大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(く)238号 決定

被告人 原田誠司 外二六名

〔抄 録〕

所論は、原決定は、訴訟記録によつて認められる本案事件の審理経過のほか訴訟の進行状況、被告人らに対する本件公訴事実、既に取調を了した証拠ないし今後取り調べる予定の証拠ならびに弁護人側の冒頭陳述にあらわれた本件公訴事実に関する主張、弁護人請求にかかる証人およびその立証趣旨等を総合して考えると、本案裁判所が、弁護人請求にかかる証人中、既に取調を了した証拠および今後取り調べる予定の証拠をもつて、被告人らに対する本案被告事件の公訴事実の存否、違法性、有責性の有無等を判断するに十分であるとし、その余の証人を必要ないものとして却下したからといつて、その判断は事実審裁判所にまかされている証拠調の必要性の限度に関する適法な裁量権の範囲に属することは勿論、本案裁判所が右決定をなすにあたり、弁護人側の主張、立証について熟慮したうえ判断していることがうかがわれるのであつて、右却下決定が予断や偏見に基づいてなされたことを疑うに足りる状況は認められない等と判断し、結局、本案訴訟事件を担当する裁判官三名につき不公平な裁判をするおそれがあると認めるに足りる事情は存しない、としているけれども、なにゆえに右判断が適法な裁量権の範囲に属するか、熟慮したうえ判断したといえるかについて具体的に理由を示しているとはいえないから、原決定には理由不備の違法がある、というのである。

そこで考えてみるのに、刑訴法二一条が裁判官に対する忌避の理由として除斥の原因があるときまたは不公平な裁判をするおそれがあるときと規定している法意に照らせば、その後者の不公平な裁判をするおそれがあるときとは、裁判官に除斥の原因に準ずる事由のある場合を指すものと解するのが相当で、すなわち、裁判官と当該事件ないしはその当事者との関係その他なんらかの事情からして、裁判官がその事件につき不当に当事者の一方に有利または不利な裁判をするおそれがあり、通常人であれば誰れでも裁判の公正に対して不信頼の念を起こすと思われる客観的かつ合理的な事由の存する場合をいうものと解すべきである。いいかえれば、そこで問題となるのは、当該事件について不公平な裁判をするような力が裁判官に対して働くおそれのある特別の事情が存するかどうかなのであつて、個々の訴訟行為の当否ではない。それゆえ、裁判官の訴訟指揮ないし証拠決定などが違法または不当であり、当事者にとり不満であるからといつて、そのこと自体が忌避の原因となるものでないことは明らかであつて、もし、それらの処置に不満があるならば、異議の申立、上訴その他の別途の手段をもつて争うべき筋合いのものである。もつとも、裁判官の訴訟指揮もしくは証拠決定などであつても、その裁判官に不公平な裁判をするおそれのあることを推知させる資料として全く意味がないとはいい切れないけれども、しかし、これらの行為だけから右のようなおそれのあることが認められる場合はきわめてまれであつて、むしろ不公平な裁判をするおそれのあることは他の客観的な事実から認定されるのが本来であり、訴訟指揮等の当不当はせいぜいその事実と相まつて右のおそれを認定させる補強資料の一つとなることがありうるにすぎない。

ところで一件記録によれば、本件はいわゆる東大事件と称されているものの一部であるが、それはあくまで別紙一記載の被告人らに対する同記載の刑事被告事件なのであるから、それぞれの被告人について公訴事実の存否、違法性、有責性の有無程度等につき証拠調を行なう必要があると同時に、これをもつて足りるのであつて、右の範囲を越え、いわゆる東大闘争なるものの政治的、社会的ないし歴史的意義を究明することなどはもとより刑事被告事件としての審判の目的を逸脱するものであるが、それにしても、本件において証拠の関連性をどの範囲まで認めることができるか、したがつて証拠調の限度をいかに画すべきか等は困難な問題であり、見解の分れうるところであつて、決して一義的に明瞭であるとはいえない。このようなところから、申立人らの主張と本案訴訟を担当する裁判官との間に証拠の採否について大きく見解がわかれたものと解されるのであるが、本件忌避申立の理由ありや否を判断するにあたつては、さきに述べたところから明らかなとおり、所論証拠決定の合法、違法または当否それ自体は重要な意味をもつものではないから、それが裁判所の裁量権の乱用として違法であるかあるいは不当であるか等につき深く立ち入つた検討をすることは必要でないといわなければならない。そして、かような観点から原決定をみるのに、原決定の理由は、本案裁判所が所論の証拠調の請求を却下したこと、また、裁判長が証人尋問を打ち切つたことに対する抗議を裁判長の処分に対する異議の申立と解して棄却したこと並びに裁判長が証人尋問に際しその尋問事項や尋問時間を制限したことおよび傍聴人の一定の所持品を裁判所職員に預けさせる処置をとつたことなどにつき一々具体的に検討説示したうえ、結局これらの諸点からは本案事件担当の各裁判官に不公平な裁判をするおそれがあると認めるに足る事情は存しないといつているのであるから、忌避申立を却下する理由としてはこれで十分であつて、理由不備の違法があるとはいえない。それゆえ論旨は理由がない。

(中野 寺尾 藤野)

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