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東京高等裁判所 昭和45年(行コ)41号 判決 1974年12月28日

(控訴人・付帯被控訴人)公共企業体等労働委員会

(被控訴人・付帯控訴人)全逓信労働組合都城市北諸県郡支部

(参加人)国

訴訟代理人 矢崎秀一 堀井善吉 ほか二名

主文

本件控訴ならび付帯控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の、付帯控訴費用は付帯控訴人の、当審における参加によつて生じた訴訟費用は参加人の各負担とする。

事実

控訴人(付帯被控訴人。以下単に控訴人と表示する。)代理人は控訴につき、「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、付帯控訴につき付帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人(付帯控訴人。以下単に被控訴人と表示する。)代理人は控訴につき、控訴棄却の判決を求め、付帯控訴につき、「原判決中被控訴人敗訴の部分を取消す。控訴人が昭和四〇年三月八日にした原判決別紙命令書記載の命令中、被控訴人の申立を棄却した部分のうち、原判決によつて取消された部分を除くその余の部分を取消す。」との判決を求めた。

当事者双方および参加人の事実上、法律上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、次に記載したほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(控訴人代理人の陳述)<省略>

(参加人代理人の陳述)<省略>

(被控訴人代理代の陳述)<省略>

(証拠関係)<省略>

理由

一  当裁判所の認定、判断は、次に記載するほかは、原審のそれと同一であるから、原判決の理由の記載をここに引用する。

(一)  原判決理由C八丁裏九行目から一〇行目にかけて「乙第四七号証、」とあるのを「いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第四七号証および」と改め、同一〇行目の「乙第七一号証」とあるのを「成立に争いのない乙第七一号証」と改める。

(二)  控訴人および参加人は、組休の制度は、組合に対する便宜供与であるから、労使関係が平常な状態にあるときに限つて与えらるべきものであつて、労使関係が闘争状態にあるときには、これを拒否しても不当労働行為にはあたらないという趣旨の主張を当審においてもくり返しているが、組休の付与が、一種の便宜供与の性質をもつものであつても、本件においてこれを与えなかつたことが不当労働行為に該ると解されるゆえんは、原判決の詳細に説明したところである。

(三)  服務表に関する団体交渉の拒否について

控訴人および参加人は(イ)昭和三三年四月一五日に郵政省と全逓との間に結ばれた「勤務時間および週休日等に関する協約」ならびに同付属覚書によつて、服務表の作成は所属長が一方的に定めるものであることが合意されたから、団体交渉事項ではなく、もし職員が服務表の作成変更につき不満があるならば、若情処理制度によつて解決すべきである。(ロ)そうでないとしても、本件服務表の件に関し、当局側は、「交渉には応じられないが、話し合いには応じると回答したから、これをもつて団交拒否の不当労働行為と断定することは困難である。と主張し、さらに参加人は(ハ)元来国家行政組織法上、労働協約の締結権は郵政大臣に専属しているのであるから、特段の委任のない限り、たとい抽象的には団体交渉事項に該当するものであつても、交渉当事者が協約を締結する具体的権限を有しないものは、団体交渉の対象にならないとし、郵便局長には、労働基準法二四条、三六条所定の事項および「団体交渉の方式および手続に関する協約」で認められた事項にのみ団体交渉権限が与えられているにすぎないと主張する。

これらに対する当裁判所の判断もおおむね原審の判断と同一であるが、さらに次のとおり付加する。

(イ)昭和三三年四月一五日の郵政省と全逓との間の「勤務時間および週休日等に関する協約」の付属覚書により、服務表は、所属長がこれを定めるものとされたことは、原判決の認定するとおりである。しかし、このことから直ちに、服務表に関する一切の権限は所属長に属し、従つてこの問題が団体交渉の対象から除外されるに至つたと解することはできない。参加人指摘の、法律上、団体交渉の対象外とされる事項(1)管理運営事項、(2)法定事項、(3)権限外事項および(4)苦情処理事項について考えてみるに、(1)服務表は日常の勤務の労働条件に関するものであるから、いわゆる管理運営事項にはあたらないし、(2)法令によつて定められたもの即ち法定事項でないことも明らかであり、(3)権限外事項でないことは、右覚書が所属長の権限としていることからも、問題の余地がない。また、(4)服務表についての個人的な苦情即ち他の一般の勤務者とは関係なく、特定個人の具体的な労働条件に関する苦情が問題であるならば、それらは明らかに苦情処理制度になじむものといえようが、本件のような郵便課一般の労働条件として提起された問題は、苦情処理の対象とすべきではないから、苦情処理事項ともいうことができない。従つて、本件のような服務表の内容に対する不服は、公労法八条一号にいう団体交渉事項というべきである。

