大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(う)2003号 判決

被告人 金子金太郎

〔抄 録〕

所論は、本件は強盗、私文書偽造、同行使、詐欺ではなく、単なる暴行罪を構成するに過ぎないと主張し、被害者高月ハルを自宅に連れ込んだのは強盗の目的でなしたのではなく、原判示の三日午後三時ころに暴行を加えたのも妻がなかなか帰らないのを、被告人と共謀の上預金通帳、印鑑を持ち去つたかのように疑われて、腹立ちまぎれにやつたことであり、高月を縛つて押入に入れ猿くつわをかませたのも、同女が大声を出し近所に聞こえるといけないからであつて、強盗の目的でなしたものではなく、手足を縛つた紐は二、三〇分後には解いていて、同女が押入に入つていただけであり、預金通帳や印鑑は翌朝右高月の同意を得て借り受けたものであつて、預金払戻の権限を与えられている同女の了解の下に、高橋信雄ほか八名名義の払戻請求書を作成し、印鑑を使用したのであるから、強盗罪や私文書偽造、同行使、詐欺の罪を構成するものではないというのである。

しかしながら原判示事実はおおむね原判決挙示の証拠就中原審証人高月ハルの供述、被告人の司法警察員に対する供述調書、被告人の検察官に対する供述調書でこれを認めることができ、当審における事実取調の結果によつても右認定を左右することはできない。原判示事実によれば被告人が強取の決意を固め、現金、預金通帳、印鑑等を奪つたのは三日の午後八時ころだというのであつて、この点は被告人の検察官に対する供述調書でこれを認めることができる。即ち被告人は六畳の間の押入に高月を押込んだ後四畳半の間にあつた鞄をそこの押入にかくしておき、午後八時ころになりこれを持ち出し、その鞄を開いて中味を調べ判示金品を取り出してタンスの上に置き、鞄は又押入に入れたのであつて、そのころ高月は六畳の間の押入の中に縛られており、既に鞄に対する支配をなし得ない状態にあつたから少くともこの時点において被告人は右鞄とその在中品の所持を取得し、不法にこれを領得したものということができる。被告人は翌日朝食後金借を申し入れて同女の承諾を得たというが、後に認定するように、それが認められないのみならず、これは強取後の行為であるに過ぎない。被告人は高月の手足を布紐で縛つていたのは二―三〇分間に過ぎないというのであるが、高月ハルの原審及び当審証言によれば翌日夕刻手洗いに行くまで縛られていたというのであつて、手洗いに行くため解いてみたら意外に簡単に解けたというのであるけれども、被告人の弁疎するように二―三〇分で解放したとは認め難い。

高月ハルの当審における証言によれば、当初は殺されるかと思つて恐ろしかつたが、時間が経過するにつれてそれほど悪人ではないと考え、次第に恐ろしさが軽減されたというのである。しかし、それだからといつて、三日の夜半までの状態を抵抗不能でなかつたということはできない。被告人は右高月と同夜情交関係をもち、朝食後また縛つて押入に入れたのであるが、そのときの右高月の心境としては被告人に持ち去られた預金通帳、印鑑の返却を受けるため、被告人方に留まつていたものと認められるが、強取後の事情の変化が遡つて強盗罪の成立を阻却するわけではない。なお被告人は鞄の中の現金九千円は奪取していないと主張しているが、既に判示したとおり被告人は鞄そのものを奪取したと認められるばかりでなく、高月ハルは当審において四日午後四時ころ鞄を調べたときは現金は入つておらず、一万円は預金を卸した金から返して貰つたものである旨供述しており、被告人の主張は採用できない。

被告人は原審及び当審において高月から預金払戻の方法を教えて貰つた旨述べ、高月もこの事実を認めているのであるが、このように教えたのは被告人の金借の申込を拒否できず、あきらめて教えたというのである。もし高月のこの同意が真意に出たものであるとすれば、同人は高橋信雄ほか八名から同人らに対し毎月福祉事務所からその預金に払い込んで給付される保護費を以て貸金の返済を受けるため、その預金通帳、印鑑を預かつているので、被告人もまた高橋信雄ほか八名の印鑑を用い、払戻に必要な文書を作成する権限を与えられたものということができ、このことは生活保護法第五九条が被保護者に保護を受ける権利の譲渡を禁止していることによつて左右されないものと解することができる。しかし既に判示したように、前夜午後八時ころに預金通帳、印鑑をその支配に収めた経過、同夜半まで高月の畏怖の状態が強度であつたことを考えると、同人の畏怖がややゆるんだ朝食後に払戻の方法を教たものであつてもなお縛られて押入に入れられた状態でのこの同意は到底真摯な意思の表明ということはできず、これが民法上当然無効であるのか、強迫による意思表示として取り消し得るものに止まるのかは別として、刑法上は権限のある者の有効な同意ということはできず、高橋信雄らの名義を以てする預金払戻請求書の作成は私文書の偽造に当り、これを行使して事情を知らない銀行或いは信用金庫の係員等から金員を取得したのは詐欺罪を構成するものといわなければならない。各論旨は理由がない。

(津田 青柳 菅間)

註 本件破棄は量刑不当

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