東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)85号 判決 1971年10月29日
原告 東洋化工株式会社
被告 特許庁長官
主文
特許庁が、昭和四五年五月二〇日、同庁昭和四一年審判第九、四三二号事件についてした審決は、取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求は、棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二請求の原因
原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における本件手続の経緯
原告は、昭和四〇年一二月三〇日、別紙記載のとおりの構成から成る商標について、第二九類茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、氷を指定商品として、商標登録出願をしたところ、拒絶査定を受けたので、これを不服として、昭和四一年一二月二九日審判の請求をし、昭和四一年審判第九、四三二号事件として審理されたが、昭和四五年五月二〇日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年八月二四日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由の要旨は、登録第七一二、五六三号商標(昭和三九年九月一日商標登録出願、昭和四一年七月七日登録)を引用し(以下「引用商標」という。)、引用商標は、「ビタレモン」の片仮名文字を角ゴシツク体で横書きしてなり、第二九類レモン果汁を加味した茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷を指定商品とするものであるところ、本願商標と引用商標の称呼を比較するに、本願商標において、「ドリンク」の文字は、指定商品について品質表示と認められる「飲料」または「飲料水」の意味で一般に親しまれている「DRINK」の英語の字音を片仮名文字で表示したものであることは取引の実際に照らし明らかであるから、「ビタドリンク」の表示中何ら格別の意味を見出だしえない「ビタ」の文字部分が自他商品識別標識として圧倒的に顕著な部分であるとし、この部分より「ビタ」の称呼を生ずるものとするのが簡易迅速を尊ぷ取引の経験則に徴し相当である。一方、引用商標は、同様の観点から、「レモン」の部分は、指定商品との関係において、レモン果汁もしくはレモン香料を加味したものという品質表示の部分であり、「ビタ」の部分が自他商品識別標識として顕著な部分として認められ、この部分より「ビタ」の称呼を生ずる。したがつて、本願商標と引用商標とは、互いに称呼を共通にし、この点において取引上彼此相紛らわしい類似の商標と認められ、それぞれの指定商品も互いに牴触するから、結局、商標法第四条第一項第一一号の規定に該当し、登録を受けることができない、というにある。
三 本件審決を取り消すべき事由
本願商標および引用商標の構成および指定商品ならびに引用商標の登録出願および登録の各年月日についての本件審決の認定は争わないが、本件審決は、本願商標と引用商標が称呼において相類似すると判断した点において判断を誤つた違法があり、取り消されるべきである。すなわち、本件審決は、前記のとおり、本願商標と引用商標の称呼抽出に当たり、いずれについても「ビタ」の語を要部として認定したが、「ビタ」は「Vita」または「Bitter」すなわち、「ビタミン入り」または「にがい」を意味し、この語が品質を表示したものであることは明白であるから、特別顕著性の薄い語とみるべきである。そして、本願商標において「ドリンク」の語が「飲物」を意味することは顕著な事実であるから、このような場合には全体を一体不可分のものとしてみるのが取引者需要者間の常識である。したがつて、本願商標および引用商標ともに、分離して称呼を抽出すべきでなく、一連不可分のものとして、本願商標からは「ビタドリンク」、引用商標からは「ビタレモン」の称呼を生ずるものとすべきであり、これと異なつた認定をして両者の類否を判断した本件審決は違法というべきである。
第三被告の答弁
被告指定代理人は、答弁として、次のとおり述べた。
一 請求の原因第一項および第二項の事実は、認める。
二 同第三項の主張は、争う。
「ビタ」の語が「ビタミン入り」のものを表示するものとして、取引上普通に使用されている事実がないことは、本件審決が認定したとおりであり、本願商標または引用商標において、「ドリンク」または「レモン」なる片仮名文字が自他商品の識別標識として認識されないものであることが顕著な事実である以上は、原告主張のように、取引上この部分をも「ビタ」の部分と不可分一体のものとして称呼しなければならない道理はない。したがつて、本件審決は正当であり、原告主張の違法は存しない。
第四証拠関係<省略>
理由
(争いのない事実)
一 本願商標に関する特許庁における手続の経緯、本件審決の理由の要旨、本願商標および引用商標のそれぞれの構成、指定商品および商標登録出願年月日ならびに引用商標の登録年月日が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決は、本願商標と引用商標とは、その称呼を共通にするから、相類似するものであるとしているが、以下に説示するとおり、両者はその称呼を異にするものとみるを相当とし、この点において本件審決はその判断を誤つた違法があるものというべきである。
1 前記争いのない事実によると、本願商標は、太い円輪郭内に丸く図案化した図形を配して成る別紙記載の図形を描き、その下部に「ビタドリンク」の片仮名文字を筆記体で横書きして成る構成であるが、右図形の部分はこれを何と指称すべきか極めて不明確な図形であるから、通常の取引者、需要者はもつとも親しみ易く、かつ、理解され易い文字の部分をもつて、これを附している商品を指称するものとみるべきであり、したがつて、この文字部分より称呼を生ずべきものとするのが相当である。ところで、本願商標中「ビタドリンク」の文字部分をみるに、「ドリンク」の部分が「飲料水」、「飲物」を意味することは明らかであるから、この部分が看者の注意を引き、特別な印象を与えるものといい難いこと勿論であるが、「ビタ」の語も、成立に争いのない甲第三ないし第一二号証、第一四号証の七、第一五ないし第二七号証、第三〇号証の一および第三一号証の一ないし一〇ならびに証人西川千孝の証言を総合すると、他の語と結合され、多くの商標に用いられており、しかもその中には、明らかに「ビタミン」ないし「ビタミン入り」を意味するものとして使用される場合があることを認めることができるから、前記当事者間に争いがない本願商標の指定商品との関係において使用された場合、この語自体が看者の特別な注意を引くものといいえないことは見易いところというべく、結局、本願商標は、上記二語を結合したこれまでにみられない表示形態において、取引者、需要者に格別な印象を与えるものと認めるを相当とし、したがつて、本願商標からは「ビタドリンク」の称呼を生ずるものとみるべきである。このことは、成立に争いのない甲第三五号証、第三八号証の一ないし一六および第三九号証ならびに証人本橋浩二および同西川千孝の各証言を総合すると、現に、原告会社製の清涼飲料水「ビタドリンクD」が「ビタドリンク」と指称されて、取引者、需要者間において、取引、販売されている事実が認められることに照らしても肯認しうるところであり、右認定を覆すに足る資料はない。
2 他方、引用商標の「ビタレモン」の文字中「ビタ」の語は、前認定のとおり格別看者の注意を引く程度のものでなく、また、「レモン」の語は、前認定の引用商標の指定商品との関係において、「レモン果汁」ないし「レモン果汁ないしレモン香料を加味したもの」を意味し、自他商品についての識別力を有しないものであるから、引用商標は上記二語を組み合わせた一連不可分の形態において、看者の注意を引き、印象を与えるものと認めるべきであり、引用商標からは、「ビタレモン」の称呼を生ずるとするのが相当である。
3 叙上のとおり、本願商標からは、「ビタドリンク」、引用商標からは、「ビタレモン」の称呼をそれぞれ生じ、両者が相類似しないことは明らかであるから、両者が称呼において類似するとした本件審決はその判断を誤つたものというほかない。
(むすび)
三 以上説示したとおりであるから、その主張の点に違法があることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第七条および民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 三宅正雄 土肥原光圀 武居二郎)
別紙
本願商標