東京高等裁判所 昭和46年(う)2327号 判決
被告人 富田光男
〔抄 録〕
被害者らの負った傷害の程度の点について検討すると、原判決の挙示する事故当日に作成された診断書二通には、折原弘尚の傷害は通院加療約三週間、大沢奈々子の傷害は通院加療約二週間を要する程度のものとみこまれる趣旨の記載があるので、特段の事由が現われてこない限り、被害者らの傷害は、右診断書においてみこまれた期間を経過することにより治療するに至るものと認められるのであるから、原判決が右診断書の記載にそい、被害者らが約二ないし三週間の通院加療を要した傷害を負ったと認定したのは、首肯できないわけではない。しかしながら、原判決挙示の証拠のすべてを精査し、かつ当審における事実取調の結果ことに証人折原弘尚の当審公判廷における供述をも綜合して、勘案すると、被害者らのうち折原弘尚については、同人は被告人運転の車両に衝突された際、その衝撃により自己の運転する車両の運転席右側のガラス窓に頭部を強く打ちつけ、首にも痛みを感じたので、救急車で病院に運んでもらい、診療をうけたところ、二日間は絶対安静にするよういわれたが、その日の午前中精密検査をうけた結果、特に異常が認められないといわれたので、その翌日からタクシー運転の業務につき、通院をしなかったことが認められ、また大沢奈々子については、同女は衝突による衝撃により、自己の坐っていた座席が前に出て、自己の足が前の座席に押しつけられて原判示の傷害を負ったので、折柄通り合わせたタクシーで病院に運んでもらい、前記折原と一緒の機会に精密検査をうけたところ、同様特に異常が認められないといわれたので、その翌日一日だけバーホステスの勤務を休んだだけで、爾後は平常どおりの勤務につき、通院していないことが認められる。すなわち折原弘尚は治療をうけるための通院をした事実がなく、安静加療一日程度で治癒しており、また大沢奈々子も同様通院した事実がなく、安静加療二日程度で治癒している事実が認められるのである。そうすると、右の点に関し、折原弘尚は約三週間の通院加療を要したと認定し、また大沢奈々子は約二週間の通院加療を要したと認定した原判決は、被害者らについて実際になされた加療の内容、日数と異る認定をしたものであり、従って所論の点に関し誤認をしたものといわなければならない。そして本件事案においては、被害者全員の傷害の程度に関する右のような誤認は量刑上重大な影響を及ぼす事項に関するものであるから、判決に影響を及ぼすことの明らかな誤認である。
(江里口 上野敏 中久喜)