東京高等裁判所 昭和46年(ネ)1709号 判決 1974年7月18日
控訴人
株式会社宮川総本家
同
宮川清澄
右両名訴訟代理人
中村源造
外二名
被控訴人
日本開発株式会社破産管財人
田口正英
主文
控訴人両名は連帯して被控訴人に対し、金三一〇万円及びこれに対する昭和四三年九月二二日以降支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用中第一審の費用は被控訴人の負担とし、第二審の費用は控訴人両名の負担とする。
この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一昭和四一年一二月七日控訴会社を注文者とし、訴外会社を請負者として、両会社の間に、(1)工事場所東京都台東区東上野三丁目三七番一二号、(2)請負代金八、一〇〇万円、但し、代金支払前控訴人宮川が本件敷地六七坪八合に抵当権を設定することにより請負人が他より借り入れる金員をもつて工事の費用にあてることができる、(3)右代金には、同地上に存する建物四棟(延三六三平方メートル六三)の取り毀し費用も含むこと、(4)設計監理料四〇〇万円は、本件請負工事代金に含まれることとし、その支払方法は設計者と協議のうえ決定すること、(5)工期 昭和四一年一二月一二日着工、同四二年八月二五日完成、同月三〇日引渡等の約定の下に宮川ビル新築請負契約が締結されたこと、控訴人宮川清澄は、同日、控訴会社が訴外会社に対して負担すべき本件契約上の債務につき、訴外会社に対し連帯保証を約したこと、以上は、いずれも当事者間に争いがない。右の事実に<証拠>によれば、控訴人宮川は、控訴会社専務取締役であり、同会社代表取締役宮川昌恵の夫であつて、控訴会社の代理人として、本件契約につきその締結等一切を担当したものであるが、控訴会社が計画した宮川ビルの新築につき昭和四〇年一〇月下旬頃一級建築士の相沢秀雄に設計監理を依頼し、これに応じて設計、仕様を完成した、相沢との間で設計監理料を四〇〇万円と定め、これを請負工事代金に含めるという条件で見積り合わせと称する入札を行い、曲折を経て、入札に応募した訴外会社との間に冒頭認定の本件契約を締結するに至つたこと、本件契約締結にあたり訴外会社から控訴会社に提出された見積書27号には設計料三〇〇万円、監理費一〇〇万円と記載され、これを一括した合計四〇〇万円を請負代金の一部とすることに双方合意したが、控訴会社は、それまでに相沢に対し設計料を全く支払つていなかつたので右四〇〇万円の相沢に対する支払方法を訴外会社と相沢との間の協議に委ねるとともに、訴外会社に対し設計料をすみやかに相沢に支払うよう要望したこと、そこで訴外会社は、昭和四一年一二月一二日相沢と協議のうえ、設計料のうち三一〇万円を取り敢えず支払うことと定め、即日同人に対し右支払のため平和相互銀行横浜支店を支払人とする金額一五〇万円の小切手一通、満期を昭和四二年一月三一日、同年二月一五日、同月二八日、同年三月一五日とするいずれも金額四〇万円、支払場所東京相互銀行横浜支店の約束手形四通を振り出し交付し、これらの手形小切手金をいずれもとどこおりなく支払つたことがそれぞれ認められる。<証拠判断略>
そうとすれば控訴会社は訴外会社に対し請負代金中すくなくとも右設計料相当額についてはこれを支払うべき義務があるというべきである。
控訴人らは、右設計料相当額の代金債務は、訴外会社が未だ本件契約に基づく本格的な建築工事に着工せず、上棟もしていないのであるから、約旨に従えば控訴人側でまだ支払わなくてよいと主張し、<証拠>によれば本件契約において請負代金の支払期は第一回が上棟後二週間以内に二、〇〇〇万円、第二回が完成時に二、〇〇〇万円、第三回が完成後六か月以内に三、〇〇〇万円、第四回が同じく完成後六か月以内に残金全部と定められていたことが認められ、訴外会社が未だ本件契約に基づく上棟も完了していなことは弁論の全趣旨から被控訴人の争わないところである。しかし<証拠>によれば、訴外会社は本件契約と同時に建築工事に着手すべくその準備工事を進めていたが、相沢がした設計がその後のボーリングによる土質調査の結果大巾な変更を必要とすることとなつた結果、着工することができず設計の変更及びこれに基づく建築確認を待つていたこと、控訴会社は、昭和四二年三月三日に至り漸く建築工事の建築確認申請をなし、同年四月一七日確認書の交付を受けることができたが、これを訴外会社側に呈示することなく、しかも同日控訴人宮川は冒頭に説示した約旨(2)のもとに控訴会社側が訴外会社に差し入れていたビル敷地の権利証を一寸見せて呉れと申し向けて手にすると訴外会社担当者の制止を排して持ち帰つてしまい、これによつて訴外会社の工事費調達を妨げたこと、そもそも本件の建築工事については控訴会社側に十分の資金の用意がなく、そのため前示認定のような請負代金後払方式の支払方法が定められ、また控訴会社がその敷地を担保に提供して訴外会社に建築資金の調達をなさしめる特約が付せられるに至つたことが認められ〔る。〕<証拠判断略>
以上の事実関係に弁論の全趣旨をあわせれば、訴外会社としては約定の工期内はもちろんのこと、工事費調達の関係上約定に従い本件建築工事を完成させることは不可能となつたところ、その原因は専ら控訴人側にあるものと認められる。そうとすれば前示のような弁済期の定めあることにつき、利益を有する控訴人側にとつて建物の上棟、竣工がまだなされていないとのことはあたかも条件成就により不利益を受ける者が故意に条件の成就を妨げた場合にも比すべき場合にあたるのであるから、代金債務について履行期の約定はその効力を失いむしろ訴外会社の本件契約に基づく建築義務の期間内履行不能の確定したおそくとも昭和四二年四月一七日において代金債務の履行期は到来したものと認めるべきである。控訴人らの主張する契約約款に基づき訴外会社側に工期変更請求権を生ずることは前叙のような事実関係のもとにおいて訴外会社側から履行期の到来を主張する妨げとなるものではない。そして、請負代金全体のうち宮川ビル新築工事及び基礎工事に対する代金部分、旧建物取り毀し工事に対する代金部分及び設計料・監理費用に相当する代金部分は相互に明らかに区別し得るから、被控訴人の自認するいわゆる未完成部分の本件契約の解除は、設計料相当の代金の支払を求めるについてはなんらの支障を生じない。
《以下、省略》
(吉岡進 園部秀信 森綱郎)