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東京高等裁判所 昭和46年(く)234号 決定 1971年12月06日

少年 M・T(昭二九・六・七生)

主文

原決定を取り消す。

本件を東京家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件各抗告の趣意は、少年および附添人福田力之助各作成の抗告申立書記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

附添人福田力之助の論旨第一について。

所論は、要するに、原決定が罪となるべき事実(3)において少年の行為を強盗と認定し、これに刑法六〇条、二三六条一項を適用したのは、事実誤認、法令適用違反である旨主張するものである。

よつて、検討すると、一件記録中の関係証拠を総合すれば、少年は、小遣銭に窮し、友人A(当時一七年)、同B(当時一六年)とともにいわゆるアベックから金員を盗ろうと共謀し、原判示日時場所において物色中おりからD・I(当時二四年)とN・T(当時二二年)の二人連れが通りかかつたのを見て、同人らに近づき、同人らとすれ違つた後、やにわにBにおいてD・Iの後頭部を手拳で一回殴打し、その瞬間、少年において、驚くN・Tからその右手に所持していたハンドバックをひつたくつて逃走したこと、D・Iは、N・Tからハンドバックを盗られた旨を聞き、少年らを泥棒だと連呼し約八〇〇メートル追跡してAを逮捕したこと、少年は、附近の電電公社社宅二号館屋上にひそんでいたところをおりから通報を受けてかけつけた警察官により逮捕されたことが認められる。

ところで、刑法二三六条にいう暴行または脅迫は、必ずしも直接財物の所有者または占有者に対してなされる必要はなく、財物を強取するについて障碍となる者に対してなされてもよいけれども、いやしくも強盗罪が成立するには、社会通念上相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行または脅迫を加え、それによつて財物を強取した事実が存在しなければならない。前記認定事実によつてみると、当時夜間で人影のなかつたことが認められるが、少年は、A、Bとともに、原判示のようにD・Iらから金品を強取しようと共謀して同人に暴行を加えて同人らの反抗を抑圧しハンドバックを強取したとは断じ難く、N・T所持のハンドバックを盗取するため主にその注意を他にそらせる手段としてD・Iに暴行を加えることを共謀してその実行行為に出たものではないかとの疑いが濃厚であり、また、その手段も相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであつたかどうかは疑わしい。もつとも、少年に対する審判調書(第一回)によれば、裁判官が少年に対し昭和四六年七月一四日付司法警察員作成少年事件送致書記載の犯罪事実(原判示罪となるべき事実(3)に相当する事実)を読み聞かせたのに対し、少年は、事実はそのとおり相違ありませんと陳述しているが、右陳述中右認定に反する部分は、他の証拠と対比して措信することができないのみならず、このような少年の自白をもつて強盗の事実を認定するには十分でない。その他記録を調べても右疑いを払拭するに足りる証拠はなく、原決定がその罪となるべき事実(3)において少年の行為を強盗と認定したのは、重大な事実の誤認であり、爾余の判断をまつまでもなく、原決定は、取消を免かれない。論旨は、理由がある。

よつて、その他の抗告趣意について判断を省略し、少年法三三条二項により、原決定を取り消して本件を東京家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 高橋幹男 判事 平野太郎 林修)

決  定

氏名M・T

年齢昭和二九年六月七日生

職業無職

本籍東京都豊島区○○×丁目××××番地

住居同上

上記少年に対する強盗・恐喝・同未遂・窃盗・暴力行為等処罰ニ関スル法律違反保護事件について当裁判所は審判の結果次のとおり決定する。

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

一 罪となるべき事実

少年は

(1) 他から金員を喝取しようと企て、昭和四六年一月一七日午後零時頃東京都豊島区○○○×丁目××番×号株式会社○武○貨○二階紳士服売場通路において、N・A(当時二二年)、および同人の弟を呼びとめ、「年はいくつだ」と話しかけ、同人の弟が「一九だ、なんだ」と答えるや、「その口のきき方はなんだ、ちよつと待てこつちへこい」などと言つて同人らを同店二階既製服商品渡所前まで連れて行き、「やるんならかかつてこい、歯を折るぞ」と申し向けたうえ「タバコ銭ないか」と金員を要求し、その要求に応じないときはいかなる危害をも加えかねまじき気勢を示して同人らを畏怖させ、即時同所において同人からその所有の現金二、〇〇〇円の交付を受けてこれを喝取した。

