東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)103号 判決
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〔事実〕第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和三六年七月四日、名称を「刈取脱穀機」とする考案について実用新案登録出願をし(昭和三六年実用新案登録願第三四、三二六号)、次いで昭和三九年三月三一日、右出願の一部について分割出願をし(昭和三九年実用新案登録願第四二、一四五号)。右分割出願に対し、昭和四四年一一月二日拒絶査定があつたので、原告は昭和四五年二月二一日審判の請求をし、同年審判第一、三五五号事件として審理されたが、同年八月一三日「本件審判の請求は成り立たない」旨の審決があり、その謄本は同年九月二八日原告に送達された。
二 本願考案の要旨
車体上に自動送込脱穀機をこの移送チエンおよび扱胴軸が機体の進行方向に対して直角方向に位置するように塔載し、該移送チェンの前側に刈取装置を設けると共に該刈取装置により刈取つた穀稈を脱穀機の前側からこの穀稈供給口一側に向けて横送りする穀稈横送帯を設け、その穀稈横送帯の終端部と前記脱穀機の扱胴室に通ずる穀稈供給口部の機体進行方向後端部との間には、機体の進行方向にほぼ平行する面内において穀稈を縦送りしながらこれに傾倒作用を付与せしめる穀稈縦送帯を設けて、機体の進行に伴つて刈取られる穀稈を横送りおよび縦送りしながら整然と連続的に脱穀機へ供給することを特徴とする刈取脱穀機(別紙第一図面参照)。
三 本件審決理由の要点
本願考案の登録出願前の昭和三六年六月二八日に出願された登録第八六八三六九号実用新案(実願昭四〇―四二二六〇号、実公昭四三―四四三号、以下「先願考案」という。)の考案の要旨は、次のとおりのものである。
「扱胴4を収納する扱室が前進方向に対して後部でこの扱胴4の回転軸がその前進方向に対して横方向の自動送込脱穀機2と、この自動送込脱穀機2の前方あるいは前部側方に設けられた切断装置3(刈取装置)と、切断装置3の上方から自動送込脱穀機2の後部側方にわたつて設けられて穀稈の基部を狭持してこれを移送する間にその穂先が前方へ倒される移送装置5と、移送装置5の後端に平面的に見てこれとほぼ九〇度に接続して移送装置5から受け継いだ穀稈を移送する間にその穂先を扱室内を通過させる送込装置6(移送チェン)を具備する刈取脱穀機」(別紙第二図面参照)<後略>
〔判決理由〕二 そこで、本件審決を取消すべき事由の存否について検討する。
(一) 本件審決が本願考案の登録を拒絶すべき事由として認定した事実と挙示した適用法条との間にくいちがいがあることは、原告主張のとおりである。しかし、本件審決が本願考案の登録を拒絶すべき事由として、先願考案の要旨を認定し、これと本願考案との異同を対比検討して、結局両者は同一の考案に帰するものであることを認定した経緯に徴すると、本件審決は、いわゆる先後願関係にある考案については後願を拒絶すべきものとした実用新案法第七条第一項を適用法条として掲記する意図を有したものであることが明らかであり、したがつて、同法第三条第一項第三号を挙示したのは、単なる誤記にすぎないとみるのが相当であつて、このような明らかな誤記を理由に本件審決を違法とすべき限りではない。
(二) 先願考案の要旨が本件審決認定のとおりであること、また、本願考案と先願考案との一致点につき、また挙示の相違点があることについても本件審決認定のとおりであることは、原告の認めて争わないところである。
ところで、先願考案の要旨に徴し、先願考案は、切断装置を自動送込脱穀機の前方または前部側方に設けることを構成要件とするものであることが明らかである。そして、切断装置を機体の前部側方に設けた場合に、刈取つた穀稈を後方へ移送するために穀稈横送帯を必要としないことは、その構成上明らかなことであるが、切断装置を機体の前方に設けた場合に穀稈横送帯が必要か否かは、慎重に検討しなければならない。
