大判例

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東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)126号 判決

一、構成上の差異について

(一)、本願第一発明の技術

成立に争いのない甲第二号証の一(本願明細書)、同第二号証の二(手続補正書)によれば、次の事実が認められる。

本願第一発明の詳細な説明には「減圧下で鉱物成分を爆発的に分別し」「最初加圧され、しかる後に鉱石に加えられている圧力を爆発的に解除し」「鉱石を最初加圧し、しかる後鉱石仕込物中のエネルギーを、減圧に保持されている室の中の比較的小さな領域で解放する方法」「鉱石を爆発的に処理しそして高速度の定常的な衝撃波の振動に鉱石を曝すことによる方法」「エネルギー放出を伴う超音波振動が分別を完了し」「定常的な衝撃波又は疾風波がブラスト領域(23)内に形成される」「矢の形の刻み目の線が防摩鉄板(22)の上に現われるように、ブラスト領域(23)に定常的な衝撃波の存在を支持する証拠を生ずるようである」「この分別は、超音波エネルギーを利用する従前技術の作業に伴う著しい出費を要せずに達成された。」と記載され、実施例に基づいて仕込域で高圧の水蒸気を加えられた鉱石と水蒸気の混合体が排出域における排出前後の圧力差とその排出の条件により、排出の際高圧流体の膨脹により爆発的なエネルギーの解放による衝撃を生じ、これによつて鉱石が破砕されることを説明している。したがつて、本願第一発明は、排出の際に生ずる衝撃すなわち定常的な衝撃波等によつて鉱石を破砕しようとするものということができる。ただ鉱石外部からの衝撃のみによるかどうかは必ずしも明かではない。

ところで、本願第一発明の要旨が前掲第二の二の(一)のとおりであることは当事者間に争いのないところであり、これによれば、原告の主張するように「エネルギーの実質的解放を防止し」および「エネルギーを急激に解放させる」ことが構成要件となつていることが明かである。原告は破砕の対象となる鉱石に隙間がないことが必要な条件であると主張するけれども、発明の要旨中の「非溶融内部界面を有する型の鉱石」が隙間のない鉱石を意味するとはとうていいうことができない。のみならず、前記甲第二号証の一、二によれば、訂正前の明細書には「水蒸気が確実に飽和し、且つ細孔及び鉱石の鉱物成分の間の界面に確実に浸透」との記載があり、これを訂正によつて削除してはいるが、特許請求の範囲にはもちろん発明の詳細な説明に何らこの点について触れるところがない事実が認められる。以上の出願手続の経緯からみると、破砕対象物から隙間があるものを排除することを構成要件とするものとは到底認められない。

(二)、引用例の技術

成立に争いのない甲第三号証によれば引用例は左記のとおりであることが認められる。

数気圧ないし数百気圧に保たれた高圧容器内に破砕すべき粗砕原料を収容し、原料内部組織まで気体が浸透して容器の圧力と等しくなつた高圧流体を、粗砕原料とともに最初の容器内とほぼ等しい高圧高速気流部に供給し、この気流部の気流にのせられた高圧流体の混合体をノズルから極めて高速度に噴出させてその気圧を急激に低下させ、原料内部に浸透していた高圧気体を瞬間的に膨脹させ、その力によつて原料を組織内部から破砕すると同時に衝突板に衝突させて粉砕するものである。

(三)、本願第一発明と引用例との比較

仕込の段階では被破砕物と高圧流体の混合した状態であることにおいて、また混合体のエネルギーが排出域で解放されることにおいて両者変りがないことは、当事者間に争いがない。

そして前記認定の引用例の技術内容を検討すると、仕込まれた高圧流体の混合体が排出部のノズルにいたるまでの移動は仕込の際の容器内圧力とほぼ等しい高圧高速気流部にのせられるのであるから、これが混合体のエネルギーの消費をもたらすものではあり得ないし、甲第三号証の添付図面などをみてもエネルギーの解放に寄与する妨害物等の存在は認められない。してみれば、「エネルギーの実質的解放を防止し」の要件は引用例もこれを備えているということができる。

ちなみに甲第二号証の一、二によれば、本願第一発明は特許請求の範囲に「その間鉱石からのエネルギーの実質的解放を防止し」とうたつているが、具体的な構成は示していないし、発明の詳細な説明にも「仕込物の流れは……運動エネルギーを熱に変え……流れの速度を遅らせる」とあるところからすれば、エネルギー解放防止のための積極的な措置は講じられていないことが明らかである。

次に前記認定の引用例の技術内容によれば、高圧流体の混合体をノズルから極めて高速度に噴出させ、その気圧を急激に低下させるものとされているし、また混合体のエネルギーが排出域で解放されることも前記判示のとおりであるから、「エネルギーを急激に解放させる」要件も引用例は備えているといえる。

