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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)3110号・昭46年(ネ)1712号・昭47年(ネ)525号 判決

1  A事件控訴人は同事件被控訴人裵泰洙に対し三六一、〇八〇円及びこれに対する昭和四四年七月一五日から右完済に至るまでの年五分の金員を支払わなければならない。

2  A事件控訴人は同事件被控訴人甲野太郎に対し七九、〇〇〇円、同甲野一郎に対し二〇五万円及びこれらに対する昭和四四年九月二五日からそれぞれ完済までの年五分の金員を支払わなければならない。

3  A事件被控訴人らのその余の各請求を棄却する。

4  第一審の訴訟費用中、

株式会社大家商店と裵泰洙との間に生じたものはこれを一〇分し、その三を株式会社大家商店の、その余を裵泰洙の各負担とし、

株式会社大家商店と甲野太郎及び甲野一郎との間に生じたものはこれを六分し、その一を株式会社大家商店の、その余を甲野太郎及び甲野一郎の連帯負担とする。

5  この判決はA事件被控訴人ら勝訴の部分にかぎり仮に執行することができる。

(二)  B事件附帯控訴人の附帯控訴(当審における拡張請求を除く)及びC事件附帯控訴人らの各附帯控訴(甲野太郎の当審における拡張請求を含む)を棄却する。

(三)  控訴審における訴訟費用中、

株式会社大家商店と裵泰洙との間に生じたものはこれを三分し、その一を株式会社大家商店の、その余を裵泰洙の各負担とする。

株式会社大家商店と甲野太郎及び甲野一郎との間に生じたものはこれを三分し、その一を株式会社大家商店の、その余を甲野太郎及び甲野一郎の連帯負担とする。

三、事実

(一)  当事者の求める裁判

(イ)  A事件控訴人、B、C両事件附帯被控訴人株式会社大家商店(以下控訴人または控訴人大家という)

A事件について

「1 原判決を取り消す。

2 被控訴人らの請求を棄却する。

3 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。」

B、C両附帯控訴事件について、いずれも

「附帯控訴を棄却する。」

(ロ)  A事件被控訴人、B事件附帯控訴人裵泰洙(以下被控訴人裵という)

A事件について

「控訴を棄却する。」

B事件について

「1 原判決中被控訴人裵の敗訴部分を取り消す。

2 控訴人大家は被控訴人裵に対し、さらに五〇万円及び新に六一、〇八〇円並びにこれらに対する昭和四四年七月一五日から右各完済までの年五分の割合による金員を支払わなければならない。

3 訴訟費用は第一、第二審とも控訴人大家の負担とする。」

(ハ)  A事件被控訴人、C事件附帯控訴人甲野太郎(以下被控訴人太郎という)。及びA事件被控訴人、C事件附帯控訴人甲野一郎(以下被控訴人一郎という)

A事件について

「控訴を棄却する。」

C事件について

「1 原判決中、被控訴人太郎及び同一郎の敗訴部分を取り消す。

2 控訴人大家は、被控訴人太郎に対しさらに五七九、五三〇円及び新に八五万円並びに右五七九、五三〇円に対する昭和四四年九月二五日から右完済までの年五分の割合による金員を、被控訴人一郎に対し、さらに一五〇万円及びこれに対する昭和四四年九月二五日から右完済までの年五分の割合による金員をそれぞれ支払わなければならない。

3 訴訟費用は第一、第二審とも控訴人大家の負担とする。

4 右判決は仮に執行することができる。」

(二)  当事者の主張

次に付加するほかは原判決事実欄に記載のとおりであるからこれを引用する。

1  控訴人の主張

(イ)  被控訴人一郎は、事故時において時速四〇粁で極度の前方不注視のまま第一事故車を運転し、訴外平原の運転する第二事故車の直前に来てこれに気付き、あわてて、急制動をかけずに第二事故車の進行方向にハンドルを切ったため、その前面右側に衝突したのであるから、右事故はもっぱら被控訴人一郎の過失によって発生したのであり、そのことは同人も自認していたのであって、少くとも同事故発生原因の八〇パーセントは同人の過失に基づくのであるからその割合による過失相殺、または損害賠償義務の軽減をするのが相当である。