原告主張のように、切断装置を機体の前方に設けた場合でも、前後方向に走る直条の移送帯で穀稈を後方に移送することは可能であり、したがつて横送帯を必要としないであろう。しかし、このようにするには、右直条の移送帯が斜め前後方向に設けられなければならず、したがつて、前方の切断装置から後方の脱穀装置にいたるまでの機体の全長が著るしく長いものとなることは、その構造上当然のことである。ところで、先願考案は、機体の長さを短かく、幅を狭く構成し、全体としてコンパクトな機械を具現することを目的としているものであることを認めることができるから、右のような機体の全長を著るしく長い構造のものとすることは、右目的に反することになるばかりでなく、経験則上きわめて不自然であるといわなければならない。したがつて、先願考案において、切断装置を機体の前方に設けた場合には、脱穀機としての技術構成上、当然に穀稈横送帯を設けて、まず穀稈を機体の側方に送り、次いで縦送帯によつて後方へ移送する構成をとらざるをえないものと認めるのが相当である。先願考案の実施例として、添付図面第一図(別紙第二図面)において、移送装置5に関し横送帯と縦送帯の双方が図示されていることが認められるが、この事実は、右認定を裏付けるものというべく、他に右認定を動かすに足る証拠はない。したがつて、先願考案において、切断装置を機体の前方に設けた場合には、穀稈横送帯を設けることが設計上必要な事項であり、先願考案の要旨中「移送装置」なる概念は構成要件としての穀稈横送帯を含むものと解するのが相当である。そして、右のような構成を採つた場合に、先願考案のものが本願考案のものと作用効果においても差異のないものであることは、各構成に徴し明らかなことである。
そうだとすれば、本件審決認定の本願考案と先願考案との相違点について、先願考案において切断装置を機体の中心側に寄せて前方に設けた場合には、穀稈横送帯を設けることが設計上当然考慮すべき事項であるとした本件審決の認定は正当であり、結局、本願考案は先願考案の包含する切断装置の設置箇所に関する二つの場合のうち、その一つである機体の前方に設置した場合に限定したものであることに帰着し、その限りにおいて、両者は同一の考案に帰するとした本件審決の判断に誤りはないといわざるをえない。
次に、原告は、先願考案は選別室を扱室の前方に位置するように構成することを要件とするに対し、本願考案はその点について何も限定がないことにおいて相違する旨主張する。しかし、先願考案の要旨は、「扱胴を収納する扱室が前進方向に対し後部」にあることを要件として示すにとどまり、かつ、先願考案について考案の詳細な説明及び登録請求の範囲の各項を検討しても、扱室と選別室との位置の前後関係を特に限定すべき旨の記載を見出すことができず、単にその実施の一例を示す添付図面に、選別室を前方に、扱室を後方に位置させた脱穀機の記載があるにすぎないことが認められるから、前記要件は、単に、扱室の位置が機体の進行方向に対し後部にあることを意味するだけで、扱室と選別室の前後の位置関係まで定めるものではないというべきである。一方、本願考案についても、その要旨について各構成要素の配設の順序を検討すれば、扱室が機体の後部に位置するものであることが明らかであるから、扱室の位置に関しても、本願考案と先願考案との間に差異はなく、この点に関する原告の前記主張は失当である。
以上のとおり、本願考案と先願考案との間に相違があるとする原告の主張はいずれも理由がなく、他に相違点があることを見出すことはできないから、結局、本願考案と先願考案とが同一の考案に帰着するとした本件審決の認定判断は正当であつて、本願考案はいわゆる後願として登録を拒絶されるべきものであるといわざるをえない。
三 以上検討のとおり、本件審決に原告主張のような違法はない。よつて、その取消を求める原告の本人請求を理由なしとして棄却すべきものと認め、主文のとおり判決する。
(青木義人 石沢健 宇野栄一郎)