参加人は、郵政省と全逓との間に労働協約が締結されている事項について、さらに下部段階で団体交渉を行なう場合には、当該労働協約にその旨を明定することとされており、同協約に下部における団体交渉を行なう旨が規定されてない場合には、下部において団体交渉を行なうことは労使共に予定していないところである。とし、服務表に関する前記中央協約にはなんらその趣旨の定めがなく、かえつて所属長がこれを定める旨明定しているから、これについては団体交渉ができない。とも主張する。

しかし、右主張はむしろ本末を転倒した議論であつて、元来勤労者の団体交渉権は、憲法二八条が明文をもつてこれを認めた基本的な権利であるから、現行法上、団体交渉事項として認められている事項を、交渉の対象外の事項とするためには、当事者間の協約において、その旨明文をもつて規定することを要するものと解するのが相当である。しかるに、前記昭和三三年四月一五日の協約の付属覚書には、単に「所属長は所属職員に対する左の各号の事項について、服務表を定め、これを関係職員に周知するものとする云々」、(第一八項)<証拠省略>と定められているのみであつて、それ以上に、服務表に関する紛争がその局所における団体交渉の対象外事項であることを明記したものは存しないのである。そうだとすれば、右協約ないし覚書を根拠として、本件の服務表に対する不服が、団体交渉の対象外であるとする参加人の主張は失当といわなければならない。尤も参加人は、右協約の成立の前後において、この問題につき、全逓より省側に対し、所属長権限を労使の団交事項とするよう要求があり、これに対して省側は終始右要求には応じなかつた点を指摘し、このことから右覚書の合意は、所属長の専権事項即ち団体交渉の対象外事項であることを当然の前提とするものであるとも主張する。なるほど、<証拠省略>によれば、省当局と全逓とは、昭和三二年一一月初旬に行なわれた団体交渉において、年末手当、勤務時間等の協約締結その他の事項について交渉した際に、服務表作成の問題もとりあげ、これについて組合側は、服務表作成については本人(組合側)の同意を得べき旨主張したのに対し、省側は組合の主張は絶対に容れられないとして交渉が行なわれた結果、組合側において「服務表の作成には職員の意見を聴く。最終的には所属長の権限で行なう。服務表は勤務を実施する日の一週間前に四週間分を作成して職員に通知する。」ということで諒承した事実が認められ、また、<証拠省略>によると、省側と全逓との間に、昭和三六年七月二一日から二五日に至るまでの間、三回にわたつて、前記昭和三三年四月一五日付調印にかゝる「勤務時間および週休日等に関する協約」の運用に関して団体交渉が持たれ、その際特に服務表の作成について交渉が行なわれたこと、この交渉において組合側は、前記協約付属覚書<証拠省略>一八項にいう「所属長の定めとされる服務表の作成、変更、組合支部と話し合つて決めるべきである。話し合いがまとまらぬ場合は、その問題を地方本部、さらには本部に上移し解決に努めることを確認せよ」と主張したのに対し、省側は「服務表の作成は、協約上所属長に決定権があると明文化されており、所属長の権限で行なうべきことに疑問の余地がない。しかし服務表の変更について、組合支部の意見があれば、それを聴くにやぶさかではない。しかし、あくまでも最終的決定権は所属長にある。服務表の変更に際しては、周知の二、三日前に改正案を支部に内示して、支部としての意見があれば所属長がこれをうけたまわるように指導する。なお、この話し合いによつて服務表の変更に関する所属長の権限の行為について制約が加えられるべきではない。また所属長権限の問題については、本来上移というような問題は起り得ない筈である。従つて支部段階での話し合いがまとまらないからといつて、上移することはできない。ただ、省としては上部機関による事実上の話し合いまで否定する積りはない」と答えて譲らず、これに対し、組合側は「組合としては、省側の回答は納得できないが、省がそのような内容の指導を行なうであろうことを下部に周知することにする」と回答して交渉が打ち切られ、省当局としては、結果的には省側の意見が通つたもののごとく理解していたこと、そして省は、直ちに下部機関に対し、右交渉の経過を通知し、服務表改正については、右省側回答の線に沿つてこれを行なうよう指示したことが認められる。しかし、一方において、<証拠省略>によれば、服務表を所属長が定める旨の覚書の条項が挿入されるに至つたのは、省側としては、服務表が常に団体交渉によらなければ作成できなかつたり、その他もろもろの勤務条件が個々の職員に指定されないということはでは大変だという認識があり、組合側と交渉の結果、所属長は配下の職員に対して、服務表の指定とか勤務指定は行なうが、これに対する団体交渉の権利は当然組合側に留保されているという諒解の下で前記覚書の条項ができ上るに至つたものであると認められる。

