東京高等裁判所 昭和46年(行コ)29号 判決 1977年2月03日
控訴人(原告) 高橋繁正
被控訴人(被告) 東京陸運局長
主文
一、原判決を取り消す。
二、被控訴人が昭和三六年八月三一日控訴人に対し、六一東陸自旅二第五二三六号をもつてした一般乗用旅客自動車運送事業経営免許申請はこれを却下するとの処分を取り消す。
三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は次のとおり附加するほか、原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する(但し、引用部分中「および」とあるのを「及び」と、「もしくは」とあるのを「若しくは」と、「たゞし」とあるのを「但し」と、「取消し」とあるのを、「取消」と、「手続き」とあるのを「手続」と、「予じめ」とあるのを「予め」と、「訴え」とあるのを「訴」と、「引受け」とあるのを「引受」と、「且つ」とあるのを「かつ」とそれぞれ改め、原判決二枚目――記録四三丁――表七行目に「道路運送法」とある前に「旧」を加え、同裏一行目に「〇~五」とあるのを「〇・五」と改め、同裏五行目に「第」とあるのを削り、同裏七行目「たる」とあるのを「である」と改め、次の丁の表二行目に「同法六条」とあるのを「道路運送法六条一項」と改め、原判決四枚目――記録四五丁――裏五行目に「ね」とあるのを「なけれ」と改め、次の丁の表一行目に「免許」とある前に「被」を加え、同裏一一行目に「たら」とあるのを「であら」と改め、原判決八枚目――記録四九丁――表二行目に「容れ」とある次に「られ」を加え、同裏七行目に「限定さ」とある次に「れ」を加え、次の丁の裏八行目にに「領」とあるのを「預」と改め、原判決一一枚目――記録五二丁――表二行目及び五行目に「巾」とあるのを「幅」と、同「補装」とあるのを「舗装」と各改め、同表八行目に「または」とあるのを「又は」と改め、原判決一三枚目――記録五四丁――表八行目に「たる」とあるのを「であること」と改め、次の丁の表一行目に「なす」とあるのを「する」と改め、同表一一行目に「かかる」とあるのを「このような」と改め、原判決一九枚目――記録六〇丁――表八行目に「巾」とあるのを「幅」と改め、原判決二二枚目――記録六三丁――裏一行目に「たる」とあるのを「として」と改め、同裏五行目に「かかる」とあるのを「おける」と改め、次の行に「余り」とあるのを「余裕」と改め、原判決二四枚目――記録六五丁――裏一〇行目に「満たない」とあるのを、「足りない」と改め、次の丁の表九行目に「ね」とあるのを「なけれ」と改め、同裏八行目の「也」とあるのを削り、原判決二六枚目――記録六七丁――表七行目に「られ」とあるのを削り、同裏三行目に「の」とあるのを「は」と改め、原判決二七枚目――記録六八丁――表八行目に「巾」とあるのを「幅」と改め、同裏四行目の末尾に「なお同社の申請書添付の定款には公証人の認証がなされていなかつた。」を加え、同裏八行目に「もので」とあるのを「のに」と改め、同行に「となつた」とあるのを「が与えられた」と改め、原判決二八枚目――記録六九丁――表一〇行目に「五」とあるのを「六」と改め、同表一一行目に「モルタル塗り」とあるのを「防火構造」と改め、同裏五行目及び同裏九行目に「たる」とあるのを「である」と改め、原判決三〇枚目――記録七一丁――表五行目、一〇行目及び同裏一行目にいずれも「敏」とあるのを「繁」と改め、同表六及び七行目にいずれも「たる」とあるのを「である」と改め、同表八行目に「な」とあるのを削り、同裏六行目に「さ」とあるのを「め」と改め、次の丁の裏一及び六行目にいずれも「た」とあるのを削り、同裏六行目に「なす」とあるのを「する」と改め、原判決三二枚目――記録七三丁――裏二行目に「宣明」とあるのを「闡明」と改め、同裏一〇行目に「がごとき」とあるのを「の」と改め、次の丁の表二行目に「がごとき」とあるのを削り、次の行に「ら」とある次に「れ」を加え、原判決三五枚目――記録七六丁――表六行目に「政」とあるのを「制」と改め、同裏四行目に「許可す」とある次に「る」を加え、同六行目に「すぐれて」とあるのを削り、原判決三七