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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)1855号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中被控訴人に関する部分を取消す、被控訴人は控訴人に対し金一〇五万〇二五〇円及びこれに対する昭和四三年三月二六日から支払ずみに至るまで金一〇〇円につき一日金五銭の割合による金員の支払をせよ、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、控訴代理人において甲第三号証の一、二を提出し、当審における証人鵜飼育男及び同小泉節郎の各証言を援用し、被控訴代理人において甲第三号証の一、二の成立を認めたほか、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

一、原審ならびに当審証人小泉節郎の証言及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、控訴人が昭和四二年四月二八日原審共同被告有限会社平浜製作所に対し一五〇万円を、弁済期同年七月二八日、利息元金一〇〇円につき一日三銭六厘、弁済期後の遅延損害金元金一〇〇円につき一日五銭の約で貸与した事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二、ところで控訴人は、被控訴人より被控訴人を代理して右会社の控訴人に対する右貸金債務について連帯保証をする権限を与えられた訴外鵜飼育男との間に控訴人主張のような連帯保証契約を締結したと主張するが、甲第一号証及び同第二号証の一は、被控訴人名下の印影が被控訴人の印鑑によって顕出されたことは被控訴人の認めるところであるけれども、被控訴人名義の署名捺印はいずれも鵜飼育男により被控訴人に無断でなされたこと後記認定のとおりであるから、右甲第一号証及び同第二号証の一は被控訴人が鵜飼育男に対して控訴人主張のような代理権を与えた事実を認める証拠とすることができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はないから、控訴人の主張は採用できない。

三、控訴人は更に、控訴人は右のとおり鵜飼育男との間に右連帯保証契約を締結したものであるが、被控訴人は鵜飼に対して、同人が訴外東京産業信用金庫から融資を受けるについてその連帯保証及び物上保証をすることの代理権を与えており、そして控訴人は鵜飼が被控訴人から控訴人との間に前記のような連帯保証契約を締結する代理権をも与えられているものと信ずる正当の理由が存したから、被控訴人は民法第一一〇条により鵜飼が被控訴人の代理人としてなした連帯保証契約について連帯保証人としての責に任ずべきであると主張するので検討するに、原審ならびに当審証人鵜飼育男の証言及び原審における被控訴本人の尋問の結果によると、被控訴人は実弟である鵜飼育男に対して、同人が東京産業信用金庫から融資を受けるについて連帯保証及び物上保証をすることを承諾し、これに関する代理権を与えるとともに、印鑑及び所有土地の登記済権利証を預けたこと、しかるに鵜飼育男は友人である有限会社平浜製作所の代表取締役浜田辰雄(なお、浜田は被控訴人と面識もなく、親族でも何でもない。)から、控訴人よりの金員借受けについて連帯保証人兼担保提供者となってくれる人はないかと求められ、被控訴人に無断で前記代理権限を踰越し、被控訴人の代理人として前記登記済権利証を浜田に交付するとともに、被控訴人から預っていた印鑑を冒用して、浜田が控訴人から渡されて持参した甲第一号証の金銭消費貸借および抵当権設定契約書及び甲第二号証の一の保証書に連帯保証人としての被控訴人名義の署名捺印をし、被控訴人と何の関係もない浜田を通じて控訴人に交付したこと、しかも、鵜飼は以前控訴人との取引で不良貸付問題を起しており、自己が関与していることが控訴人に知れると本件融資や保証が成立する見込がないことを知っていたので、控訴人に対しては自己が代理人として関与していることを隠していたことが認められるけれども、原審ならびに当審証人小泉節郎の証言によると、控訴人を代理して有限会社平浜製作所に対する貸付ならびに被控訴人との間の連帯保証契約の締結の衝にあたった控訴人の職員小泉節郎は、専ら右会社の代表取締役である浜田辰雄と折衝し、同人に対して前記甲第一号証及び同第二号証の一の各用紙を渡して連帯保証人の捺印をも求め、二、三日後に浜田より被控訴人名義の署名捺印のある右各証書を被控訴人本人の作成と信じて受領したものであって、右署名捺印その他契約の締結に鵜飼育男が被控訴人の代理人として関与していることは少しも知らなかったこと(なお、控訴人において鵜飼の関与していることを知っていれば、本件貸付も、連帯保証も締結しなかったこと)が認められ、控訴人が鵜飼育男が被控訴人の代理人であると信じた事実を認める証拠は全くないから、ましてそう信ずる正当の理由があったとは到底認めることができない。

もっとも、右認定の各事実によると、浜田辰雄は被控訴人の無権代理人である鵜飼育男の使者として、被控訴人において連帯保証をする旨の右無権代理人のなした意思表示を控訴人の代理人である小泉節郎に対し伝達したのであるが、小泉においては浜田は被控訴人自身の使者として被控訴人本人の右意思表示を伝達したものと信じたと認められるので、そう信ずる正当の理由が存するかどうかについて考えてみるに、原審ならびに当審証人小泉節郎の証言、成立に争のない甲第二号証の三、甲第一号証及び同第二号証の一の各被控訴人名義の署名捺印の筆跡及び印影によれば、小泉節郎は浜田から被控訴人所有の土地の登記済権利証、前記甲第一号証及び同第二号証の一の各証書ならびに右各証書の被控訴人名義の署名捺印と同一の筆跡及び印影のある被控訴人の印鑑証明書の呈示を受けたので、右各証書の署名捺印が右印鑑証明書の筆跡及び印影と一致することを確め、右各証書が被控訴人自身により署名捺印されたものと即断したことが認められるけれども、右証人の証言によれば、控訴人においては被控訴人とは取引も面識も全くないばかりでなく、浜田ともはじめての取引であったことが明らかであるから、金融機関である控訴人としては更に直接被控訴人本人に照会するなどして果して被控訴人が連帯保証をする意思を有するかどうかを確かめるべきであったし、その処置をとれば本件保証が前記のごとき無権代理人の所為であることは容易に判明したと考えられるのであるが、控訴人がそのような調査をした事実を認める証拠は全くないから、小泉節郎が控訴人の親銀行である三菱銀行の小山支店貸付係から浜田を紹介されたものであり、また被控訴人は自分の叔父であるという浜田の虚言を信じたからといって、前記のような印鑑及び筆跡の対照や、前記各書類が浜田から提出されたことのみによりたやすく前記各証書の署名捺印が被控訴人自身によりなされたものであり、被控訴人が本件連帯保証をしたものと信じたことには過失があるものといわなければならない。

したがって、控訴人の表見代理の主張もまた採用できない。

四、よって、控訴人の被控訴人に対する本訴請求を棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 江尻美雄一 裁判官 今村三郎 後藤静思)

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