東京高等裁判所 昭和45年(行コ)75号 判決 1971年5月26日
控訴人(原告) 中島與市
被控訴人(被告) 特許庁長官
原審 東京地方昭和四四年(行ウ)第八一号(昭和四五年一〇月三〇日判決、二巻二号五四六頁参照)
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取り消す。特許庁が昭和三四年一二月二二日同庁昭和三三年抗告審判第三〇四三号事件についてした審決は無効であることを確認する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。
事実および証拠関係は、つぎに記載するもののほか、原判決事実欄記載のとおりであるから、それをここに引用する(但し、原判決五枚目裏九行目に「四〇四三」とあるのを「三〇四三」と訂正する。)。
控訴人は、「控訴人の特許願に対して、拒絶理由通知(昭和三〇年六月六日)をしたのは審査官田中市之助であり、拒絶査定(同年八月四日)をしたのは審査官大島道男であつても、大島審査官は、先輩たる田中審査官の示した拒絶の理由をそのまま支持したにすぎないから、この拒絶の結果、出願の変更が行なわれて発生した実用新案登録願の拒絶査定不服抗告審判においても、審判官田中市之助は、当然のことながら、事件について予断をもつて審判をせざるをえない立場にあつたことは否定できないところであり、同審判官は審判の関与から除斥されるべきであつた。」と述べた。
立証<省略>
理由
当裁判所の判断の理由は、つぎのとおり附加、訂正するほか、原判決の理由と同一であるから、それをここに引用する。
一 原判決九枚目表二行目(編注、二巻二号五五二頁八行目)「というが、」のつぎに、「右にいう審決に対する訴えとは、特許法第一八一条(旧特許法第一二八条ノ五参照)によつても明らかなとおり、審決の取消しの訴えを指すのである。そして、審決に対する訴えについて特許法等に特別の規定があるからといつて、行政事件訴訟法の一般原則にしたがい、審決の存否またはその効力の有無の確認を求める審決の無効等確認の訴えを提起しえないものと解すべき理由はなく、ただ、特許庁における審判(抗告審判)がいわゆる準司法的性格をもつことにかんがみ、審決の無効事由については、判決の場合に準じて考えるのを相当とし、この点で一般の行政処分とは異なつた考察を必要とする。しかして、」を挿入する。
二 同三行目(編注、二巻二号五五二頁九行目)「同法第一八一条によつても明らかなとおり、」を削る。
三 原判決一〇枚目表八行目(編注、二巻二号五五三頁六行目)に「ところで、」とあるのを、「しかしながら、かりに、控訴人主張のように、除斥原因のある審判官が抗告審判に関与した事実があつたとしても、そのような事実は、審決に対する再審の事由とはなりえても、審決を当然無効ならしめるほど重大な瑕疵であるということはできない。のみならず、」と改める。
以上のとおりであるから、本件審決に控訴人主張の無効事由はないとして控訴人の請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は矢当であるからこれを棄却し、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 杉山克彦 武居二郎 楠賢二)