東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)14号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯および本件審決の理由の要点についての原告主張の事実は、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案の出願公告公報に掲載された明細書)および第一二号証の二(昭和四〇年一二月一八日付手続補正書)によると、本件実用新案の考案の要旨は、明細書の「実用新案登録請求の範囲」の欄に記載のとおり、「タイミング・チエイン(8)のローラー(2)を支持する凸部(1)および内側リンク(4)または外側リンク(5)の下端が軽く接触する凹部(3)をチエイン(8)受部に設け、かつ硬質ゴムまたは合成樹脂で作られたチエイン・テンシヨナー。」(別紙図面参照)にあるものと認められ、明細書の「考案の詳細な説明」の欄に、本件実用新案の作用効果として、「本考案によるときは第3図に示すようにタイミング・チエイン(8)が角度αだけ横振れしようとしてもその内側リンク(4)の下端がテンシヨナー(7)の凹部(3)に軽く接触しているため横振れは起らない。そしてテンシヨナー(7)は硬質ゴム又は合成樹脂の弾性体で作られているから前記チエイン(8)の横振れに対してリンク(4)の押圧力に対して緩衝作用を為すとともに摩擦抵抗も大きいから急激な横振れに対しても衝撃が緩和され、騒音も起らない。また常時内側リンク(4)と凹部(3)が軽く接触し、若干の摺擦抵抗は生ずるが、もしこれが軽く接触していないと、前記のような横振れの衝撃により凸部(1)を損傷し、騒音発生の原因となる。」旨記載されていることに徴すれば、本件実用新案は、チエイン・テンシヨナーに関するもので、「硬質ゴムまたは合成樹脂の弾性体で作られたチエイン・テンシヨナー(7)に、タイミング・チエイン(8)のローラー(2)を支持する凸部(1)とチエインの内側リンク(4)または外側リンク(5)の下端が軽く接触する凹部(3)を設けた」構成とすることにより、チエインの横振れを防止し、ひいて、内側リンクまたは外側リンクと凹部(3)が接触しない場合において、急激な横振れの衝撃により生ずる騒音およびテンシヨナーの凸部の損傷をなくすることを目的としたことが明らかである。叙上の本件実用新案の目的および作用効果に照らすと、本件実用新案の要旨中「軽く接触する」の文言の意味するところは、内側リンク(4)または外側リンク(5)と凹部(3)の接触の態様を上記の目的ないし作用効果を奏するような技術的構成とすることであつて、その意味するところは客観的に明白であり、本件考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者ならば容易に設計、実施しうる程度のものということができる。
原告は、この表現は客観的に不明確であり、かような表現を含む考案は、実用新案法第四条にいう公の秩序に反し、また、同法第五条第三項の規定にも違反する旨主張するが、前説示のとおり、右文言は客観的に明確であるから、この点を前提として実用新案法第四条および第五条第三項の規定に反するとの右原告の主張は採用の限りでない(なお、実用新案法第四条にいう公序良俗を害するおそれのある考案とは、原告の主張するように、その構成要件の表現が不明確であるというような場合を指称するものではなく、その考案の目的に沿つた使用自体が必然的に公序良俗に反するおそれのある場合をいうものと解すべきところ、本件実用新案がこれに当たらないことは、きわめて明らかであるから、実用新案法第四条の規定に反するとの原告の主張はこの点からも採用し難いところである。)。
また、原告は、各引用例と本件実用新案が同一か、そうでないとしても、その差は極微で同一性ありとするのが相当である旨主張するが、成立に争いのない甲第七号証の二の一ないし三(コロナ社発行大越諄著「ローラチエン」第七九頁、第八〇頁)、第一一号証の三および四の各一ないし三(日産自動車株式会社発行のニツサンセドリツク純正部品型録および同社発行のサービス周報、昭和三九年一二月第一〇六号第一三頁)および本件弁論の全趣旨に徴し当裁判所がその成立を認める甲第一一号証の二(日産自動車株式会社取締役社長川又克二証明にかかる椿本チヱイン製作所のタイミングチエン用テンシヨナーの組立図)によると、各引用例が本件実用新案の要旨を構成する「リンクの下端が軽く接触する凹部をチエイン受部に設けた」という構成を有するものとは認め難いから、原告の右主張もとうてい採用することはできない。なお、原告は、各引用例のものも使用後摩耗すれば、凹部がリンク下端に接触することがありうる旨主張するけれども、各引用例には本件実用新案を構成する技術思想が含まれないこと前認定のとおりであるから、各引用例と本件実用新案とが同一性があるものといいえないことは、多言を要しないところである。
(むすび)
三 以上説示のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却する。
〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙
<省略>