(ロ)  被控訴人一郎は本件事故当時Z大学の三学年に在学中であったのであって、本件事故による同人主張の身体障害があり、一年間の卒業遅れが仮にあろうとも、通常の事務職には就きえてサラリーマン生活を送ることはでき、いわゆる逸失利益が生ずることはない筈である。大学卒業後は左官業に従事する意図であったことのみを前提として被控訴人一郎の逸失利益を判断するのは不当である。

(ハ)  被控訴人裵にその主張の後遺症があったことを争う。また、その追加請求にかかる入院治療費はすでに事故後数年を経てからのものであるから支払に応じられない。

2  被控訴人裵の主張

被控訴人裵は本件事故による傷害の治療をなお続けており、昭和四六年七月二二日の診断でも左膝関節部屈曲制限の後遺症があるとされ、日常の生活上も労働能力上も重大な支障を受けているので、これに対する慰藉料は原審で主張のとおり一〇〇万円を相当とし、原判決で認容された五〇万円に加えてさらに五〇万円の慰藉料の請求をし、右傷害の入院治療費のうち控訴人大家が支払うことを約しながら支払に応じない分六一、〇八〇円をも新に追加し、以上合計五六一、〇八〇円及びこれに対する第一審訴状送達の日の後である昭和四四年七月一五日から右完済までの民法所定年五分の損害金の支払を請求する。

3  被控訴人太郎及び同一郎の主張

(イ)  本件事故の原因はもっぱら第二事故車を運転していた訴外平原の過失によるものであることはすでに主張のとおりであるから、過失相殺をすべきではない。

(ロ)  そこで、被控訴人太郎は原審で認容された損害賠償請求額に加えて次の請求をする。

原審で主張の治療費等のうちさらに二五万円

同入院雑費のうちさらに三五、五三〇円

同第一事故車全損による損害のうちさらに五万円

同信号機修理費のうちさらに二万二、〇〇〇円

同特殊靴代金のうちさらに二、〇〇〇円

同自宅療養必要費二万円

同慰藉料のうちさらに二〇万円

控訴人の本件控訴がなければ支払を要しなかった新な弁護士費用八五万円。

すなわち、第一審のみの場合は服部正美弁護士がぎせい的報酬で事件を処理したが、控訴審においては通常の着手金及び報酬を支払わざるをえないので、その着手金四〇万円をすでに支払い、本判決時に認容額の一割二分相当額四五万円を支払うべく契約済である。

以上合計一、四二九、五三〇円及びそのうち前記新に請求する弁護士費用を除く五七九、五三〇円に対する訴状送達の日の後である昭和四四年九月二五日から右完済までの民法所定年五分の損害金支払を請求する。

