東京高等裁判所 昭和46年(行ケ)46号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 当裁判所は、以下説示する理由により、本件審決は第二引用例に開示されている技術思想の認定を誤り、かつ、本願発明の有する顕著な効果を看過し、本願発明が第一引用例ないし第三引用例から容易に発明しうるものとの誤つた結論を導いたものであり、違法として取り消されるべきものと判断する。
1 当事者間に争いがない本願発明の要旨に本願発明の特許公報および<書証>を総合すると、従来、金属を圧接する方法としては、全く加熱せず常温において圧接する冷間圧接法と加熱溶接法(接合すべき金属の再結晶温度を遙かに超え、半ば溶融する状態まで加熱した後接合する溶接法)の二方法が用いられているところ、本願発明は、これら従来の方法と異なり、心線となるべき金属線の表面に接合すべき両金属とは異なる材質で、かつ、両金属間の拡散係数よりも、両金属に対する拡散係数の大なる金属被層を有する異金属層付金属線を接合すべき両金属の再結晶温度以下に加熱した状態で冷間圧接する方法を提供したものであり、この方法によるときは、二つの金属が緊密に冷間圧接され、従来の冷間圧接法によつて得られる諸特性を何ら低下させることなしに、さらに、伸び特性、捻回値特性、衝撃特性、引張り強さ、ならびに自己径巻付巻戻試験特性等において非常に優れた機械的諸性能を具えた複合金属線を得ることができるのみならず、従来の冷間圧接では容易に接合できないとされていた金属と異なる金属との冷間圧接を可能ならしめ、また、加熱溶接に比し、少ない経費により優れた性能の複合金属線を短時間に大量に製造しうるという効果を奏することができることを認めることができ、この認定を覆すに足る証拠はない。被告は、本願発明においては再結晶温度以下で加熱することが条件とされているが、再結晶温度そのものは同一金属においてもその加工度その他により大きく影響されるから、この記載は温度範囲を限定したことにはならない旨主張するけれども、再結晶温度が同一金属について、その製造条件その他により多少の変動があるにしても、技術的に特有な意味を有し、各金属について測定可能であることは、<書証>に照らし、明らかであるから、この点に関する被告の主張は採用できない。また、被告は、本願発明の製品は、電気導体であるから、高拡張力を必要とするところ、引張り荷重が低下し、最も重要な拡張力において従来技術による物よりも劣る旨主張するが<書証>および電気設備技術基準に関する昭和四〇年通商産業省告示第二七一号に弁論の全趣旨を総合すると、本願発明の明細書記載の実施例中アルミニウム被着鋼線の場合は、引張荷重が従来の冷間圧接により得た物に比し、若干劣るけれども、通商産業省の定める電気設備に関する技術基準の細目を定める告示(昭和四〇年通商産業省告示第二七一号)に示された、アルミ被鋼線の種類中の「特別強力アルミ被鋼線」の基準を超える引張り荷重を有することが明らかでり、また、銅被着鋼線の場合には、従来の方法によつて得た物に比し、引張り強さにおいても優れていることが認められるのであるから、上記程度の差異があるからといつて、本願発明の方法による製品が従来方法による物に比し引張り荷重において劣るものということはできない。
2 一方、第二引用例は、昭和三四年七月二四日出願公告にかかる「鋼飯に銅又は銅合金飯を接着せしめた複合金属材の製造方法」に関し、鋼板の両面または片面に一応錫または亜鉛めつきをし、そのめつき面を十分清浄にした後、これに銅または銅合板をそれぞれその接合面を清浄にして層重し、この層重物を一組または二組以上重ね合わせ、合せ目周縁を適宜の手段で封じ込めて、めつき金属の溶融点近傍の温度に加熱圧延することを特徴とするものであるが、このようにめつき金属である錫または亜鉛の溶融点近傍の温度で加熱する理由は、錫または亜鉛が銅と極めて親和力が強く、錫または亜鉛のそれぞれの溶融点近傍の低温度で接触して相互浸透作用を起こす原理を利用したものであることを認めることができる。
3 叙上の認定事実に基づいて本願発明と第二引用例とを対比するに、本願発明は接合すべき両金属をその再結晶温度以下に加熱して圧接するに対し、第二引用例は接合すべき両金属の再結晶温度以下ではなく、接合すべき鋼板のめつき金属の溶融点近傍の温度に加熱圧延するものであるから、両者はその技術思想および技術的手段を異にするものというべきである。また、本件審決は、第二引用例には、「鋼板と銅板との間に亜鉛層を設け、二〇〇〜四五〇℃で圧延圧着すること」が記載されているとするが、第二引用例には、実施例として、錫めつき鋼板と銅の接合の場合において約二〇〇℃、亜鉛めつき鋼板と真鍮板の場合において約四五〇℃に加熱する例が示されているにとどまり、これはもとより前認定の第二引用例の開示する技術思想に基づき、めつき金属である錫または亜鉛のそれぞれの溶融点近傍の温度を選択したものであるから、この実施例の記載から、本件審決認定のように、第二引用例に「二〇〇〜四五〇℃で圧延圧着する」との記載があるといいえないことは明らかであり、錫と亜鉛がそれぞれの溶融点近傍の温度で銅合金との親和力が均等であるという意味では、被告主張のとおり、両金属が同効物であると認められるとしても、第二引用例の加熱温度は、両金属のそれぞれの溶融点近傍の温度に限られ、それぞれの温度を上限下限とすることを意味するものでないことは多言を要しないところである。したがつて、この点に関する被告の主張は採用の限りでない。
4 してみれば、本件審決は、第二引用例についての技術思想および技術手段の認定を誤り、また、本願発明の効果が前認定のとおり顕著なものがあるにかかわらず、これを看過し、ひいて、本願発明が第一引用例ないし第三引用例から容易に発明しうる程度のものとの誤つた判断をするに至つたものというべきである。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、本件審決は、進んで爾余の点について判断するまでもなく、失当なものというべく、前記の点に判断を誤つた違法があるとして、その取消しを求める原告の本訴請求は理由があるものということができる。よつて、これを認容する。
(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)