(2) Z・O(当時一八年)、O・R(当時一八年)と共謀のうえ、同年六月一四日午後一〇時過ぎ頃同都新宿区○○町××番地M・J方において、M・Y所有のズボン二着外五点の衣類(時価合計約六、六〇〇円相当)およびM・M所有の短靴一足(時価約一万円相当)を窃取した。

(3) A(当時一七年)、B(当時一六年)と共謀のうえ通行人から金品を強取しようと企て、同年七月一二日午後一一時三〇分頃同都新宿区○○○×丁目×××番地先道路上において通行人を物色していたところ、折から同所をD・I(当時二四年)とN・T(当時二二年)の二人連れが通りかかつたのを認めたので、同人らから金品を強取しようと決意し、同人らに近づき、いきなりBが前記D・Iの後頭部を手拳で殴打して同人らの反抗を抑圧し、少年が前記N・Tの所持していた同人所有の茶皮製ハンドバック一個(現金二四、〇〇〇円、および預金通帳等一五点在中)を強取した。

(4) Bと同年八月二〇日頃の午後八時頃、同都豊島区○○○×丁目×番×号第○奥○荘○階××号室のB・H(当時一七年)方において同人に対し、泊めて欲しいと申込んだところ、同人から断られたことに憤慨し、少年が同室台所から庖丁を持ち出して同人に突きつけ、「友達がいがない、お前はそういう奴だつたのか、どうしても泊めないのか」などと申し向け、Bと共同して凶器を示して同人を脅迫した。

(5) B、C(当時一七年位)、D(当時一七年位)、E(当時一七年位)、F(当時一九年位)と共謀のうえ前記B・Hから金品を喝取しようと企て、同年八月二二日午後三時頃少年、C、E、Fが前記B・H方に赴き、同人方居室および廊下において同人に対し、こもごも「テープレコーダーを貸してくれ、貸せないと地元を歩けないようにしてやる」などと申し向け、その要求に応じないときはいかなる危害をも加えかねまじき気勢を示して同人を畏怖させ即時同人方居室においてその所有のテープレコーダー一台(時価約三二、〇〇〇円相当)の交付を受けてこれを喝取した。

(6) 他から金員を喝取しようと企て、同年八月二六日午後七時頃公衆電話から友人宅に出向いていたM・O(当時一六年)に電話をかけ、同人に対し「金を三、〇〇〇円貸してくれ」と申し向け、断られるやさらに「半分でもいい」などと執拗に金員を要求し、その要求に応じないときは後日いかなる危害をも加えかねまじき気勢を示して同人を畏怖させ、同日午後八時二五分頃同都港区○○○×の×地下鉄○○線○○○駅改札口付近において同人から現金一、五〇〇円の交付を受けてこれを喝取した。

(7) Bと共謀のうえ高校生から金員を喝取しようと企て、Bとともに同年九月二日昼頃埼玉県新座市○○○×××の×私立○○高校に赴き

(イ) 同日午後零時過ぎ頃同校生徒ホール前において、同校生徒S・K(当時一七年)に対し「ちよつとこいよ」と声をかけ、同人を同校礼拝堂裏に連れ込み、少年において「お前一万円作れるか」と金員を要求し、同人が「今月中ならできます」と答えるや、「ばかやろう、ふざけるな一時間以内に作れ」などと申し向けその要求に応じないときはいかなる危害をも加えかねまじき気勢を示して同人を畏怖させ、同日午後二時二〇分頃同校生徒ホール内において同人から現金三、〇〇〇円の交付を受けてこれを喝取した。

