東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)23号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕本件実用新案の考案の要旨は、実用新案登録請求の範囲記載のとおり、「柔軟な電気絶縁体で形成されたソケット8、およびソケット8の段付孔12に適合する止め具7を組合せて一体となすベース2を有する電球1のソケットにおいて、該止め具7の内壁および外壁に電線14、14'が収容される溝9、9'および10、10'を設けて成る電球ソケットの構造。」にあると認められる。
一方、……第一引用例は、昭和三五年一月六日出願にかかるランプ・コネクタに関する実用新案公報であるが、その構造は、「プラステック等の可撓性絶縁材料を以て作られた、無ベースミニアチュア電球の下端を収容すべきコップ形キャップの底に二つのランプ引込線用孔を設け、該引込線の突出端をその外表面に沿つて外方に折り曲げうべくなしたランプキャップと、このランプキャップをさしこむ為の大きさの孔を一端に有し、その他端に導線用の小さい孔を有するテーパー管状のランプホルダーと、ランプを収容したキャップをホルダー内に挿入したときにランプ引込線を導線の端(又はそれに固着された金属片)に接触せしめるととに楔止めする溝付絶縁プラグとを存することを特徴とするミニアチュア電球を電気回路中に接続するためのランプコネクタ」の構造にあり、右の構造によると、溝付絶縁プラグがランプホルダーの中に楔のように嵌合され、このプラグにより導線の端(またはそれに固着される金属片)は絶縁されるとともに、適当な位置に保持されるものであることが認められる。
また、……第二引用例は一九六一年(昭和三六年)九月二〇日に公告された英国特許第八七七、九四六号明細書であり、その構造は、前記第一引用例と同様のものと認められる。
そこで、本件実用新案と第一引用例および第二引用例の前記認定の各構造を対比すると、第一引用例および第二引用例が本件実用新案における構造の一つである「内壁に及び外壁に電線14、14'が収容される溝9、9'及び10、10'を設けて成る」止め具7の構造を欠くことは、明白である。そして、本件実用新案は、止め具を有することにより、電線はまず止め具に簡単に固定され、ついで、止め具をソケット内に収納すると、止め具に沿わせて固定された電線の脹みにより、電線はさらに確実にソケットの内壁に圧着固定され、外部からの引張力に抗する力が大となる効果を生ずるほか、止め具に固定された裸の電線とランプ引込線との電気的接触は何ら仲介物を要することなく、容易になしうる結果を生ずるのに対し、第一引用例および第二引用例においては、電線は、単に溝付絶縁プラグをホルダーに挿入することによる楔作用により、その位置を保持、固定されるにすぎないものであり、本件実用新案におけるような電線を止め具に直接固定させるという技術思想を欠除し、このため本件実用新案とは、その電線の固定方法、効果(固定方法の簡易性、固定の確実性において、本件実用新案が優るとみられる。)において相違するものがあり、また、電線とランプ引込線との接触の態様(引用例では、いずれも、電線の端またはそれに固着された金属片とランプ引込線とが接触する。)においても、本件実用新案と異なるものと認められる。
以上認定した構造および効果の相違に徴すると、本件実用新案と第一引用例および第二引用例は、電線固定の技術思想を全く異にするものであり、異なつた考案といわざるをえないし、また、本件実用新案が、第二引用例からきわめて容易に考案しうるものともいうをえない。
原告は、本件実用新案と第一引用例または第二引用例との間の前記認定の構造上の差異は、当事者の常套とする技術上の置き換えにすぎないと主張するけれども、前記説示したところから明らかなように、両者は技術思想を異にし、効果もまたおのずから異なるのであるから、原告の主張のようには到底解することはできず、したがつて、右原告の主張は採用するに由ない。
次に、原告は、本件実用新案の出願日前に本件実用新案と同一の構造を有する電球ソケットが財団法人日本機械デザインセンターに申請登録されている事実を審判手続において主張したにかかわらず、特許庁がこれについて何らの判断も示さなかつた点につき、判断遺脱、審理不尽の違法があるというのであるが、<証拠>を総合すると、原告は昭和四一年五月二三日付審判請求書において、本件実用新案の登録出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物として第二引用例を引用し、ついで、昭和四一年一二月一九日付審判請求理由補充書において、本件実用新案と同一の考案例として第一引用例を引用し、続いて、昭和四三年一月一三日付審判請求理由補充書とともに日本機械デザインセンターに対するデザイン登録申請書(昭和三五年一一月八日付)を提出し、同登録申請書の添付図面に記載の物が本件実用新案と同一の考案で、実用新案登録出願前に頒布の刊行物記載の考案に当たる旨主張したが、昭和四三年一〇月一五日付で審判請求書の全文訂正書を提出し、改めて第一引用例および第二引用例を引用して本件実用新案の無効を主張したものであることを認めることができる。叙上認定の審判手続の経過に徴すると、原告は日本機械デザインセンターに対する登録申請書を引用例として主張したものの最終的にはこれを撤回したものとみるのが相当であるから、本件審決にこの点について判断の遺脱があるとする原告の主張は、採用できない。なお、審判手続における職権主義を考慮に容れてみても、前記甲第五号証の二によると、原告主張のデザイン登録申請書添付図面の物は、本件実用新案の止め具に当たるものを欠き、第一引用例および第二引用例について、さきに説示したところと同様に、本件実用新案と同一の考案と認め難いし、また、本件実用新案がこれからきわめて容易に考案しうるものとも認めえないものであるから、特許庁が審決にこの点の判断を示さなかつたとしても、当然というほかない。
以上の次第で、原告の主張するところは、すべて理由がなく、本件審決には原告主張のような違法の点はないから、その取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものとして、これを棄却する。(柳川真佐夫 武居二郎 楠賢二)