東京高等裁判所 昭和47年(う)660号・昭47年(う)659号 判決
被告人 清野拓良 外六名
〔抄 録〕
ところで、弁護人らは、右の控訴趣意書等に基づく弁論に先だち、本案前の主張をし、最高裁判所は昭和四七年七月六日、七日の両日刑事事件担当裁判官会同を開催し、その席上、同事務総局刑事局長が、協議事項の説明で、原判決を挙示して、本件の重要な争点である国選弁護人の問題に論及したのは、正に、司法行政上の最高機関である最高裁判所の控訴裁判所に対する裁判干渉であって、これにより、被告人らの憲法三一条が保障する適正手続によって公平な裁判所の裁判をうける権利が侵害されるという異常事態を生じたのであるから、控訴裁判所としては直ちにその審理を打ち切り、速に本件各公訴を棄却すべきであるといっている。
それで、先ず、職権をもってこの主張につき判断するに、裁判所時報五九七号をみると、最高裁判所事務総局刑事局長は右会同の席上、協議事項等の説明において、「次に、被告人と国選弁護人が防禦方針等をめぐってはげしく対立し、未だ前述のような意味で国選弁護人の選任請求の撤回等があったとは認められないが、現実に訴訟準備のための打合せ等もできないような事態に立ち至った場合、国選弁護人としていかなる態度をとるべきか、すなわち、あくまで弁護人の地位にとどまり、そのような状況のもとで可能なかぎりの弁護活動を行なうべきか、それとも、そのような状況のもとでは十分な弁護活動ができないとして裁判長に弁護人解任の申出をすべきか、が問題となります。この点については、東京地裁において、前者の立場にたち、弁護人の辞任届の提出等にかかわらず、弁護人を解任せず審理を進めた事例が少なくないようであります(一例として、東京地裁昭和四七年一月一四日判決、判例時報六五七号二七頁)。」と述べた旨の記載があり、これによれば、右刑事局長は、協議事項等の説明において、弁護人の辞任届の提出等にかかわらず、弁護人を解任せずに審理を進めた一事例として、本件をあげ、原判決を紹介したにすぎないことが明らかであって、もとより原審のとった措置の当否に論及したものではない。また右会同の席上において、かかる協議事項についてたとえどのような協議が行なわれたとしても、それは事柄の性質上、単に、会同員である刑事事件担当裁判官が、相互に、日ごろの研究と経験にもとずく意見を交換することによって、実務上の識見や能力の向上を図るとともに、その協議の結果を実務の参考に供することのみを目的とするものであって、最高裁判所が、本件の審理を担当する当審に対して、司法行政上の指揮監督的立場において発する指示、指揮の性質を有するものでないことはここに多言を要しない。したがって、かかる会同における協議は、いささかも司法権の独立に影響を与えるものではなく、もとより被告人らの適正手続による公平な裁判所の裁判をうける憲法上の権利を侵害する性質のものではない。弁護人の右主張は失当であって、採用の限りでない。<中略>
(二)、記録を調べると、原審が被告人らのために選任した四名の国選弁護人がそれぞれ原審に対して辞任の申出をするに至った事情、ならびに、原審が、弁護人不出廷のまま審理を進行した事情について原判決が判示するところはすべて正当としてこれを肯認することができ、国選弁護人らが辞任の申出をするに至ったのは、原審が国選弁護人の弁護権、防禦権を無視する態度に出たことによるとの所論は失当である。すなわち、記録によれば、被告人らは右国選弁護人らに対して、審理の進行を阻止するため、あえて実力の行使に及ぶなど法曹として到底うけいれることのできないような行動に出ることを弁護活動として強く要求し、国選弁護人らをして、かかる無理難題を強いる被告人らについては、もはや出廷して弁護活動をすることはできないという心境に追い込み、原審第四回ないし第五回公判期日以降の公判期日に出廷しなくなったこと、原審裁判長は、実質的審理に入るに先立ち、被告人らに対して右四名の国選弁護人が辞任の申出をするに至ったのは被告人らの責に帰すべき事由によるものと考えられるが、被告人らが右国選弁護人の弁護活動を希望するのであれば、その希望に沿うよう措置を講ずる旨、再三にわたり告知したにもかかわらず、被告人らはひたすら国選弁護人の辞任申出は原審の責任である旨を主張するのみで、これに応じようとはしなかったこと、そこで原審は、右国選弁護人らの辞任の申出にもかかわらず、これを解任するに足りる正当な事由がないとしてこれを解任せず、また弁護人不出廷のまま審理が進行することによって蒙る不利益は、すべて被告人らみずからが招いたものとして、これを甘受すべきであるという見解のもとに審理を進行させたことが認められる。
