東京高等裁判所 昭和46年(う)3193号 判決
被告人 加藤義知
〔抄 録〕
所論は、原判決は、判示第二において、被告人が自動車運転を反覆継続しその業務に従事する者であると認定しているけれども、被告人は、自動車の運転免許を有せず、当時プレハブ住宅の販売セールスを業としていた者で、この仕事には自動車の運転を必要としなかったし、本来の業務と無関係な自動車運転を反覆的継続的にした事実もなく、かつ、本件では被告人が自動車の運転を反覆継続したことを認定する証拠はないから、原判決には事実誤認および証拠に基づかないで事実を認定した違法があると主張する。
しかし、原審において、被告人および原審弁護人は公訴事実中の被告人が自動車運転の業務に従事するものであるとの部分を認めて争っていないので、論旨は必ずしも当を得たものとはいえないのみならず、原判決が挙示する被告人の原審第一回公判調書中の供述記載ならびに司法警察員および検察官に対する各供述調書によって認められる諸事実、すなわち、被告人は自動車の運転免許を取得するため昭和四四年九月頃から一一月頃までの間相模湖自動車学校に通って仮免許を取得する段階までになったこと、肩書本籍地の実家附近の路上で二、三回運転の練習をしたこと、その頃一度免許験試を受験したこと、将来運転免許を取得したい意思があること(なお、以上のような事実を被告人の供述のみによって認定することは何ら差支えない。)、ならびに前記証拠および原判決挙示の永井義信の検察官と司法警察員に対する各供述調書、司法警察員作成の実況見分調書によって認められる本件事故発生時における被告人の自動車運転の状況、すなわち、被告人は本件当夜前記実家から車で二〇分位の藤野駅まで兄を迎えに行くために本件普通乗用自動車(プリンスグロリア)を運転して行った帰りに、原判示の幅員六メートルのゆるやかにカーブしている道路において、時速約五〇キロメートルの速度で先行のタクシーに続いて前記永井義信運転の普通乗用自動車(軽四)を追い越そうとした事実に徴すれば、被告人が自動車の運転を反覆継続してその業務に従事していたものと認めた原判決の認定を是認することができ、記録を調べ、当審における事実取調の結果を参酌して検討しても、これを左右するに足りない。
なお、刑法第二一一条前段にいう業務とは、人が社会生活上の地位に基づき反覆継続して行なう行為であって、かつ、その行為が他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものであることを必要とするが、行為者の目的がこれによって収入を得るにあると、その他の欲望を充たすにあるとを問わないのであるから(最高裁昭和三三年四月一八日第二小判決、刑集一二巻六号一〇九〇頁参照)、被告人が当時所論のとおりプレハブ住宅の販売セールスマンを本業として、そのために自動車の運転を必要としなかったからといって、右の業務にあたらないということはできないし、また、自動車運転に伴う注意義務の程度とその責任について、免許の有無により差別を設ける理由はないから、無免許で自動車の運転を反覆継続するにおいては、これを業務というに妨げないことも、大審院大正一三年三月三一日判決、刑集三巻三号二五九頁以下の確定した判例である。
したがって、原判決が同判示第二の業務上過失傷害の事実を認定したことに所論のような誤りはなく、論旨は理由がない。
(江碕 龍岡 桑田)