効果を異にする旨認定しているが、本件特許発明のものも果軸に固定してしまうわけではなく、単に挿通孔に帯金または針金を挿し通して先端部を捻り止めるだけであつて、全体を捻じ締めるものではないから、水平方向へも回動するものというべく、原決定の認定は誤りである。そして、傘型に成型した本体の重ね合わせ部分が開離することを抑止するために、右重ね合わせ部分をホツチキスで綴止するようなことは、一般に周知慣用された技術手段であつて、本件特許発明においても、右の開離抑止のための手段が果軸挿通区帯の部分に限定して設けられるべき理由はないから、(イ)号物件におけると同様に、ホツチキスによる綴止手段を採用することは、当業者の容易に想到実施することの可能な範囲に属するものであるといわなければならない。

したがつて、果実用キヤツプを果樹に取付け保定し、かつその開離抑止のための手段として、本件特許発明における前記(d)の要件にいう取付片による手段も、(イ)号物件におけるホツチキスによる綴止手段も、技術的に同価値のものであつて、(イ)号物件は単なる均等手段の転換をはかつたにすぎないものというべく、本件特許発明の権利範囲に属するものであることが明らかである。

以上のとおり、(イ)号物件は本件特許発明の権利範囲に属し、これを製造販売等することは、本件特許権を侵害するものであるにかかわらず、被保全権利の存在を否定して、本件仮処分申請を却下した原決定は不当であるから、これを取り消し、抗告の趣旨の項掲記のとおりの裁判を求める。

〔編註その二〕 本件に関する図面および(イ)号図面説明書は左のとおりである。

別紙図面(本件特許発明)

<省略>

<省略>

別紙

(イ)号図面説明書

一、図面の説明

図面は本件組立式果実キヤツプの説明図で、第一図は平面図、第二図はその使用の態様を示す。

二、説明

扁平方形状の着色された透明性塩化ビニル樹脂製薄膜からなり、その本体(1)の中央部分に果軸挿通区帯(2)を設けると共に、さらにこれに向けて周辺から果軸(8)の通路を兼ねた傘型形成用切溝(3)を具備せしめた組立式果実キヤツプである。そして(4)、(5)は切溝によつて形成された本体断片で、使用に際して該断片は第二図に示されるように重さね合わされた状態で保定条線類(17)で補綴される。

なお前記本体として隅切りしたものを含む。

別紙

(イ)号図面

<省略>

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