枚目――記録七八丁――表一〇行目に「申請」とあるのを削り、原判決三八枚目――記録七九丁――表二行目に「する」とあるのを「す」と改め、原判決三九枚目――記録八〇丁――表八行目に「了」とある次に「知」を加え、同裏九、一〇行目に「定立」とあるのを「設定」と改め、次の丁の表八行目に「た」とあるのを削り、同行に「ぬ」とあるのを「ない」と改め、次の行に「なす」とあるのを「する」と改め、同行及び同裏二行目にいずれも「定立」とあるのを「設定」と改め、同裏六行目に「当た」とあるのを「当」と改め、同裏九行目に「<イ>」とあるのを削り、同行に「出資者」とある以下次の丁表一行目に「とする。」とあるまでを同丁表一一行目に「よつて」とある次に移し、同行に「行なう。」とあるのを削り、原判決四一枚目――記録八二丁――表二行目の「<ロ>」とあるのを「<ハ>」と改め、同行から同表四行目までを同表一一行目の次に移し、同表五行目に「<ハ>」とあるのを「<イ>」と改め、同表八行目に「評価」とある次に「することとし、その評価」を加え、同行に「よつて」とある次に「優劣を」を加え、同表九行目に「<ニ>」とあるのを「<ロ>」と改め、同表一一行目に「各預貯」とある以下を行を改め、その前に「<ニ>」を加え、同裏七行目及び九行目に「なす」とあるのを「与える」と改め、原判決四二枚目――記録八三丁――表一行目に「整備上」とあるのを「整備場」と改め、同表二、七及び一〇行目並びに同裏一行目にいずれも「なす」とあるのを「与える」と改め、同表一一行目に「点権場」とあるのを「点検場」と改め、次の丁の裏九行目に「ね」とあるのを「なけれ」と改め、原判決四四枚目――記録八五丁――表三、四行目に「競願する事案」とあるのを「競合する申請人」と改め、同表五、六行目を「優劣を数量的に表示して判定しなければならないという必要性に基づくものである。」と改め、同表九行目に「建」とあるのを「健」と改め、同裏二行目に「な」とあるのを削り、原判決四五枚目――記録八六丁――表四行目に「ら」とある次に「の」を加え、同表九行目に「た」とあるのを「であ」と改め、同裏一一行目に「出資者定額」とあるのを「出資予定額」と改め、次の丁の裏六行目に「なす」とあるのを「する」と改め、原判決四八枚目――記録八九丁――表一行目に「期間」とあるのを「時間」と改め、同裏一一行目に「整備場を」とあるのを「整備場と」と改め、四九枚目――記録九〇丁――表一〇行目に「必要」とあるのを削り、原判決五一枚目――記録九二丁――表二行目に「具体」とある次に「的」を加え、原判決五三枚目――記録九四丁――裏三行目に「国際交通の場合と同様」とあるのを削り、同裏九行目に「道路、」とあるのを「道路の」と改め、原判決五五枚目――記録九六丁――表二行目に「その点」とあるのを「との点」と改める。)。
一、被控訴代理人は次のとおり述べた。
(一) 被控訴人が原審において主張した具体的審査基準は、所定の手続を経て内部的規定として設定され、かつ、書面に記載された。しかし、これは東京陸運局内部における諒承事項であつて、作成名義人を明示した公文書として保存すべき性質のものではなかつた。
また、被控訴人は本件申請等のための聴問に先立ち、聴問担当の各班の係長以上の職員に対し、前記具体的審査基準を示し、その内容の解説をしたが、これを書面にして各担当官に配布することまではしなかつた。
(二) 被控訴人主張の一覧表には、控訴人に対する各種目の評点及びその合計点が記載されていたが、その点数は現在不明である。また、申請が認可されたものの最下位の評点がいくらであつたかも現在明らかでない。
(三) 本件具体的審査基準においては、評価採点の大綱が示されたのみであつて、評価方法の細部にわたる事項は定められていない。
評価採点の方法、経過については、申請人全部に関する聴問及び現地調査の完了後、これを審査する段階において、その衡に当つた東京陸運局自動車部旅客第二課長、同課長補佐及び同課係長らが検討、協議のうえ、評価採点したものであるというほかはない。
