大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和46年(行コ)59号 判決

憲法二五条一項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定しているが、その趣旨は、国に対してすべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るような施策を講ずべきことをその責務として賦課したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的な権利を賦与したものではなく、具体的な権利としては、憲法の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によつてはじめて与えられているというべきである(二条参照)。そして生活保護法は、同法によつて保障される最低限度の生活とは、健康で文化的な生活水準を維持することができるものであることを必要とし(三条参照)、保護の内容も要保護者個人またはその世帯の実際の必要を考慮して有効かつ適切に決定されなければならず(九条参照)、しかしてその保護は厚生大臣の設定する基準に基づいて行なうものとし(八条一項参照)、その基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、かつこれをこえないものでなければならない(八条二項参照)とされているから、厚生大臣が設定する保護基準は生活保護法が想定している健康で文化的な最低限度の生活水準に合致し、かつ同法の前記趣旨・目的にそう適正なものでなければならないから、右保護基準が現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法及び生活保護法の趣旨・目的を逸脱したごとき場合においては違法となつて取消を免れないところであるが、右保護基準が憲法及び生活保護法の趣旨・目的を逸脱せず違法でない限り、生活保護は右保護基準に基づいて行なわれるべきであり、かつそれをもつて足り、右保護基準に基づいて行なわれた生活保護をそのゆえをもつて違法とすることはできない。

(菅野 渡辺 中平)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!