東京高等裁判所 昭和47年(ネ)112号 判決
一般に他人の違法な行為によって財産権が侵害された場合に、権利者が精神上なにらかの打撃を受けるべきことは容易に推測し得るところである。然のみならず、債務不履行の場合においても、債権者が債務者の背信によって精神上の苦痛を被るということも有り得ることといわなければならない。しかしながら、財産権に対する侵害行為の場合であれば、その侵害行為が排除され、又は侵害行為によって権利者が被った財産上の損害が填補され、また、債務不履行の場合であれば、当該債務が履行され、且つ履行遅滞によって債権者が被った財産上の損害が填補され、又は履行に代る財産上の給付が得られれば、このことによって権利者の精神上の苦痛も同時に治癒されるものと解するのが相当であって、権利者は、他に特段の事情がない限り、侵害行為の排除、債務の履行又は財産上の損害の賠償の外に、又はこれらに代えて、慰藉料の請求をなし得べきものではない。然るに控訴人は、本件慰藉料請求を相当とすべき特段の事情が存在することについてなにらの主張も立証もしない以上、本訴請求は、控訴人の主張自体によってその失当たることが明かであるといわなければならない。
(平賀 石田実 安達)