二、控訴代理人は、「被控訴人の前記主張事実は全部否認する。仮に、被控訴人がその主張する趣旨の具体的審査基準を内部的に設定し、かつ、評価採点の大綱を本件申請における審査手続を担当した職員に対し、予め示したとしても、その評価基準は粗漏に過ぎ、特に、いわゆる車庫前面道路基準、仮眠所基準及び整備点検場基準に関する評点については、被控訴人の主張自体評価の数量化につき徹底しないものがあつて曖昧であるばかりでなく、これらの点につき公正妥当な評点が行われたことを証すべき資料もない。」と述べた。
三、証拠として、控訴代理人は、当審証人松井和治及び松田正夫の各証言を援用し、後記乙号各証のうち第一一号証の成立は知らないが、その余はいずれも成立を認めると述べ、被控訴代理人は、乙第二、三号証の各一ないし三、第四、五号証第六ないし第一〇号証の各一、二及び第一一号証を提出し、当審証人小林宗雄の証言を援用した。
理由
一、先ず、被控訴人の本案前の主張につき考えるに、この点に関する当裁判所の判断は、原判決理由第一項(原判決六一枚目ー記録一〇二丁ー表三行目から裏七行目まで)の記載と同じであるからこれを引用する(但し、同丁裏二行目に「たる」とあるのを「である」と改め、同裏三行目に「設立中」とある前及び次の行に「右申請」とある前にいずれも「控訴人主張の日時に」を加え、同裏六行目に「し」とあるのを削る。)。
二、次に控訴人の主張する本件処分の違法理由につき判断する。
最高裁判所は、同庁昭和四〇年(行ツ)第一〇一号事件につき昭和四六年一〇月二八日言い渡した判決において「おもうに道路運送法においては、個人タクシー事業の免許申請の許否を決する手続について、同法一二二条の二の聴問の規定のほか、とくに、審査、判定の手続、方法等に関する明文規定は存しない。しかし、同法による個人タクシー事業の免許の許否は個人の職業選択の自由にかかわりを有するものであり、このことと同法六条及び前記一二二条の二の規定等とを併せ考えれば、本件におけるように、多数の者のうちから少数特定の者を、具体的個別的事実関係に基づき選択して免許の許否を決しようとする行政庁としては、事実の認定につき行政庁の独断を疑うことが客観的にもつともと認められるような不公正な手続をとつてはならないものと解せられる。すなわち、右六条は抽象的な免許基準を定めているにすぎないのであるから、内部的にせよ、さらに、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公正かつ合理的に適用すべく、とくに、右基準の内容が微妙、高度の認定を要するものである等の場合には、右基準を適用するうえで必要とされる事項について、申請人に対し、その主張と証拠の提出の機会を与えなければならないというべきである。免許の申請人はこのような公正な手続によつて免許の許否につき判定を受くべき法的利益を有するものと解すべく、これに反する審査手続によつて免許の申請の却下処分がされたときは、右利益を侵害するものとして、右処分の違法事由となるものというべきである。」と判示しており、当裁判所もこの判示を正当とするものであつて、しかもこの理は、申請人が個人であると法人であるとまた本件のように設立中の法人のために発起人が申請人となつた場合であるとにより、結論を異にすべきものではない。なぜなら、道路運送法が、自動車運送事業の免許申請(同法五条)及びこれに関する聴問(同法一二二条の二)手続の規定において、申請人が個人であるか法人であるかにつき別途に取扱うことなく、一括して同一の規制に服させているばかりでなく、法人又は設立中の法人のために発起人が申請人である場合も、窮極においては、法人制度に依拠して事業を行おうとする個人の職業選択の自由が制肘を受けるのであつて実質的には個人として申請する場合と同日に論ぜられるべきものであるからである。
そこで、本件処分につき前記のような手続上の違法事由があつたか否かにつき検討する。
(一) 請求原因一、二項の事実については当事者間に争いがなく、原審証人西村英一及び山上孝史の各証言によれば、昭和三六年度中東京陸運局に対し、一般乗用旅客自動車運送事業の新規免許を求めた申請の件数は、法人タくシー四百数十件(一万輛余)、個人タクシー約四、〇〇〇件であつたことが認められる。
