東京高等裁判所 昭和46年(う)1181号 判決
被告人 茨木政通
〔抄 録〕
記録を調査し、かつ、当審の事実取調の結果をも参酌し、これにあらわれた本件の交通事故は、被告人が、昭和四五年四月二二日午前一〇時四〇分ころ、普通貨物自動車(長四ほ六八八号)を運転し、県道大町明科線道路上を池田町方面から大町市方面に向け時速約六〇キロメートルで進行中、睡眠不足と疲労のためねむけをもよおし、そのため前方注視、ハンドル、ブレーキの確実操作などによる正常な運転をすることができないおそれがあつたので、このような場合、自動車運転者としては最も基本的な一たん運転を中止し、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、仮睡状態のまま漫然前記速度で運転を継続したため、長野県大町市大字社九〇五番地先の道路において、自車を右斜め前の対向車線内に進行させ、おりから対向して進行してきた平林亨(当時五二年)の運転する軽四輪乗用自動車に衝突させたため、その運転にはなんらの落度がない右同人をして同日午後一時一〇分ころ、原判示大町市立大町病院において原判示の傷害により、平林亨と同乗していた平林茂留(当時八〇年)をして同日午後零時四〇分ころ、同病院において原判示の傷害により、いずれも死にいたらしめ、さらに平林亨と同乗していた遠藤盛雄(当時四七年)に対し全治約一ケ月間を要する原判示の傷害を、自車に同乗していた妻茨木志万子(当時二九年)に対し加療約三週間を要する原判示の傷害を、それぞれ負わせたものであつて、その過失の程度および結果は重大であり、被告人の刑事責任もまた、きわめて重大であるといわなければならない。そして、本件犯行の動機、罪質、態様、その他諸般の情状を総合考察し、近時本件と同種の交通事犯がかなり多く発生し、一般社会に大きな不安を与えている情勢にあることにかんがみるときは、原判示被害者の遺族および被害者との間にそれぞれ示談が成立していることなどの情状を考慮に入れても、被告人の禁錮刑に執行猶予を付した原判決の量刑は、軽きに失して不当であると認められる。
(吉川 綿引 山崎)