東京高等裁判所 昭和47年(う)2452号 判決
被告人 石井博昭
〔抄 録〕
所論は要するに、本件起訴状記載の公訴事実第一に示されている訴因は、被告人が原判示道路の右側部分に進出し原判示駐車車両の側方を通過したのちは、直ちに左に転把し道路左側部分を進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、左に転把することなくそのまま道路右側部分を進行したことをもって被告人の過失として把えているのに、原判決は、訴因として掲げられていない原判示佐藤春樹運転車両とのすれちがいの際の注意義務違反を過失として認定したものであって、この点において原判決には審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるか、または、訴因変更手続を経たうえ右事実を認定すべきであるのにこれをしなかったという判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反があるというべきである。仮にそうでないとしても、被告人は道路右側部分に進出したのち、通常の車両と同じような方法で道路左側部分に戻っているのであるから、訴因に掲げられた注意義務の違反はない、というのである。
しかしながら、起訴状記載の公訴事実の原判決の判示事実とを対比してみると、起訴状記載の訴因は所論指摘のとおりであるところ、これに対し原判決は、原判示道路は被告人の進行方向右にゆるくカーブする状況にあり、道路左端部に駐車車両一台があって、その右側部分は約四メートルであり、おりから反対方向から時速三〇キロメートルで直進してくる佐藤春樹運転の普通乗用自動車があったところ、被告人は右駐車車両の右側方を通過するため対向車両との安全を確めて道路右側部分に進出したのであるから、対向車両の進行妨害とならないように、通過したのちは直ちに左に転把し、道路左側部分を進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、進行方向にカーブする道路状況で直進しているうちに道路左側部分に復することから、左に転把することなくそのまま道路右側部分を進行した過失により、佐藤運転の対向車両とすれちがう状況となった際、自車右側部を対向車両の右側部に接触させて狼狽し、左に急転把したため道路左端部に設けられていた鉄筋コンクリート製電柱に自車前部を激突させて停止し、よってその際の衝撃により石井ハツエに対し原判示の傷害を負わせたものであると認定判示したものであって、彼此対照すれば、原判決は公訴事実に加えて道路の状況ならびに事故発生前の対向車両の状況を付加説明したにすぎず、結局起訴状記載の訴因も原判示の認定事実も被告人が道路右側部分に進出したのち直ちに転把し道路左側部分に復しなかったことをもって被告人の過失としていることが明らかであるから、原判決には審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるか、または、判決に影響を及ぼすことの明らかな訴因変更手続をしなかった訴訟手続の法令違反がある旨の所論は理由がない。
(真野 吉川 高木)