東京高等裁判所 昭和46年(ネ)635号 判決 1972年10月26日
控訴人 三留元弘
右訴訟代理人弁護士 田中登
同 二宮充子
同 大内猛彦
右訴訟復代理人弁護士 羽生雅則
被控訴人 倉本敏雄
右訴訟代理人弁護士 飯田孝明
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
一、原判決五枚目表一〇行目「一二月四日」とあるを「一二月五日」と改め、同六枚目表九行目「差蒐った」とあるを「差し掛った」と改める。
二、証拠≪省略≫
理由
当裁判所も被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものと判断するものであるが、その理由は、原判決理由三の(二)ないし(四)(原判決一二枚目表六行目冒頭から同一三枚目裏三行目末尾まで)を次のとおり改めるほか原判決の理由と同一であるからこれを引用する。
(二) ≪証拠省略≫を綜合すると、被控訴人は本件事故による受傷後その主張の後遺症(労働者災害補償保険法施行規則別表第三級三号該当自動車損害賠償保障法施行令別表でも同等級)を存するに至り、右の物を左に移すといった極めて単純な作業しか行なえなくなって、能率を求められたり記憶力・記銘力を要する作業を行なうことは不可能となったことが肯認せられ、被控訴人は労働力を百パーセント喪失したことを肯認できる。もっとも、≪証拠省略≫によると、被控訴人は本件事故後である昭和四二年八月から同四三年三月までの間東京都目黒区建設部土木課公園係の行なう失対事業に通算二三三日間就労し、草取りなどの作業に従事して合計金三〇四、九〇五円の収入を得たことが認められるが、この金額を後記のように損益相殺として被控訴人の蒙った損害額のうちから差引くかどうかは暫くこれを措き、この収入は社会政策としての失対事業による収入であるからこの収入があったことをもって経済的に換算し得る程度の労働能力が被控訴人になお残存しているとすることはできないのであって、この収入の事実があっても、被控訴人が労働力を百パーセント喪失したとする前段認定の妨げとはならない。
(三) 逸失利益金三、〇〇〇、〇〇〇円
≪証拠省略≫を綜合すると、被控訴人は大連市沙河口に生れ旧制中学校卒業後昭和一一年まで大連の鉄道技術研究所に勤務し、同一二年徴兵により入隊終戦後帰国し、三池炭坑機械部・三森工務店等に勤務、昭和三三年六月頃から自家営業としての浄化槽工事請負業に従事したこともあるが、経営不振のため倒産し、東京目黒から肩書住居に転居した昭和四〇年一一月二一日当時は定職もなく日雇などの労働に従事していたけれども、当時被控訴人は満四九才の健康な男子でたまたま経営不振のため中断中ではあったが努力して事業の再開を計れば右浄化槽請負工事によって少くとも一月金四〇、〇〇〇金程度の収入が得られたであろうこと、そしてまた、被控訴人は右事業再開のため鋭意努力中であったことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠がないから後記本件事故前の昭和四一年二月一三日の交通事故当時被控訴人は少くとも一月金四〇、〇〇〇円程度の収入を得るに足りる労働力の保有者であったとすべきである。しかし、前顕各証拠によれば本件事故前の昭和四一年二月一三日にも交通事故によって被控訴人は傷害を蒙り、そのため五日間の入院加療を余儀なくせられ右事故の後運転者として就職した運輸会社も頭痛のため一週間位で退職し、本件事故当時もその一月位前から週一回程度の通院加療を受けていた事実が認められるけれども、≪証拠省略≫を綜合すると右事故による傷害はこれによって本件事故発生の日である昭和四一年一二月四日以後に渉って後遺症が残存し労働力の低下を来さしめる程度のものではなかったことが認められるので、前段認定の被控訴人の百パーセントの労働力の喪失はすべて本件事故に基因するものと認むべく控訴人はその全結果について責任を免れないものと解する。そして、被控訴人が基準日として主張する本件事故後の昭和四四年一一月二一日を基準日とすれば同人の就労可能年数は一〇年とみるのを相当とするから年間収入を前段認定のとおり金四八〇、〇〇〇円(月額四〇、〇〇〇円)とすると、ホフマン式計算法によりその逸失利益は金三、八一一、三六〇円と算定されるところ、前記(二)において認定した日稼作業による金三〇四、九〇五円の収入はこれを被控訴人の労働力による対価としてこれを評価できないとしても兎も角も被控訴人の労働力の喪失によって、すなわち被控訴人が被控訴人としての正常の労働に従事できないため、その労働の対価を得られなかった代償として取得し得たものと考えるべきであるから損益相殺として逸失利益のうちから控除すべきものであり、結局被控訴人の逸失利益は金三、五〇六、四五五円となるが、被控訴人はそのうち金三、〇〇〇、〇〇〇円を請求しているのでその請求は理由がある。
(四) 慰藉料金三、五〇〇、〇〇〇円
本件事故に因る受傷のため被控訴人は前記のように、二回に亘り開頭手術を受け長年月間苦痛に耐え、しかも右後遺症のため百パーセントの労働能力を失い働きたくても働けない状態にあること、その他入・通院治療期間等諸般の事情を考慮しこれが慰藉料としては(後遺障害補償分を含み)被控訴人主張のとおり金三、五七〇、〇〇〇円を相当と判定するところ、被控訴人が右後遺症補償金として金七〇、〇〇〇円を控訴人の自賠責保険金のうちから給付を受けていることは被控訴人の自陳するところであるから、その残額は金三、五〇〇、〇〇〇円となる。
よって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 渡辺忠之 小池二八)