大判例

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東京高等裁判所 昭和47年(う)433号 判決

被告人 築比地義司

〔抄 録〕

原審において適法に取り調べたすべての証拠と当審における事実取調の結果に基づき案ずるに、

(一) 被告人の検察官および司法警察員に対する各供述調書、原審第一回公判調書の被告人の供述記載によると、被告人が本件自動車を運転する前に飲んだ酒の量は、ビール大びん一本半ないし二本弱であって、それも約一時間で飲んだものであり、司法巡査作成の鑑識カードによると、原判示の日時ころ被告人に対し実施したアルコールの身体保有量についての化学判定結果は、呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラム以上〇・五ミリグラム以下であったこと、そして当審における証人平井宜雄および被告人の供述によると、被告人はビールなら大びん五~六本を平気で飲める体質であって、本件当時酒気を帯びていたけれども、いわゆる「酒に酔った」という感じは被告人自身になかったことが認められる。

ちなみに、被告人の検察官および司法警察員に対する各供述調書、原審第一回公判調書の被告人および証人築比地順子の各供述記載を見ると、被告人は司法警察員および検察官の各取調や原審の公判廷において、平素の酒量はビール一本位であると供述し、妻の順子も同旨の証言をしてきたのであるが、被告人および順子の当審における供述に徴すると、被告人ら夫婦のこの供述は、事実に反する虚偽のものであること明らかである。

(二) つぎに司法巡査作成の現行犯人逮捕手続書には、被告人の運転する自動車は交通違反の一斉取締りの現場にさしかかってきた時、約六〇メートルも手前で一時停止するようなそぶりをしてノロノロと走行してきたもので、その状況が不自然であり、無免許運転、酒酔い運転ではないかと思料された旨の記載がなされており、そして司法巡査作成の鑑識カードには、被告人の外見的所見として、言語は時々大声となり、歩行はふらつき、直立しても五秒でふらつき、顔色赤く、酒臭強く、目は涙目という状態を呈していたとの記載がなされており、司法巡査作成の捜査報告書や現行犯人逮捕手続書にも同旨の記載が散見される(ただし逮捕手続書では、目は充血となっている)。

しかし被告人のように、無免許で少なくとも酒気を帯びて運転していた者が、一斉取締りに出合った場合には、その酒気帯びの状態がどの程度にあったかにかかわらず、一瞬進行をちゅうちょして一時停止或いは減速し、ノロノロ運転の行動にでることは、その運転者の心理として一般的にありうることであって、そのことをもって酒酔い運転特有の不自然な運転ときめつけることはできない。被告人の外見的所見の記載内容については、被告人の当審における供述によれば、被告人は要町派出所で風船をふくらませ、四~五歩歩かされたことがあっただけで、鑑識カードに記載されているような確かな歩行能力や直立能力等のテストはさせられなかったというのであり、派出所で取調を受けた時はもとより、現場で警察官の質問を受けた時にも、大声を出したり、歩行がふらつき、直立しても五秒でふらつくような状態ではなく、被告人の眼球はもともと充血気味であって、本件の時に特段充血していたとか涙目になっていたとは思われないというのである。

そこで当審において、司法巡査重信義広・同田中昭大を証人尋問したが、これによっても被告人の右の供述が理由のない単なる弁解にすぎないとの心証はえられなかったのみならず、むしろ事実を吐露したものと認められる。従って前掲記の鑑識カード等に被告人の外見的所見として記載されている内容は、そのまま額面どおりに事実として認めることはできないといわねばならない。

ところで、具体的にどの程度アルコールの影響が現われている場合に、道路交通法にいう「酒に酔った状態」つまり酩酊の度合いが車両を運転するのに必要な判断力や注意力を失なわせるおそれがあると一般に評価される程度に達したといえるかどうかは、アルコールの身体に与える影響力が万人一様ではなく、非常に個人差があるから、結局アルコールの身体保有量や平素の酒量、外見的所見等を含めて、当該運転者の具体的状況との関連において個別にこれをきめるほかはないのである。被告人の本件の場合は、先に認定説示したとおり、飲酒量が平素の酒量より相当控え目で、アルコールの身体保有量も通常一般に微酔といわれている程度の低い濃度であったうえ、鑑識カード、捜査報告書および現行犯人逮捕手続書の外見的所見事項の記載部分が直ちに措信しがたいものであって、他にアルコールの影響による症状とみるべき顕著な外見上の変化を認めうる証拠がない。従って、被告人が原判示の日時場所において本件自動車を運転した時、酒に酔った状態にあったと認めることはできない。本件公訴事実第二については、犯罪の証明がないというべきである。

してみると、被告人はアルコールの影響により正常な運転ができないおそれのある状態にあったものと認定した原判決には事実の誤認があり、これが判決に影響をおよぼすことは明らかである。論旨は理由がある。

(三井 石崎 杉山)

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