(ロ) 同日午後零時過ぎ頃、同校校門近くのチヤペル前にいた同校生徒N・O(当時一七年)に対し、少年において「お前俺に五万円都合しろ」と金員を要求し同人からいつたん断られたが、なお同日午後零時四〇分頃同校生徒N・Iに対し「N・Oに伝えてくれ、今週の土曜日の二時までに池袋の○マ○エ○ボ○ンに一万円持つてこいとな」「もし持つてこなかつたら学校まで取りに来るからな、そのときはどうなるかわかつているだろう」と申し向け、同人からその旨をN・Oに伝えさせてN・Oを畏怖させ、同月四日午後二時二〇分頃東京都豊島区○○○×丁目××番×号喫茶店「○マ○エ○ボ○ン」店内においてN・Oから金員を喝取しようとしたが、警察官に発見されたためその目的を遂げなかつた。

(ハ) 前記九月二日午後三時過ぎ頃前記○○高校生徒ホールに同校生徒H・J(当時一八年)を呼び出したうえ同人を付近の埼玉県新座市○○○××××喫茶店「○ツ○」店内に連れ込み、Bにおいて朝鮮高校生徒を装い、同人に対し「俺は朝高生だ、○○線の中でお前の名前が出ている、本当だつたらやきを入れるところだがM・Tと知り合いだからやきは入れない、その代り一万円持つてこい」などと脅迫して金員を要求し、さらに「朝鮮をなめるんじやない、今ヤッパを持つている」などと脅迫して同人を畏怖させ、即時同所において同人から現金五〇〇円の交付を受けてこれを喝取した。

(8) Bと共謀のうえ、他から金員を喝取しようと企て、同年九月三日午後八時二〇分頃東京都豊島区○○×丁目××××番地の少年の家から豊島区○○×丁目×番×号のM・K方に電話をかけ同人を電話口に呼び出し、まずBが「お前M・Tのスケをとつたんだつて、俺はM・Tのダチで朝高へ行つている」などと言つて同人を脅迫し、次いで少年が「ヤリマン(一万円のこと)持つて明日午後二時まで○○○○の喫茶店○マ○エ○ボ○ンにこい、こなければお前をどうするかわからない」などと申し向けて同人を畏怖させ、翌九月四日午後二時二〇分頃前記喫茶店「○マ○エ○ボ○ン」店内において呼び出しに応じてその場に来た同人から金員を喝取しようとしたが、警察官に発見されたためにその目的を遂げなかつた。(なお、検察官は少年とBの間のほかG他二名との間にも本件につき共犯関係が存在する旨を主張するが、本件記録中に右主張を認めるに足りる証拠はない)

二 上記事実に適用すべき法条

(1)につき刑法二四九条一項

(2)につき同法六〇条、二三五条

(3)につき同法六〇条、二三六条一項

(4)につき暴力行為等処罰ニ関スル法律一条

(5)、(6)、(7)の(イ)および(ハ)につき刑法六〇条、二四九条一項

(7)の(ロ)、(8)につき同法六〇条、二五〇条、二四九条一項

三 主文記載の保護処分に付する事由

少年は高校一年の夏休みの昭和四五年七月頃から不良交友、ボンド吸引、不純異性交遊などの問題行動が目立ち始め、同四六年三月には怠学、カンニング等の理由で学校を退学させられてしまい、同年五月頃からはさらに家の金の持出し、無断外泊、家出を繰り返えすようになり、同年八月四日には当裁判所において前示(1)、および(3)の恐喝、強盗の非行について審判を受け、その結果在宅試験観察に村されいつたん帰宅を許された。しかし少年は僅か一〇日間位で再び家出してしまい、主に共犯少年Bと行動をともにし、深夜喫茶店、友人宅などを転々としたあげく前記(4)ないし(8)記載の非行を敢行するに至つたもので、その非行性も相当進んでおり、罪障感もさらに乏しくなつてきていると認められる。保護者の少年に対する愛情はかなり深いものがあると認められるが、これまで少年を甘やかし、わがままに育ててきており、また在宅試験観察期間中に少年が家出しても、これを担当の家庭裁判所調査官に連絡するなどの善後策も講ぜず、加えて少年の母は少年が前記(8)の恐喝を敢行するため自宅から被害者方に脅迫の電話をかけた際、たまたまその近くにいて電話の内容を聞いていたのに直ちに少年を強く叱責するなどしてその非行を防止するための適切な措置をとつておらず、その監護能力に問題があり、また少年自身の保護者に対する親和感も乏しいと認められる。

