大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(ツ)1号 判決 1971年5月21日

上告人(被告)

丸山庄二

被上告人(原告)

株式会社日宣広告社

代理人

支配人・本多節造

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取消す。

本件訴えを却下する。

訴訟費用は第一、二、三審とも被上告人の負担とする。

理由

上告人は、原判決を破棄し、さらに相当の裁判を求める旨申立て、別紙の通り上告理由を陳述し、被上告人代理人は「本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする」との判決を求め、上告理由第二点について「被上告代理人が弁護士法に違反した事実は全くない。その余の上告人主張の主張の事実は知らない」と述べた。<証拠>略

上告理由第二点について

本件記録によれば、被上告代理人である本多節造は被上告人の支配人の資格でその訴訟代理人として本件訴えを提起し、第一審から当審に至るまで終始本件訴訟の追行に当つてきたことが認められ、<証拠>によると、次の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

本多節造は(一)昭和四三年九月から被上告人の依頼で債権の請求、これに関する重要書類の作成およびその代理人として法廷に出頭すること等を担当し、被上告人から一か月五万円の報酬を得ていたが、昭和四四年二月その支配人に就任し、被上告人と合意の上、訴訟費用、交通費、日当等は同人の負担とし、被上告人は同人に対し同人の働きにより得た金員について歩合金を報酬として支給することと定め、(二)昭和四五年七月二七日、債権の請求、代理人として法廷に出頭すること、その他これに関する重要な用件を担当し、固定給の支給は受けず、交通費と日当一、〇〇〇円とを支給され、役員会の規定により賞与を受ける条件で、訴外株式会社三洋通信社の支配人に就任し、(三)同年六月から訴外広報こと五十嵐秀夫から依頼され、債権の請求のため、用紙代の支給を受けて六件について訴状を作成し、交通費および日当五〇〇円を支給されて出張していた。

右事実によれば、本多節造は、弁護士でないのに、報酬をうる目的で訴訟事件その他の法律事務を取扱うことを業としていたものであり、その業務の一部として本件訴えを提起したことが認められる。

ところが、弁護士法第一、二、三条、第七二条によれば、法律事務は基本的人権の擁護、社会正義の実現に直接つながるところから、一般の法律事務の取扱はもつぱら職責の根本基準として高度のものを要求される弁護士の職務とされ、非弁護士が業としてこれをすることは禁じられており、同法第七二条は高度の公益的規定と解されるから、これに違反する訴訟行為は無効であつて、追完を許さないものと解するのが相当である。従つて、本件訴えは不適法であり、その欠缺は補正することができないものといわざるを得ない。

よつて、上告理由第一点に対する判断を省略し、原判決を破棄し、第一審判決を取消し、本件訴えを却下することとし、民事訴訟法第三九六条、第三八六条、第九六条、第八九条に従い主文のように判決する。

(近藤完爾 田嶋重徳 吉江清景)

上告理由

第一点 <省略>

第二点 原審訴訟手続には被上告人訴訟代理人支配人の訴訟行為の無効を看過してした違背があり弁護士法第七二条違反に該当する。

すなわち、支配人に選任された本多節造は三百代言であつて会社より債権回収にあたつて取立債権額の二分の一乃至三分の一でもつて安く買いとり右本多が債権者の地位となつて会社と無関係に債権取立をやつている。

それには会社の支配人となれば容易に債権の取立ができるので支配人の登記をし支配人の地位を利用し、円満に示談で解決できるのをわざと裁判沙汰にもちこんで本訴請求以外に「裁判にかかつた費用だ、今日法廷に出頭した交通費、日当を支払え」と法外な金額を要求しているのが実情である。明らかに右本多は三百代言であつて報酬を目的とした債権取立業である。

右の事実は乙第一号証の登記簿謄本をみてもわかるとおり被上告人会社の支配人登記手続を昭和四四年二月四日なし次いで乙第二号証の登記簿謄本のとおり東京都中央区日本橋本町二丁目六番地所在訴外三洋通信社(広告業)の支配人登記手続を昭和四五年七月二七日なしている。その他乙第三号証の代理人許可申請書添付の証明書写のとおり東京都千代田区神田富山町一〇番地所在訴外広報こと五十嵐秀雄(広告業)の相談役を昭和四五年六月二〇日よりやつている。

商法の上からも支配人の忠実な勤務を確保し支配人が営業主の許諾なくして営業をなし、自己または第三者のために営業主の営業の部類に属する取引をなし、他の商人の使用人となることを禁止している(商法第四一条一項)支配人の競業避止の義務に違反している。

また、第一審第二審を通じ判決正本、呼出状等の書類送達先は被上告人会社宛にさせずに必ず本多の自宅宛にさせていることからも明らかである。

本件において支配人に選任された右本多は報酬を得る目的で訴訟事件その他の法律事務を取り扱うことを業とするためこれを禁止した弁護士法第七二条の規定を潜脱する目的をもつて被上告人会社代表者本人と相通じ支配人という外形を作り出したものと認められる。(同時に被上告人会社代表者本人は弁護士に非ざる訴訟代理人として訴訟を追行せしめるため民訴法第七九条一項前段の規定を潜脱する。)

しかして第一審、第二審の裁判所はこの点を看過し、被告、控訴人を尋問せずして原告、被控訴人勝訴の判決がなされたことは甚だ疑問がある。

そもそも右本多が訴訟代理人支配人として訴を提起した行為および現在までの訴訟行為はすべて無効であるから当然訴は却下されるべきである。(参考判例、本件の事案と全く同一の事案にして札幌高裁判例がある。札幌高判昭和四〇、三、四)

目下上告人において東京弁護士連合会調査委員会宛に弁護士法第七二条の規定違反による調査並びに弁護士法第七二条の規定違反による告訴の手続とを提起すべく準備中である。

以上いずれの論点よりするも原判決は違法であり破棄されるべきものである。

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