東京高等裁判所 昭和47年(う)362号 判決
被告人 秋田哲男
〔抄 録〕
しかしながら、原判決が根本車の平衡を失った原因として被告人車の速力によるあおりにあると認定したのは、甚だ疑問であって、当審鑑定人平尾収の供述によると、自動車の走行によって起る風圧自体によって原動機付自転車をして平衡を失わせることはないこと、原判決が認定するような、アスファルト舗装道路において時速約四〇キロで進行するホンダ六五CCの第二種原動機付自転車を時速約六五キロで走行する普通貨物自動車(車長四・二四五五メートル、車幅一・五七五メートル、車高一・五四五メートル、車両重量九七五キログラム、最大積載量一トン)が約〇・三メートルの間隔をとって追い抜く際に、風圧によって原付自転車の平衡を失わせるというようなことは考えられないことなどが認められる。以上により原判決の前記認定は誤りであるというべきであり、この誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから原判決はこの点において破棄を免れない。
ところで、右鑑定人の供述によると、追い抜き時における前車と後車との速度差および両車の間隔の程度によっては、道路の舗装の有無、前車の走行位置(左方のゆとり)、運転者の注意等の情況の如何により、前車をして驚愕、恐怖、狼狽のため操縦を誤らせ平衡を失って転倒させる可能性は十分あるのであって、このことは常識的にも肯定され、自動車運転者として業務上当然に配慮すべき事柄である。本件の場合、原判決挙示の証拠によれば、道路はアスファルトで舗装されているが、左端は堤防のコンクリート部分に接して、約五センチメートルの段差があって道路の方が低くなっており、砂や泥等が吹き寄せられていたこと、根本は道路左端に寄り過ぎて(一メートル位のゆとりが望ましかった。)、考え事をしながら運転していたこと、被告人車と根本車との速度差が時速約二五キロであったのに、両車の間隔が約〇・三メートルに過ぎなかったこと等の悪条件が重なって、被告人の本件追い抜きにより根本をして驚愕狼狽せしめ、心理的動揺からハンドル操作を誤って平衡を失わしめ、堤防のコンクリート部分に乗り上げて堤防側壁に衝突転倒させたものと認められ、この趣旨における被告人の過失責任は免れないところであると認められる。
(江碕 宮脇 桑田)