そうすると、結局本願第一発明の破砕方法を特徴づける構成は、引用例もすべてこれを備えているということができる。そして流体が最初細まり次に広がるような管(ラバール管)を通過するとき、流体の流速、圧力の状態によつてその排出域に衝撃波の発生することが周知事実であること、および本願第一発明も引用例もともに構成要件としては鉱石と流体との仕込物の流速、その圧力の分布、また装置におけるノズルの長さについていずれも数値的限定がないことは、当事者間に争いがない。この争いのない事実に成立に争いのない乙第一号証の一、二、三(日本機械学会昭和九年初版、同四三年一月一五日改訂第五版発行「機械工学便覧」)、甲第五号証(岩波書店発行、ランダウ、アヒエゼール、リフシツツ著「物理学」)を考えあわせると、引用例の技術においても、前記認定のように本願第一発明と仕込の段階、排出口への移動に変りなく、破砕方法を特徴づける構成も同様に備えているのであるから、ノズルから排出する迄に破砕物と高圧流体の混合体が音速に達し、排出の際の圧力差により衝撃波等の爆発的な衝撃を生じ、それによる破砕が行われるものと認められる。

もつとも甲第三号証によれば、引用例にはその明細書に砕料内部に浸透して居つた高圧気体は瞬間的に膨脹しその力によつて砕料を組織内部より破砕すると同時に衝突板に対する衝突による粉砕を行うものと記載されているが、衝撃波等による破砕がこれらの破砕ないし粉砕と共存できない根拠はないので、衝撃波等による破砕を否定するものではあり得ない。

なお甲第四号証の一、二(宣誓供述書)は引用例についての実験例において気体の圧力に関して具体的な数値が記載されていないので、引用例を検討する証拠として採用することはできない。

してみると、本願第一発明と引用例との間には破砕原理ないし破砕方法を確保もしくは限定する構成上のさしたる違いがないので、その本質的な違いを看過したとする原告の主張は採用することはできない。

二、作用効果について

甲第二号証の一、二によれば、本願明細書には「水蒸気を注入している間の時間は、……処理されるべき鉱石の種類如何によつて変るであろう。屡々起る不完全な分別は不充分な水蒸気処理の結果である。又天然のままの鉱物粒が破壊して微細粉を過剰量生成することになるのは過度の水蒸気処理の結果であるかも知れない。」「鉱物を含有する鉱石から原鉱物粒子の組織を実質的に破壊することなく該粒子の化学的に清浄なへき開を生起させるに当り、予め秤量された重量を有する鉱石に対し選択された鉱石を分別するのに必要なエネルギー計算にもとづいて、予め測定された圧力下に一定の時間の間隔をもつて水蒸気のような流体のエネルギーを負荷し」と記載されていることによれば、自然のままの粒子寸法および形を保持し、その粒子表面のきれいな状態で鉱石を分別するという効果を得るためには、鉱石の種類に従つて水蒸気処理の条件(時間および圧力)を過不足なく定めることが必須条件であると認められる。しかしながらそうした水蒸気処理の条件は本願第一発明の構成要件になつていないので、以上のような効果が生ずるとしても、ただちに本願第一発明の構成によるものとはいえず、この点に関する原告の主張は採用できない。かりに前記効果が本願第一発明を特徴づける構成に基づくものとしても、前記認定のように引用例の技術においても同様な構成のもとに破砕が行われているのであるから、その破砕の対象物の限定に従つて、引用例から予測できる範囲の効果といわざるを得ない。

また、甲第三号証によれば、引用例の技術においては別個の高圧高速気流部が設けられて原料の移動の目的に使用されているが、そこに示された実施例は排出域への原料放出が連続的に行われているものであり、前記認定のように第一発明と同様に仕込域で加えられた流体の膨脹に基因して原料が移動させられ、排出域で衝撃波等が発生して原料の破砕が行われているものとすれば、引用例の技術においても排出域への原料放出を一回毎にするなど実施の態様によつては別個の高圧高速気流を供給することは必ずしも必要ではないといえよう。そして前示のように衝撃波等を発生させている引用例の技術はつまりは超音波エネルギーを利用するものである。そうすると、原告の主張する装置の簡素化に関する作用効果は、引用例から予測できる範囲内のものといわねばならず、結局本願第一発明の作用効果は顕著なものとはいいがたく、この点についての原告の主張も採用できない。

三、結論

そうすると、本件審決には原告の主張するような判断の誤りはないから、原告の本訴請求は失当で、棄却せざるを得ない。

〔編註〕 本件における第一発明の要旨は左のとおりである。

非溶融内部界面を有する型の鉱石から鉱物を分離せしめる方法において、仕込域または仕込室内で加圧下に水蒸気のような流体のエネルギーを該鉱石に対して加え、排出域へ向つて該流体と鉱石を通過させ、その間鉱石からのエネルギーの実質的解放を防止し、その後に該流体と鉱石を排出域へ放出し、こうして流体によつて鉱石に加えられていたエネルギーを急激に解放させることを特徴とする鉱石からの鉱物の分離方法

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