以上のごとくであつて、右覚書作成当時およびその後の事情からみても、必ずしも参加人の主張するような、所属長の権限が一切の団体交渉を排除するほどのものとして、労使双方に、明確に諒解されていたものということはできない。

従つて、このような背景的事情をもつて、服務表に対する所属長の専権を理由づけようとする参加人の主張も採用することができない。

次に(ロ)当局側が、服務表に関し、「交渉には応じられないが、話し合いには応じる」と回答したことが、団体拒否の不当労働行為性を阻却する旨の主張の採用できないことについては、原判決が充分説示するところであつて、特段に付加することはない。

そこで、次に(ハ)郵便局長には労働協約締結権がないから、団体交渉権はなく、労働基準法二四条、三六条所定の場合および「団体交渉の方式および手続に関する協約」で認められたもの以外については、団体交渉に応ずる必要はない。との主張について述べる。

参加人が力説するように、労働協約締結権は、職制上、郵政大臣より特段の授権のない限り、当然には郵便局長がこれを保有しているものということはできず、また、郵政省置法ならびに郵政省職務規程上、これを認めた規定はない。従つて郵便局長が団体交渉の相手方となり得るのは、労働基準法二四条および三六条所定の場合および「団体交渉の方式および手続に関する協約」によつて認められた交渉に限るものであることも参加人の主張のとおりである。

従つて問題は、本件服務表についての不服が右の限られた場合に含まれるか否かにあるのである。ところで右服務表の不服が労働基準法二四条および三六条の問題でないことは、原判決の認定によつて明らかなところであるから、問題は、もつぱら本件が、「団体交渉の方式および手続に関する協約」によつて認められたものといいうるか否かにかゝつているのである。<証拠省略>によれば、右の「団体交渉の方式および手続に関する協約」は昭和三五年四月三〇日、郵政省当局と全逓との間に結ばれたもので、中央交渉(本省と中央本部)のほかに地方交渉(郵政局とこれに対応する地方本部)および支部交渉(局所とこれに対応する支部)による団体交渉が認められ、団体交渉を行なう場合は、交渉事項、交渉委員の氏名、説明員の氏名、交渉日時およびその他必要事項をあらかじめ相手方に申し入れるものとすること(第四条)、団体交渉の手続については、この協約によるのほか、地方交渉および支部交渉において必要とみとめたものは、協議のうえ決定することができる(第五条)との規定があるほかは、交渉事項、とくに団体交渉の内容を限定するような定めはなく、確認事項として、「協約第四条について組合側が『この条に交渉事項という規定があるため、交渉申入れの段階で甲側(郵政省側を指す)が交渉事項でないとして交渉を拒否することがあるのではないか』と質問したのに対し、省側は『この規定をそう入した趣旨は、あらかじめ交渉事項を知ることにより、事前に検討を加え、団体交渉を円滑に運営することができるようにするためのものであり、交渉事項であるか否かの問題は、公労法第八条の問題であるからこれをこの条で争う意思はなく、明らかに管理運営事項であるものについては別として、交渉事項かどうか疑わしい事項については、一応交渉に入つたうえで明らかにするようにする。』旨回答したこと、」の記載のあること、以上の事実を認めることができる。尤も、<証拠省略>よりすれば、昭和三六年当時、郵政省当局は、地方における団体交渉の対象事項は、労働基準法二四条、三六条所定の事項のほかには右の「団体交渉の方式および手続に関する協約」によつて認められた事項であるとし、後者の事項とは、結局団体交渉の手続に関する事項にかぎられ、その他の事項は、職員の労働条件に関するものであり、かつ、地方における部局の長の職務権限に属するものであつても、特に中央交渉によつて地方交渉による対象事項としてはならないものとし、これらの事項について必要がある場合は、苦情処理手続によつて解決すべく、この制度によることが適当でない場合は、事実上の「会見」または「話し合い」の方法によつて解決し、労使の意思の疎通をはかるべきで、法律上の拘束力をもつ協約の締結を目的とする団体交渉の方法によるべきではない。郵政局長、郵便局長らがこれに違反して、支部組合と団体交渉をし、協約を締結しても、権限外の事項として無効であるとの見解を堅持し、この見解のもとに中央交渉にのぞみ、かつ、地方郵政局長、郵便局長らの管下各機関を指導していたこと、都城郵便局長が昭和三六年一〇月二三日被控訴人に対し、従来両者間に結ばれていた覚書、確認書などによる約束事項をすべて破棄する旨通告した<証拠省略>のも、郵政省当局が以上の見解に基づき都城局におけるこれらの約束事項が、いずれも地方交渉の対象事項でなく、同局長の権限を超えてなされた無効のものであるとし、同局長に対し、その無効を宣言する趣旨において破棄通告をなすべく具体的に指示したことの実行に他ならないことを認めることができる。そして、<証拠省略>によれば、前記「団体交渉の方式および手続に関する協約」の締結までの間に、郵政省と全逓との間で、地方における団体交渉の対象事項を定めるか否か、定めるとすればどのように定めるかをめぐつて、前記のような省側の見解と、公労法八条所定の事項はすべて地方における団体交渉についても対象事項となるべきであるとの組合側の見解とが対立していたが、結局前記認定のような協約条項が定められ、かつ、右協約は団交事項の内容を限定するものではない旨の確認事項が合意されるに至つたものであることを認めることができる。