(ハ)  被控訴人一郎もまた原審で認容された損害賠償請求額に加えて次の請求をする。

原審で主張の逸失利益のうちさらに九〇万円

同慰藉料のうちさらに六〇万円

以上合計一五〇万円及びこれに対する訴状送達の日の後である昭和四四年九月二五日から右完済までの年五分の損害金を請求する。

(三)  証拠関係≪省略≫

四、理由

(一)  本件事故の発生、事故の状況及び責任原因については、次に付加するほかは原判決書理由欄一ないし三の記載と同一であるからこれを引用する。

1  ≪証拠省略≫によれば、本件事故発生時に、被控訴人裵は被控訴人一郎の運転する第一事故車の後部に同乗し、運転者との間に後部乗車者の掴まる装置があるにもかかわらずそれに掴まらずに被控訴人一郎の腰に手を廻し、しかも同人に密着するように同乗していたこと、被控訴人一郎はそのような状態では運転に支障を来すことがあるのにもかかわらず、同人はあえてその乗車姿勢を改めさせないで進行したため、前方約三〇米の地点で第二事故車を発見して急停車の措置をとろうとしたが、後方に被控訴人裵が同乗し、しかも、右のような不安定な掴り方をしていたので、急制動をかけると却っててん倒の危険があることをおそれ、急制動をかければ二、五秒ないし三秒で第二事故車に接触前に停止しえたにもかかわらず、あえて減速しないままでセンターラインを超え、対向車線に入って第二事故車の前面を通過しようと無理な運行をしたことが本件事故発生の主要な原因である。

2  ≪証拠省略≫中、以上の事項についての原判決の認定に反する部分を採用しえない理由もまた右認定と同様であり他に右認定を左右するのに足りる証拠はない。

(二)  過失相殺

第二事故車を運転した平原が原判決が判断するとおり転回開始に当って後方車(板橋から中野方面に向う車)の有無動静に対する十分かつ適確な確認をしなかったのは同人の過失ではあるが、≪証拠省略≫によれば、本件事故地点は転回禁止箇所ではなく(その点に関する≪証拠省略≫は誤りと思われる)、その転回開始地点ではすでにセンターラインを超えて対向車線に進入していたのであるから、通常の場合右後方車が転回車の前面方向に進行して来ることはほとんどない筈であるので、右後方の確認は万一を考えての確認に当り、その場合の注意はむしろ対向車線の進行車(中野から板橋方面へ向う車)の動向により多く向けられるべきであるから、右後方確認を怠った過失の程度は、被控訴人一郎が前記のとおり不安定な後方同乗者があって急制動をかけられない状態にありながら、先方注視を怠り、センターラインを超えて対向車線に乗り入れて進行した過失の程度よりも軽く、その割合は前者がほぼ三後者がほぼ七というべきであり、本件事故によって受けたと被控訴人一郎及びその父親である被控訴人太郎が各主張する損害は、これを請求しうべきものであるとしても約七割の減額を免れないものである。

(三)  被控訴人の損害

≪証拠省略≫によれば、被控訴人裵は本件事故によってその主張のとおり、傷害及び後遺症を受け、治療、入院をし、控訴人が支払いを約した残治療費が六一、〇八〇円あること、大学を休学し、退学したこと、しかし、本件事故がなくともその主張の大学学部を卒業する見込はなく、本件当時、未だ将来の生活方針もきめてなかったことが認められ、以上の事実に前認定のとおり、たとえ被控訴人一郎の承諾もあり、異議もなかったとはいえ、危険な相乗りをし、かつ、運転者の被控訴人一郎の身体に密着してその腰に手をかけて掴り、少しでも安定した乗車を心がけて特別の装置に掴ることをしないで本件事故の一原因に加工していることなどを考慮すれば、控訴人が被控訴人裵に対しその精神的苦痛を慰藉するのに支払うべき賠償額としては三〇万を相当とすべきであり、控訴人は被控訴人裵に対し右慰藉料及び前記残治療費六一、〇八〇円を支払うべきである。

(四)  被控訴人太郎及び同一郎の損害

次のとおり一部を変更し、かつ、付加するほかは原判決書理由欄「五(損害)、三、原告太郎、同一郎(乙事件)」のうち、「(2)原告一郎、(ロ)慰藉料」を除く部分を引用する。

1  被控訴人太郎

(イ)  治療費等

前記過失相殺によって、三八万円と変更する。

(ロ)  入院雑費

前記過失相殺によって、一万二、〇〇〇円と変更する。

(ハ)  第一事故車全損による損害

前記過失相殺によって五万円に変更する。

(ニ)  信号機修理費

前記過失相殺によって三万四、〇〇〇円に変更する。

(ホ)  特殊靴代金

前記過失相殺によって三、〇〇〇円に変更する。

(リ) 弁護士費用

原審における弁護士費用一〇万円に関しては特に変更の要はないが、当審において拡張して請求するものについては、前記判断及び後記被控訴人一郎の関係についての判断を考慮すれば、これを損害賠償として控訴人に対し請求しえない。

