東京高等裁判所 昭和46年(ネ)1098号 判決
約束手形の振出については、約束手形に法定の要件を具備した記載がなされ、それが振出人の意思によって交付されることを要するものであるが、約束手形の流通証券としての特質にかんがみ、流通におく意思で約束手形に署名又は記名押印をした者は、たまたま右約束手形が盗難、紛失等のためその者の意思によらないで流通におかれた場合でも、連続した裏書のある右約束手形の所持人に対しては、同人が悪意又は重大な過失によってこれを取得したことを主張、立証しない限り、振出人としての手形債務を負うものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四一年(オ)第五六八号約束手形金請求事件昭和四六年一一月一六日第三小法廷判決参照)。<中略>
上叙認定の各事実並びに弁論の全趣旨を総合して考察するときは、東京理科工業株式会社による本件各約束手形の入手経路は甚だ不審なもので、とうてい正当な取引の取得原因によるものとは認められず、山中もさような不審なかどを察知しながら右会社から本件各約束手形をあえて取得したものであることがうかがわれるし、また、金融業者たる控訴人としては、本件各約束手形を山中合徳から取得するにあたり、同人自身に対して本件各約束手形の入手経路や取得原因について十分な調査をすべきであり、又、その調査により前認定の如き事情は比較的たやすく判明したはずであることがうかがえるから、控訴人において右調査を怠った点に重大な過失があったものといわなければならない。従って、被控訴人の抗弁は理由がある。
(石田哲 小林 関口)