東京高等裁判所 昭和45年(行コ)33号 判決 1970年7月31日
東京都目黒区下目黒四丁目一番一七号
控訴人
遠藤一平
右訴訟代理人弁護士
岡昌利
東京都千代田区大手町一丁目七番地
被控訴人
東京国税局長
安川七郎
右指定代理人
斎藤健
日野照夫
藤田誠一郎
小林亘
右当事者間の所得税更正処分等に関する裁決取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人(原審原告)の求めた判決は次のとおりである。
原判決を取消す。
被控訴人が控訴人に対し昭和四三年七月一七日付でした控訴人への左記各審査請求に対する各裁決はこれを取消す。
(一) 昭和三三年度分所得税更正処分ならびに過少申告加算税および重加算税の賦課決定処分
(二) 昭和三四年度分所得税更正処分ならびに過少申告加算税および重加算税の賦課決定処分
(三) 昭和三五年度分所得税更正処分および重加算税賦課決定処分に対する昭和三八年三月二五日付審査請求
(四) 昭和三八年度分所得税の更正請求について更正すべき理由がない旨の通知処分に対する昭和四一年九月一二日付審査請求
(五) 昭和三九年度分所得税更正処分および過少申告加算税賦課決定処分に対する昭和四一年六月七日付審査請求および更正請求について更正すべき理由がない旨の通知処分に対する昭和四一年九月一二日付審査請求
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
被控訴人(原審被告)は主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実に関する主張および立証は、次に補足するほか原判決事実摘示のとおりであるから、その記載を引用する。
控訴人は次のように述べた。
審査請求をした控訴人には、被控訴人に対して送達場所変更の届出をするとか、自ら住所に立寄つて送達の有無を確かめるとか管理人に回送を依頼するとかして送達の事実を了知するための措置を講ずべき法律上の義務はない。また被控訴人もそのような主張をしていない。
本件審査請求は、控訴人が税法上の債権発生主義により二億数千万円の納税をしたところ、この債権が取立不能となつたため課税決定の取消と納税金の返還を請求した事案であるから、このような事案について請求者本人を一度も調べず先入観と偏見をもつて請求を却下したことは著るしく正義に反し、その手続自体が無効とゆうべきである。実質的にみても国が二憶数千万円を不当利得しているわけであるから、本訴請求を単に出訴期間従過の理由で却下することは正義に反するものである。
理由
控訴人の主張する昭和四三年七月一七日付各裁決の各裁決書謄本が、同年九月七日に三通、九月一二日に二通、いずれも目黒区下目黒四丁目一番一七号目黒グランドマンションに郵便をもつて配達された事実は、真正な公文書と認められる甲第一号証の一ないし五および乙第一号証の一ないし五によつて、これを認めることができる。
一方原審証人泉重芳の証言と右証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証の一ないし四によれば、控訴人は昭和四三年九月三〇日右マンション内の自室で東京国税局泉事務官と電話し、同事務官から、行政訴訟で一部敗訴したときの延滞金の点について説明をうけ、また同年一〇月三〇日右自室で同事務官と電話し、同事務官に、訴訟提起期限は一二月八日であるから目下その準備中であると語つたことが認められる。
以上認定の事実を総合すれば、控訴人は遅くとも昭和四三年九月三〇日には本件各裁決書謄本を現実に受領していたことを肯定するほかはない。原審証人内布、斎藤、高橋の各証言は右認定を動かすに足るものでなく、甲第二号証の一、二の存在も右認定とそごしない。そうして、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用することができない。
右認定のように、控訴人が遅くとも昭和四三年九月三〇日には本件各裁決書謄本を受領していたとされる以上、控訴人が本件裁決のあつたことを知つた日もこれと同日とすべきであり、他方本訴提起の日は昭和四四年七月一六日であつて(訴状受付印による)、行政事件訴訟法第一四条第一項所定の出訴期間経過後であることは明らかであり、期間不遵守が控訴人の責に帰しえない事由による旨の主張はないのであるから、本訴は不適法であつて却下を免れない。
なお、控訴人が当審で陳述した事項中、審査請求者の義務について被控訴人の主張がないとの点は、職権調査事項に関する陳述としては不適切であるし、不当利得云々の点は、本件について裁判所が実体判決をすべき場合にはじめて主張しうる事項であるので、いずれもこれを採りあげない。
以上説示のとおりであり、本件訴を却下した原判決は相当で本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のように判決する。
(裁判長裁判官 近藤完爾 裁判官 田嶋重徳 裁判官 吉江清景)