東京高等裁判所 昭和46年(ネ)3146号 判決
右各認定事実に前記(三)・1・(1)・(2)掲記の各認定事実をあわせて考えるに、控訴人徳幸において本件賃貸借契約の締結に際し本件建物所有者の木下弘子とその敷地所有者の前記訴外会社との敷地賃貸借契約の解除の効力、すなわち右敷地所有者に対する関係においてなにびとも本件建物を適法に占有、使用し得ないということまでの認識があったかどうかはさておき、少くとも被控訴人に本件建物部分を賃貸したとしても、青木恭子の場合と同様に、右敷地所有者に被控訴人の右賃借、本件建物部分の使用が判明したときは、仮処分によりその占有を解除され、若しくは執行官の許可を条件としてのみ右建物部分の使用が許されるにとどまるに至るであろうこと、すなわち被控訴人が本件建物部分につき適法、完全な占有権原を取得し得ない危険が大であることは、十分に認識していたものと認めることができる。
そうして、前記(二)掲記のように、被控訴人が本件賃貸借につき敷金、権利金として多額の金員を支払った事実及び前記(三)1掲記の事情によれば、被控訴人において本件賃貸借契約を締結するに際し本件建物部分の占有につき右のような事情の介在することをまったく知らなかったことが明らかであって、この事実に、≪証拠≫をあわせれば、控訴人徳幸は、前記西宮に本件賃貸借の仲介を依頼するにあたり、同人に対しては、本件建物部分若しくは本件建物に前記仮処分の執行があり、敷地所有者との間で前記訴訟事件が係属していることを必ずしも秘していたわけではなかったとしても、そのことを西宮において借主となるべき者に了解させた上で賃貸借契約を結ぶよう依頼したものではなく、かえって控訴人徳幸は、西宮に対し本件建物部分に関する右事情を相手方(同人の仲介により賃借人となるべき者)に対し告知しないことを暗に期待し、若しくは少くとも、西宮が仲介の相手方に右事情を告げる意思のないことを察知しながら、暗黙にこれを許容していたものと認めるのが相当である。右認定に反する原審および当審における控訴人徳幸本人尋問の結果は措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。してみると、同控訴人は、結局、西宮を介して右建物部分を賃借するに至った被控訴人に対して右事情を秘匿し、適法、完全な占有権原を取得し得るものと誤信させて本件賃貸借の締結に至らせ、権利金および敷金を収受したものというべきである。
この点につき、同控訴人は、本件賃貸借契約締結につき賃貸人側の代理人である西宮に右事情を告知した以上、同控訴人は免責される旨主張するが、たとえ、控訴人らが右事情を西宮に告げていたとしても、右に認定したように、控訴人らの代理人である西宮がこの事情を秘して相手方との間で賃貸借契約を成立させようとしているのを察知しながらこれを黙認していた以上、同控訴人は、結局、西宮を介して被控訴人をして本件建物部分につき適法、完全な占有権原を取得し得るものと誤信させたこととなるべきことは右述のとおりであるので、右主張のような理由によって同控訴人が不法行為の責任を免れることはありえないものというべきである。
(白石 川上 間中)