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東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)4号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二 原告らは、本件審決が本件特許発明と引用例の目的、組成および作用効果上の差異を看過し、本件特許発明をもつて、引用例から当事者が容易に発明しうるものであるとした点において判断を誤つたものである旨主張するが、その主張は理由がないものといわざるをえない。すなわち、

1 本件特許発明は、内容物の変質を防ぐため、紫外線の透過を遮断し、しかも、色合いが一定の色調範囲を有する緑色硝子を得ることにあるところ、引用例にも紫外線の透過を防止するほか、一定範囲の色調範囲を有する緑色硝子の組成が示されていることは、当事者間に争いがなく、この事実によれば、引用例も、その色調範囲において本件特許発明とは若干の広狭の差はあるが、紫外線の透過を遮断し、しかも、色合いが一定の色調範囲を有する緑色硝子を得ようとするものであることが明らかであるから、両者が全く目的を異にするものと断ずることはできない。

2 次に、組成についてみるに、この点につき原告らは、本件特許発明は、酸化銅(CuO)を必須成分とするに対し、引用例にはCuOの添加についての記載はあるが、それは単に主波長に関し考慮されているだけで、CuO添加による色調全般についての関心は示されていない旨主張する。しかして、引用例におけるCuO添加についての「帯青色を生じさせる傾向を有する酸化銅(CuO)の少量添加は、黄色化傾向の欠点を補い、これによつてこのガラスはエメラルド緑色ガラスになるか、またはそれにきわめて近いものになる」旨の記載のあることは当事者間に争いがなく、この記載は、一見、原告ら主張のとおり、主波長のみを考慮したものであるかにみえるが、前説示のとおり、引用例も色調範囲を一定範囲におさめることを目的としていること、および原告らの主張自体から明らかなとおりCuOの添加が単なる主波長だけでなく、明度、刺激純度にも影響を及ぼすという事実に、引用例には、CuOの添加は0.2%以下、0.08%を可とするとの記載があり、それは本件特許発明のCuOの添加量を含むものであることを合わせ考えると、前掲記載から引用例において酸化銅(CuO)を添加する趣旨を原告ら主張のように解することは根拠のない独断というべく、引用例には、本件特許発明と同一目的のためにCuOを添加するという技術思想が開示されているとみるのが相当である。なお、原告らは、色ガラスを製造する場合の酸化クロム(Cr2O3)、酸化銅(CuO)および酸化コバルト(CO3O4)の三者の色調に及ぼす影響ならびに相互作用から、本件特許発明のように、色調の三要素につき常時一定範囲の値を得るようにすることは、引用例に比すべくもない至難のことである旨主張するが、本件特許発明において酸化コバルトを全く含まない場合もあることは原告らの主張に徴し明らかであり、この場合は、酸化クロムと酸化銅のみが色調に関係することとなるものであるから、引用例とその組成において差異がないものといわざるをえない。したがつて、原告らの右主張も採用の限りでない。

3 原告らは、両者の作用効果の差異につき、色調範囲が本件特許発明は引用例のそれよりはるかに狭く、均一な品質のガラスが保証される旨主張するけれども、原告ら主張の引用例の色調範囲は、一〇mm厚に対して、C・I・Eの色度値は明度二五〜五二%、刺激純度六〇〜八七%、主波長五五四〜五六五ミリミクロンであり、これを当事者間に争いのない本件特許発明の色調範囲と対比すると、刺激純度が若干ずれるほかは、本件特許発明の色調範囲を含むことが明らかであるから、その重なる部分においては、当然、引用例のものも本件特許発明と同一の作用効果を奏するものと認めざるをえない。したがつて、原告らの前掲主張も採用するに由ない。

4 以上本件において明らかにされた事実関係によれば、本件特許発明は、引用例に開示された技術内容から、当業者の容易に発明しうる程度のものとみるを相当とし、これとみるところを異にする原告らの主張は、結局、その主張する事実に対する独自の考察評価を基調とするものというべく、当裁判所の、とうてい、採用し難いところである。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告らの本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。

(三宅正雄 中川哲男 武居二郎)

<編注>一 特許庁における手続の経緯

原告らは、昭和三六年五月一一日特許出願、昭和四〇年九月一八日登録にかかる、発明の名称を「紫外線遮断緑色硝子」とする特許第四五五、八七八号の共有権者であるところ、被告は、原告らを被請求人として、昭和四二年九月一四日、本件特許の無効の審判を請求し、昭和四二年審判第六、六九二号事件として審理されたが、昭和四四年一一月二八日、「本件特許を無効とする。」旨の審決があり、その謄本は、同年一二月一七日、原告に送達された。

二 本件特許発明の要旨

硝子成型品の組成として重量でSiO2六〇〜八〇%、CaO+MgO五〜一五%、Na2O一〇〜二〇%、Cr2O3 0.040〜0.200%、CuO 0.010〜0.200%、CO3O40〜0.010%になるように調合の際に適量の酸化剤を入れて溶解し、Y(明度)三〇〜四〇%、d(主波長)五五四〜五五八mμ、Pe(刺激純度)五八〜七四%の色調範囲(ただし、厚さ一〇m/mに換算値)を具備することを特徴とする紫外線遮断緑色硝子。

三 本件審決理由の要点

本件特許発明し要旨は前項掲記のとおりと認められるところ、本件特許発明の出願前に米国において領布された刊行物である米国特許第二、九七四、〇五二号明細書(一九六一年三月七日公告。以下「引用例」という。)第八欄第五五行ないし第六三行記載のクレーム1には、本質的にSiO2六〇〜七五%(重量単位。以下同じ。)、Al2O3 1〜9.5%、CaO六〜一二%、MgO〇〜六%、BaO〇〜一%、B2O3〇〜五%、アルカリ金属酸化物一〇〜二一%からなり、かつ、Fe2O3を約0.3%より少なく含み、三価の酸化クロム(Cr2O3)および六価の酸化クロム(CrO3)の両者の形で存在する酸化クロム全部で約0.3%より少なく含み、そして前記六価の酸化クロムは約0.005〜0.070%の範囲内で存在することを特徴とする紫外線吸収緑色ガラス組成物」が記載され、本件特許発明と引用例記載の事項とを比較すると、本件特許発明の特許請求の範囲には、Al2O3とFe2O3の量が規定されていないという差異が認められるが、Al2O3、Fe2O3は本件特許発明の必須成分でないとしても、ガラス原料から通常不可避的に随伴される成分であり、本件特許発明の実施例のいずれにも含有するものとして示され、かつ、その含有量はいずれも引用例のクレーム1に規定された範囲内にあるから、両者はこの点において実質的に異なるものとは認められない。また、引用例のクレーム1はCuO含有量を規定しているが、引用例の第三欄第六七行ないし第七〇行に、「しかし、帯青色を生じさせる傾向を有する酸化銅(CuO)の少量添加は、上記の黄色化傾向の欠点を補い、これによつてこのガラスはエメラルド緑色ガラスになるか、またはそれにきわめて近いものになるであろう。」と記載されているから、本件特許発明においてCuO量を0.010〜0.200%程度添加することは、引用例から容易になしうるものと認められる。なお、本件特許発明におけるY(明度)三〇〜四〇%、d(主波長)五五四〜五五八mμ、Pe(刺激純度)五八〜七四%の色調範囲もまた引用例におけるものと大差ないものと認められる。したがつて、本件特許発明は引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第二九条第二項に該当し、本件特許は同条の規定に違反して与えられたものであり、同法第一二三条の規定により無効とすべきものである。

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