以上認定の諸事実に基づいて考えるのに、「団体交渉の方式および手続に関する協約」は、その成立に至るまでの間に、労使の間で幾度となく議論が交わされたけれども、結局は、団体交渉の対象事項については、これを限定したものではなく、もつぱら団体交渉の形式および手続面についての合意をなしたものと解すべきである。従つて参加人が、郵便局長には、労働基準法二四条、三六の場合のほかに、「…右協約によつて認められた場合」にのみ協約締結権および団体交渉権があるとし、恰も右協約が団体交渉事項を(例えば手続、方式の問題のみに)限定したもののごとく主張しているのは誤りというほかはない。なお、参加人の主張が、郵便局長には、元来、郵政大臣よりなんらの協約締結権が与えられてないのであるから、右協約が交渉当事者として郵便局長を認めても、それは形式的資格にすぎず、結局、内容的になんらの授権がない以上、局長は一切の問題について団体交渉権がないという趣旨であるとすれば、それは、右協約の支部交渉に関する規定の部分を空文化するものであり、かつ、確認事項…「交渉事項であるか否かの問題は、公労法第八条の問題である…」の趣旨にも違背し、採用することのできない見解である。してみれば、本件の協約によつて、郵便局長は、当該郵便局における公労法八条所定の問題については、少なくとも団体交渉権が与えられたものと解するのが相当である。なお、この点に関し、参加人は、協約締結権のない団体交渉権は認められないから、郵便局長について右のような団体交渉権のみを認めるということは許されないとも主張する。協約締結権と団体交渉権とが常に結合した一個の権限でなければならないか否かの点については、議論の存するところであるが、少なくとも本件協約が郵便局長に対して団体交渉権を認めたことは、必然的に、省側が郵便局長の権限内の事項に関する限り、これに伴つて協約締結権をも授権したものと解するのが相当である。そして、本件服務表に関する問題が郵便局長の権限内の事項であり、かつ、公労法八条所定の団体交渉事項にあたることはすでに前記口の主張について判示したとおりであるから、参加人の右主張も本件服務表の問題については、当らないというべきである。かようにして、参加人の(ハ)の主張もまた採用することができない。

(四)  被控訴人の服務表以外の事項についての団交拒否に対する主張に関する当裁判所の判断は、すべて原審の判断と同一であり、いずれの主張も採用することができない。

二、以上のとおりであるから、控訴人の本件控訴、および被控訴人の本件付帯控訴はいずれも理由がないので、それぞれこれを棄却することとし、控訴費用、付帯控訴費用、当審における参加によつて生じた費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浅賀栄 小木曽競 深田源次)

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