2  被控訴人一郎

(イ)  逸失利益

≪証拠省略≫を総合すれば、被控訴人一郎は昭和二一年九月四日生れの男子で、本件事故当時乙大学法学部三年に在学中であったこと、右大学に入学したのは何となく一般知識をおさめたいという外に格別の目的もなく、父親の被控訴人太郎が有限会社組織で数人の職人を使用して左官業を営んでいた関係から大学卒業後は右家業を継ぐ気持であったこと、本件事故後しばらく松葉杖をついて通学したが正式に休学、退学の手続をすることもなく、もともと勉学にそれ程の興味もなかったので、不自由な身体での通学をやめて父の家業手伝いをしたが、事故後の身体傷害で続かず、現在は格別の知識、技能を有しないが親せきの経営する双眼鏡製造の小工場に工員として勤務し、月収三万円余をえていることが認められる。しかし、右のとおり大学への通学を取り止めたのには本件事故が直接の動機となったのではあるが、始めから大学を卒業するまで勉学に身を入れる気もなかったことがうかがわれ、本件事故がなかったとしても、それから一年余を経て右大学卒業後改めて父の左官業を現場の職人としての肉体労働を見習いながら受け継ぐ意欲をもっていたか否かも疑われる。そうすれば、被控訴人一郎は本件事故に基づく傷害で父親の家業である左官業の現場仕事での通常の労働能力を有しないことになったとはいえ、いずれ社会経験を経たうえでは有限会社組織の右左官業を継ぐことも不可能とはいえず、現に親せきの経営する工場で前記のとおり勤務をし、月収をえていることからすれば、本件事故による後遺障害による逸失利益は通常の男子労働者平均賃金を基準として算出するほかはなく、その労働能力はほぼ三分の一に減じたものというべきである。

そうすると引用にかかる原判決において算出した逸失利益に前記過失相殺を考慮し、同逸失利益を一三五万に変更する。

(ロ)  慰藉料

前認定の諸事案及び前記過失相殺を考慮して、本件事故による傷害及び後遺障害についてのすべての苦痛を慰藉すべき額としては七〇万円が相当である。

(五)  結論

1  控訴人は被控訴人裵に対し、三六一、〇八〇円及びこれに対する(記録上明かな)訴状送達の日の後である昭和四四年七月一五日から右完済までの民法所定年五分の損害金を支払うべきであり、右被控訴人の請求は右限度で正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却することとし、これと相違する原判決を右のとおりに変更し、右被控訴人の附帯控訴(当審における拡張請求を除く)を棄却する。

2  被控訴人太郎の控訴人に対する損害賠償債権額は前記認定の合計五七九、〇〇〇円となるところ、そのうち五〇万を保険金から填補されているので、右賠償請求は残額七九、〇〇〇円及びこれに対する(記録上明かな)訴状送達の日の後である昭和四四年九月二五日から右完済までの民法所定年五分の損害金を求める限度で正当としてこれを認容すべきであり、その余(当審における拡張請求を含む)を失当として棄却することとし、これと相違する原判決を右のとおりに変更し、右被控訴人の附帯控訴を棄却する。

3  控訴人は被控訴人一郎に対し、二〇五万円及びこれに対する(記録上明かな)訴状送達の日の後である昭和四四年九月二五日から右完済までの民法所定年五分の損害金を支払うべきであり、右被控訴人の請求は右限度で正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却することとし、これと相違する原判決を右のとおり変更し、右被控訴人の附帯控訴を棄却する。

訴訟費用の負担については民事訴訟法第九六条、第九五条、第九二条、第九三条及び第八九条を仮執行の宣言については同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 畔上英治 判事 下門祥人 兼子徹夫)

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