以上の諸事情を併せ考えると少年の非行性は在宅保護の措置ではとうていこれを除くことができないものと認められる。そこで少年に対して矯正教育を施し、心身陶治の機会を与え、その健全な育成を図るため、少年院に送致することを相当と認め少年法二四条一項三号を適用して主文のとおり決定する。

昭和四六年一〇月六日

東京家庭裁判所

裁判官 鈴木勝利

抗告理由

第一、事実誤認法令適用違反の主張

一、決定1の罪となるべき事実(3)少年及A(当時一七年)B(当時一六年)の三名が昭和四六年七月一二日午後一一時三〇分頃、新宿区○○○×丁目×××番地先の路上に於てD・I(当時二四年)とN・T(当時二二年)が歩いているのを認め、BがD・Iを後ろから手拳で殴り、少年がN・Tのハンドバックをひつたくつて逃げた事実を強盗罪と認定、刑法第六〇条第二三六条第一項を適用した。

二、併し乍ら少年の昭和四六年七月一三日付供述調書によると「Bが男の後ろから殴りつけたのでその瞬間、私は女が持つていたハンドバックを盗り三人は一目散に逃げたのです。男女は泥棒々々といいながら追いかけて来た云々」の趣旨記載があり

三、其の後間もなく少年等は逮捕されたのであり、その状況及びその他の証拠によつても被害者N・TがD・Iの暴行を受けたのに気をとられている隙にハンドバックを手ばなしたのであつて、同人の反抗を抑圧し強取したものとは考えられない。

第二、中等少年院送致決定の著しい不当の理由

一、少年は之まで審判を受けた事はなかつたが、昭和四六年八月四日、原家庭裁判所に於て「試験観察」(決定(1)及(3)の事実)に付せられた。決定(2)の非行は八月二六日(少第一〇五一一号)に送致された同年六月一四日の窃盗事件で示談成立して母M・Eが警視庁牛込警察署から身柄を引取つた事件であつた。

二、然るに、在宅試験観察期間中、同年八月二〇日以降、九月四日迄の間に決定(4)乃至(8)の非行を重ねたため、同年一〇月六日の審判に於て「在宅保護の措置ではとうてい」矯正は出来ないとして中等少年院送致の決定を受けたのであつて、少年の非行を考えるとき原決定が必ずしも不当であるとは謂えない。

三、併し乍ら記録を調査し、少年に面談、少年の父母について、その心境を詳細聴取した結果、中等少年院送致が適当であるかどうかについて深く疑問を持つ次第で、少年の処遇について更に審判を開始されたく懇願するものである。

四、少年の父母は家庭裁判所の保護処分に対する認識を誤り、試験観察の重要性について、思いを致さなかつたもので、特に、調査官が指導、助言等を与え試験期間中を無事に過すことに協力するということに考え及ばず、従つて、試験期間中、報告、指導を受ける等のことが一回もなかつた。これは、少年の父母の家庭裁判所に対する無知という外なく、少年に対する愛情、矯正についての意欲を失つたものではない。特に母は非行の共犯であつたB及その父親とは互に連絡をとり、その矯正に苦心し、心配して、被害者えの謝罪等にも努めていた。

五、当附添人の説明指導等により、少年及父母は全く考え違いであつたことを認め、被害者に対する謝罪、弁償、少年に対する将来の処遇、監護の方法を具体的に考え夫々別紙添付の上申書にある如く、真剣に少年の更生を希求している。

少年の家庭は、父M・Hは元○合○○会社の東京支店長であり、数年前独立して「○武○ー○ズ株式会社」を設立社長となり、建築その他の事業を営み、極めて真面目な人間である。相当広い家屋に住み、母の外、直ぐ隣りの泰明小学校一年生の弟M・Yの三人家族であり相当富裕に生活している。

