東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)41号 判決
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〔判決理由〕二、本件審決を取り消すべき事由の有無について検討する。
(一) 一般に、織成に際して、糸の抱合力、強力伸張度等を増大させ、また、糸に柔軟性を与えて製織された織物の風合を良好ならしめるとともに、製織の際、綜絖と筬との摩擦によつて生ずる毛羽発生による糸の切断を防止するなどの目的で経糸にだけ「糊付け」すなわちサイジング処理をし、糊剤を使用することによつて、糸のさばきを助長し、かつ、繊維を傷めないで容易に繰返し操作ができるようにし、空気中の湿度のため伸縮するのを防ぎ、糸繊維の集束表面を円滑にして滑性を与え、あわせて曲折等に対して弾力性を与えて、糸の切断を防止するなどの効果を与えることが行なわれていること、右糊剤として、でんぷん、ゼラチンのアルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、シー・エム・シーなどの水溶性のものが常用されていることは、当事者間に争いがなく、この事実に<書証>を参酌すると、これらの糊料が用いられたことが一般に知られていたのは、本件登録実用新案出願前からのことであることおよび少なくともビニルアルコールについては、それが、恒久性をもつかどうかはさておき、無色透明な被膜を形成する合成樹脂溶液であること<書証>には無色透明であることは記載されていないが、それが糊料として用いられるものである以上、常識上そのように推認することができる。)およびビニルアルコールによる糊付けは糸をその中に侵して行なうものであることを認めることができ、この認定をくつがえす証拠はない。
(二) ところで、本件登録実用新案についてみるのに、本件考案は「経糸aを予め合成樹脂溶液中に挿通して経糸aの全表面に無色透明の合成樹脂被膜1を施し、この経糸と特別の処理を施さない普通の麻糸より成る緯糸bを使用して、無模様部分を地経a1、a2、緯糸b1、b2より成る平組織Aとなすと共に、模様部分は地経a1、a2の内1本をモヂリ糸として紗を構成し、緯糸b1、b2を2本或いは1本入れた後モヂリ返して紗模様を織成した麻糸使用の紗織物。」というにあつて、右「合成樹脂溶液」につきとくに種類、組成等の限定が加えられているものと認めることができない。しかも、ポリビニルアルコールが無色透明な被膜を形成する合成樹脂溶液であることは、叙上判示のとおりである。したがつて、本件登録実用新案の要旨にいう「合成樹脂溶液」はポリビニルアルコールを排除するものとはいえないと解さざるをえない。
そして、合成樹脂被膜の形成について、本件登録実用新案の要旨は、「経糸aを予め合成樹脂溶液中に挿通して経糸aの全表面に無色透明の合成樹脂被膜を形成し」というにとどまることは、前示認定から明白である。そうすると、既述のとおり、たとえ糊付けの目的のためであるとはいえ、織成に際し経糸だけに糊付けすることおよび糊付けのため糸を合成樹脂溶液であるポリビニルに浸すことが本件登録実用新案の出願前一般に知られていたところである以上、叙上本件登録実用新案の考案は、これら公知の事項から、少なくとも、当業者においてきわめて容易に考案することができたものであるといわなければならない。
(三) この点に関し、原告は、本件登録実用新案の考案における合成樹脂被膜の形成は、糊付けのように織成後除去するものではない、恒久的な効果を保持するような合成樹脂溶液を用い、そのような効果を有するような方法で行なうものであり、そのことは本件登録実用新案の公報の「考案の詳細な説明」の項の記載を参照すれば明白であるとの趣旨を主張する。
なるほど、本件登録実用新案の公報の「考案の詳細な説明」の項に、「本考案によれば経糸aに樹脂加工を施してその表面に無色透明の樹脂被膜1を形成せしめた……。しかも経糸aは透明の合成樹脂加工で経糸bは何等の処理を施さない麻糸を使用するから樹脂加工を施さない普通の麻糸を使用した織物とその風合、触感共に殆んど変らず、麻織物独特の風合を維持し」および「平組識A、紗組識Bともこの経糸はすべて前記及び第4図に示す如く樹脂加工した麻糸を使用するものである」との各記載の存することを認めることができる。
しかしながら、「考案の詳細な説明」の全体、とくに、同項中に、一方では、「本考案は……その要旨とするところは、経糸aを予め合成樹脂溶液中を挿通して経糸aの全表面に無色透明の合成樹脂被膜1を施し、この経糸と……を使用し」との記載があることおよび「実用新案登録請求の範囲」の記載を総合考案するときは、本件登録実用新案は、原告主張のように、恒久的に残存すべき合成樹脂の溶液を使用し、恒久的に残存させるような方法で合成樹脂被膜を形成する場合を包含するとしても、かかる場合にのみ限定されるべきもの、換言すれば、かかる場合のみを構成要件とするものと解することはできない。
そうすると、少なくとも、叙上のような被膜の恒久的保持を可能とすることを問題としない限り本件登録実用新案が少なくとも進歩性を有しないものと認めるべきことが既に判示したとおりである以上、結局において本件登録実用新案は、公知の事項から当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認めるべく、この点に関する原告の主張は当裁判所の採用しがたいところである。
三、以上のとおりで、本件審決には原告主張のような取消事由は認められず、本件審決には原告主張のような取消事由は認められず、したがつて、本件審決には原告主張のような取消事由は認められず、したがつて、本件審決を違法としてその取消を求める原告の本訴請求は失当として、棄却さるべきである。
(服部高顕 滝川叡一 奈良次郎)