もとより、国選弁護人は、これを選任した裁判所が解任しないかぎり、辞任の申出によって直ちにその身分を失うものではなく、また、その辞任の申出があった場合にも、これを受け入れて解任するか否かは受訴裁判所の裁量に属することがらである。そして、前記認定の諸事情にかんがみると、原審が、辞任の申出をしたままそれ以後の公判期日に出廷しなくなった国選弁護人を解任しなかったことをもって、合理的裁量の範囲を逸脱した違法があるということはできないし、また、かかる諸事情のもとにおいては、弁護人が不出廷のまま審理を進行したからといって弁護人依頼権の保障に欠けるところがあったとすることはできない。国選弁護人不出廷のまま審理、判決をした原審の措置はまことにやむを得ないものとして、その適法性を肯認せざるを得ない。
原審のとった訴訟手続に所論のような違法、違憲の廉があるとはいえず、論旨はいずれも理由がない。<中略>
(二)、また、なるほど所論のとおり原審公判期日においては、しばしば被告人ならびに傍聴人に対して退廷、拘束命令が発せられ、さらに監置処分などの制裁が科せられたことも認められるけれども、これらはいずれも法廷の秩序を乱したと認められる者に対してとられたまことにやむを得ない措置であって、原審のとったこれらの措置に違法があるということはできない。所論は、原審第六回公判期日において、原審裁判長が、退廷させられて法廷外の廊下にいた被告人全員のほか、傍聴を希望して右廊下に居合わせた者二名に対して拘束命令を発した措置の違憲、違法を主張する。しかし法廷警察権が行使されるべき場所的範囲は、単に法廷内のみならず、その外でも、法廷に近接し、裁判所が審理の妨害となる行為をみずから直接に知ることができるところにまで及ぶものと解すべく、また裁判長が法廷警察権にもとずいて拘束命令を発する場合には、これによって拘束されるべき者を直接具体的に指示することを要することはもとよりであるが、事態万やむを得ないときにはこれを特定できる程度にまで、事項と範囲を明示して、その対象となる者の具体的な認定とその者に対する命令の執行を法廷警備職員に委任することも許されるものと解する。これを本件についていうと、記録によれば、原審裁判長は第六回公判期日において、検察官の冒頭陳述中、さきに退廷命令の執行を受けて、廊下に出された被告人らが大声で騒ぎ、喧噪甚しく、検察官の冒頭陳述を聴きとるのに支障をきたす状態であったため、警備職員を呼び「法廷前廊下付近で騒ぎ、庁外退去命令(すでに発令されていた)の執行に実力で抵抗する者は、当法廷の審理の妨害になるので拘束せよ」との命令を発し、ただちに警備職員をして被告人らを含む一二名の拘束を執行させた事実が認められる。右認定事実によれば、原審裁判長が発した拘束命令は、裁判長みずからが直接審理の妨害となる行為を聞知し、これにもとずいて発したものであり、また、「法廷前廊下付近で騒ぎ、庁外退去命令の執行に実力で抵抗する者」というように拘束すべき者を特定するに足りる事項と範囲を明示したうえ、その具体的な認定を警備職員に委任したものといえるから、違憲、違法の主張は当らない。
また、記録を調査しても、原審裁判長が発した右拘束命令の執行に際し、その執行にあたる法廷警備員が被告人らならびに傍聴人に対して暴行を加え、傷害を与えた事実は窺うことができない。原審裁判長が、警備職員の暴行を制止することなく放置、容認した旨の所論はその前提を欠き、失当である。論旨はいずれも理由がない。
(龍岡 片岡 福嶋)