六、少年の性行は最近の非行を除いては頭も悪くなく小学校の成績も良好であり父母の期待にこたえていたが、中学校の上級頃から所謂不良性を帯び、友人等共に非行の重ねるに至つたのであるが、その期間も長くなく、抜くことの困難な不良性とは謂えない。少年の心機一転により、更生の希望も持てるものと信ずる次第である。今少年院送致の処分により脱い難い汚点を与えるより他の方法により更生させる方が将来のためになると考える。

七、本年八月四日の試験観察についても、その期間中、保護観察所の観察に付するか、その他父母及少年の指導について適切な処置が執られたなら、その後の一ヶ月余の非行も防げたのではないかと考えられる。

以上の理由により更に審判を開始される様希求次第である。

昭和四六年少第一四六〇〇号

決  定

本籍東京都豊島区○○×丁目××××番地

住居同上

職業なし

氏名M・T

年齢昭和二九年六月七日生

上記少年に対する強盗、恐喝、同未遂、窃盗、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反保護事件について、当裁判所は審判の結果、次のとおり決定する。

主文

少年を東京保護観察所の保護観察に付する。

理由

(非行事実と適用法条)

少年の非行事実とこれに対する適用法条は、差戻前の当裁判所における昭和四六年一〇月六日付中等少年院送致決定記載の罪となるべき事実のうち、(3)とこれに対する適用法条を下記のとおり改めるほか、すべて右決定の当該欄記載と同様であるからこれを引用する。

(3)少年は、昭和四六年七月一二日午後一一時三〇分過頃、東京都新宿区○○○×丁目×××番地先路上において、友人のA(当時一七年)、B(当時一六年)とともに、通行中のD・I(当時二四年)、N・T(当時二二年)の二人連れから金品を取ろうと意思を共通にしたうえ、BがD・Iの後頭部を手で殴打する暴行を加えるとともに、その隙に少年がN・Tの所持していた茶皮製ハンドバック一個(現金二四、〇〇〇円その他在中)をひつたくつて窃取したものである。適用法条刑法第二〇八条、第二三五条、第六〇条

(処分の理由)

一 一件記録によれば、差戻前の原決定が、上記のハンドバックのひつたくり行為を強盗罪に問擬したところ、抗告審においていまだ強盗罪の共謀ないし反抗を抑圧する程度の暴行行為を認め難いとして原決定に重大な事実誤認があるものと判断し、原決定を取り消し、本件を差し戻したことが明らかである。

二 上記のような刑法上の評価を別にすれば、少年が当時上記のようにハンドバックのひつたくり行為等の逸脱行動をしたことは、少年自身も認めているところである。さらに少年が当時在宅試験観察中の身でありながら、上記非行を敢行し、かつその後も原決定記載のように恐喝、同未遂、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の非行を反復していたことが明らかであることを考えると、原裁判所が少年に対する矯正教育の手段として中等少年院送致決定を採択した方針は首肯し得るものがある。

しかし、今日では、少年は原決定後約二ヶ月余神奈川少年院に収容された生活経験を持つことによつて、本件非行当時の状態と比べると要保護性の程度において相当の変化が見られる。もともと、少年は中流家庭で放任の傾向はあつたとしても恵まれた環境に育つていたものであり、そのような家庭にありがちな自己中心的、自己顕示的性格傾向が享楽型の粗暴非行に発展してきていたものであるので、短期にもせよ、社会規範の厳正な執行に当面すれば、放恣な生活に対する省察を得さしめることはさほど困難とは思われない。そして、現実に少年も従来の生活を反省して高校進学を希望するにいたつており、両親も被害の弁償等を履行して、従前の放任がちな態度を改善しようと努力していることが認められる。

三 以上のような点を考慮すると少年を再び少年院に送致するよりは、在宅処遇にして専門家の指導を与え、短期ではあれ、矯正機関における生活を経験したことを実生活で履践させるための指導を与えることを教育の良策と考えるので、少年法第二四条第一項第一号により主文のとおり決定する。

昭和四六年一二月一七日

東京家庭裁判所

裁判官 守屋克彦

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