東京高等裁判所 昭和46年(う)3005号 判決
被告人 高橋清
〔抄 録〕
所論は、要するに、原判示第一、第二の大麻粉末は、日本在来種の「アサ」の生の茎、葉等を乾燥粉砕したものであるところ、従来我国において古くから栽培されて来た「アサ」は、所謂「印度大麻」と称せられるものとは形態上も明白に異なる上に、麻酔性物質が全然含まれていないが、仮に含まれているとしてもそれは無に等しい程の極めて微量のものであるから、大麻草の麻酔性に鑑みこれを麻薬に準じて取締らうという大麻取締法の制定目的に照らしても、大麻取締法一条にいう「大麻」の中には、日本在来種の「アサ」は含まれないと解すべきである。大麻の取締りは、麻酔性の強い印度大麻に限定さるべきであり、これを取締る手段として、その含有の無に等しい日本在来種の「アサ」をも等しく、取締の対象とすることは、立法上も、法解釈上も等しく許されないところであり、大麻取締法一条が「大麻とは、大麻草(カンナビス、サテイバ、エル)及びその製品をいう」と規定し、日本在来種の「アサ」も学名上は「カンナビス、サテイバ、エル」に属するの一事をもって、同法一条にいう大麻草に該当すると解釈することは、憲法一二条、一三条、二一条一項等が保障する国民の自由、権利を必要なくして不当に禁止、制限するものであり、違憲たるを免れず、原判決が本件被告人の行為につき、大麻取締法三条一項、二四条ノ二第一号の規定を適用して有罪判決をしたのは、同法一条、三条、二四条ノ二第一号の規定の解釈を誤った違法があり、この違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるというに帰する。
よって按ずるに、大麻取締法一条「大麻とは、大麻草(カンナビス、サテイバ、エル)及びその製品をいう。」と規定しており、右にいう大麻草については、それが外国産であるか日本産であるかにつき、何らの限定がないのであるから、これを所論のように印度大麻に限ると限定的に解釈すべきではなく、日本産の大麻草も当然これに含まれると解釈するのが正当である。そして当審証人渡辺啓三の証言によれば、日本において栽培されている「アサ」の成分中には、産地を異にするに従い含有量は異なるけれども、大麻草の特徴的成分であるテトラヒドロキャンナビール、キャンナビール、キャンビチオールが含まれており、日本産の「アサ」は、大麻取締法一条にいう大麻草と同一植物であることが、実験的にも証明されていることが認められる。さらに、右証言によれば、日本産の「アサ」の中には、産地によっては、大麻草の麻薬成分の本体ともいうべきテトラヒドロキャンナビノールを一パーセント以上三パーセントも含有しているものも存在することが認められる。
(井波 足立 丸山)