(二) 成立に争いのない甲第一号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証、成立に争いのない第一〇号証の一、二、当審証人小林宗雄の証言により真正に成立したと認める第一一号証、右証言前掲各証人、原審証人市川恒男、児玉達夫、山下秀夫及び長瀬富郎(第一回)の各証言、原審における控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件審査手続を開始するに当り、被控訴人は昭和三六年一月七日付けで原判決添付別紙一の基本的方針を公示し、東京陸運局の自動車部旅客第二課の職員を中心として多数の競願者の中から限定された免許申請者を迅速かつ公平に選び出すため、ハイヤー・タクシー事業に関する行政における知識・経験に基づき、道路運送法六条一項各号に関する具体的審査基準(同条項三号、五号については、被控訴人主張の四つの具体的審査基準すなわち原判決四〇枚目ー記録八一丁ー裏八行目から四二枚目ー記録八三丁ー裏一行目まで記載のもの。)及び約五〇項目にわたる調査事項を作成決定し、かつ、これを記載した書面を作成保管し、実施方法として、聴問担当官は、右調査事項に拠つて調査し、現地調査の報告と併せて前記審査基準に基づいておおよその評価をし、その点数等の一覧表を作成し、被控訴人による最終的評価及び申請の許否の決定に委ねるべきものとしたこと、被控訴人は、昭和三六年五月一三日原判決添付別紙二の記載のある葉書を、同月三〇日に行われた聴問の前に各免許申請者に郵送したこと、聴問の実施については、法人タクシー関係の聴問担当官として、係長級以上の職員一名と、一般職員一名の組み合せによる六班を編成して当らせたが、これら担当者らは、事前にタクシー事業の免許につき豊富な知識と経験を有する課長補佐の指導のもとに、討論・受講等を内容とする研修を施され(但し、聴問実施の中途から応援に加わつた者については、研修の方法によることなく、数日間見習いとして傍聴し、又は実施方法の概略の説明を聞いて聴問に加わる場合もあつた。)、聴問事項・順序等をよく理解して聴問に当り、調査の結果(現地調査の結果も含む。)について前記審査基準に従つて一応の評価を施し、その結果を一覧表にまとめて被控訴人による判定に供したこと、被控訴人は数多の補助職員の協力のもとにこれら資料を整理し、前記審査基準に基づいて評価し、申請者の優劣を判定し、評点の多い者から順次申請を許可したこと、そして、本件申請に関しては、原判決事実摘示第三の三の2(一)(原判決四三枚目ー記録八四丁ー表二行目から原判決五〇枚目ー記録九一丁ー表六行目まで)の記載のとおりの調査及び評価をし、これに基づいて本件申請を却下することとしたこと、被控訴人は聴問手続に当り、前記具体的審査基準の内容は原判決添付別紙一、二記載の事項以上の詳細が部外に漏れることは審査手続の公正を保障するに害ありとの見解のもとに、前記具体的審査基準を「秘」扱いにし、聴問担当官らに対して聴問及び現地調査の実施に当つては、前記調査項目につき申請者の返答を聞くに止め、聴問の際釈明してその申請者に有利な主張立証を促がすということは厳に戒めるという方針で臨むことを命じたこと、従つて、本件申請に関する聴問においても聴問担当官らは、前記調査項目につき申請者らに質問して返答を記録するに止め、現地調査についても、その前に控訴人に通知せず、従つて、その立会もなく実施し、調査担当者が実見したことのみを記録したに過ぎず、控訴人からその主張を聞き、立証を尽くさせる方法を採らず、また、以上のほか控訴人に対し、本件申請につき主張・立証の機会を与えることはしなかつたこと、これがため、本件申請中資金計画に関する調査においても、控訴人が原判決添付別紙二の記載事項中、持参書類(3)、(6)項の趣旨を誤解して、弥栄化学株式会社については、その出資能力の裏付けとして同社名義の預貯金通帳、預金証書、有価証券等及び納税証明書を聴問の際提示すべきところを、同社の試算表及び決算書を持参して提示したのに対し、聴問担当官らはその誤解を解いて、適確な資料を提示するよう促すことをしなかつたこと、控訴人の右設立中の会社に対する発起人としての出資予定額は一、〇〇〇万円であつたから、控訴人が同人名義の四、〇〇〇万円以上の預金額に達する預金通帳を持参し、右通帳の一、〇〇〇万円を超える部分は控訴人の出資能力の裏付け資料としては用をなさない一方において、弥栄自動車株式会社の他の出資者の中には、出資予定額に対し、その裏付け資料が十分でなく、そのままでは資金計画の判定上不利な評価を受ける虞があつたのに聴問担当官らは、控訴人の不明を正して控訴人名義の前記預金通帳等を他の出資者の出資能力の裏付け資料として活用しうるかどうかにつき尋ねてやらなかつたこと、車庫前面道路の幅員につき現地調査の結果側溝部分を除くと、六メートルにやや足りなくなり、減点事由となるが、若しこの不備が当時指摘されれば、控訴人としては、側溝にコンクリート製の蓋を施し、ほぼ六メートル道路としての効用を全うしうるようにする用意があつたが、このような弁疎の機会が与えられなかつたこと、仮眠所施設の不備の点についても、同建物は控訴人が専門の設計士に依頼して特に運転者の安眠の確保を配慮し、相当な費用をかけて設計・施工したものであり、次のような長所を有し、自信のあるものであつたのに、その趣旨を係官に十分説明する機会が与えられなかつたこと、すなわち、右仮眠所は鉄筋コンクリート二階建の建物の一階を車庫兼整備際検場及び事務所とし、二階を仮眠所としたものであるが、堅固な建物(二階の床コンクリート・フラブの厚さ一二センチメートル。他はこれに準ずる。)であるうえ、窓枠にはアルミ・サツシを用い、窓ガラスの厚さも三ミリメートルのものとして気密性及び騒音の遮断に特に留意してあり、それゆえ、仮眠等が二階にあつても木造建物である場合に比べ、騒音・震動等の影響をはるかに少いと推測しうるものであること(但し、鉄筋コンクリート造りの中小建策物は、建物の内部で発生した金属音等の鋭い音を構造体を介して別室に伝え易い一面があるので、この点に鑑み控訴人は、整備点検等において行う作業は、日常の簡単な点検と、騒音を発生しない小修理に限定し、苟も、仮眠の妨げとなるような修理は近隣の自動車修理工場と特約し、そこで行なわさせる方針を定めていた。)、また、整備点検場と有蓋車庫とが兼用にされている点についても、控訴人としては無蓋車庫部分約二〇〇坪のうちの一部に屋根を蔽つて有蓋車庫とする計画も立てていたのであり、被控訴人からの示唆があれば、控訴人としてはこれに応じて改善する意思と能力とをもつていたこと、
以上の事実を認定することができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(三) 前認定の事実関係によれば、被控訴人は本件申請に対する許否を決するに当り、前記のとおり具体的審査基準を設定して審査したことは認められるが、本件申請の却下理由となつた前記資金基準、車庫前面道路基準、仮眠所基準及び整備点検場は免許の許否を決するにつき重要であり右基準に合致するか否かを決定するには微妙、高度の事実認定を要するものであるというべきであるから、申請の却下処分をする場合は特に、右基準の適用上必要とされる事項について聴問、現地調査その他適切な方法によつて、申請人に対しその主張と証拠の提出の機会を与えなければならないというべきところ、本件申請の審査においては聴問及び現地調査が形式に流れて委曲を尽くさず、その本来の目的を果していないと認められ、若し、右審査手続において申請人に弁疎の機会が与えられ主張・立証が尽くされその結果が斟酌されたとすれば、本件処分とは異つた判断がなされる可能性がなかつたとはいえないから本件審査手続はこの点において瑕疵があり、このような手続を経てされた本件処分は、その余の点を判断するまでもなく、違法であり、取消を免れないというべきである。
三、以上の次第で被控訴人が控訴人の請求を却下した本件処分は、公正な手続によつて判定を受けるべき控訴人の法的利益を侵害したという点において違法として取り消すべきであるから、控訴人の本件請求は正当として認容すべく、これと趣を異にする原判決は取消を免れない。
よつて民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 吉岡進 兼子徹夫 榎本恭博)