東京高等裁判所 昭和47年(ネ)1518号 判決 1973年6月26日
控訴人(附帯被控訴人) 本多砂利株式会社
右代表者代表取締役 本多良雄
控訴人(附帯被控訴人) 横山始
右両名訴訟代理人弁護士 川原井常雄
同 土屋南男
被控訴人(附帯控訴人) 松本登
右訴訟代理人弁護士 塚平信彦
主文
本件控訴を棄却する。
附帯控訴に基づき、控訴人(附帯被控訴人)両名は、各自被控訴人(附帯控訴人)に対し、金七六万〇、〇二二円及び内金四六万〇、〇二二円に対する昭和四六年一〇月二七日から、内金三〇万円に対する昭和四八年六月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
控訴費用及び附帯控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)らの負担とする。
この判決は第二項に限り仮りに執行することができる。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一 控訴人(附帯被控訴人。以下、「控訴人」という。)ら
(一) 控訴につき
原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
被控訴人(附帯控訴人。以下、「被控訴人」という。)の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決。
(二) 附帯控訴につき
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決。
二 被控訴人
(一) 控訴につき
控訴棄却の判決。
(二) 附帯控訴につき
控訴人らは被控訴人に対し連帯して金三八八万一、四四九円及び内金三五八万一、四四九円に対する昭和四六年一〇月二七日から、内金三〇万円に対する本判決言渡しの日の翌日から各支払済みまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。(ただし、原判決認容分を含む。)
訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言。
第二、当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
(事実上の陳述)
一 被控訴人
(1) 控訴人らの後記通院自動車費用に関する主張は争う。被控訴人が磐田病院に通院する時間、その距離ならびに交通機関ことに自宅から同病院までタクシー以外の方法によると多くの乗換を必要とすること等からみて、本件事故に基づき当然生ずべき損害である。
(2) 附帯控訴により次の金員の支払いを求める。
(イ) 入院中の雑費金一万二、八〇〇円
被控訴人は昭和四四年九月二九日から同年一二月一日までの六四日間磐田病院に入院中の雑費一日金二〇〇円の割合。
(ロ) 労働能力喪失による損失金四四万七、二二二円
被控訴人は本件事故に基づく後遺症として昭和四六年一〇月一四日右磐田病院医師から障害等級一二級相当と判定され、これが後遺障害は右の判定時から五年間継続するものとして、この間の労働能力喪失に基づく将来の逸失利益を求むべきところ、被控訴人の一か月の収入金六万一、〇〇〇円、労働能力喪失率一四パーセント、後遺障害継続期間五年間の係数四・三六四(法定利率による単利年金現価総額表による)を乗じてホフマン式計算により求めた現価。
(61,000円×12×0.14×4.364=447,222円)
(ハ) 弁護士費用金三〇万円
被控訴人は本件訴訟代理人に訴訟を委任し、第一、二審の着手金各一〇万円を支払い、勝訴が確定したときは弁護士会の定める相当の報酬を支払うことを約したもので、これが弁護士費用は本件事故に基づき通常生ずべき損害であるから、その内金三〇万円を請求する。
以上、合計金七六万〇、〇二二円及び内入院中雑費と労働能力喪失による損失の合計金四六万〇、〇二二円に対する昭和四六年一〇月二七日から、内金三〇万円(弁護士費用)に対する本判決言渡しの日の翌日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 控訴人
(1) 被控訴人主張の通院自動車費は本件事故と相当因果関係がない。すなわち、当時被控訴人が居住していた静岡県小笠郡浜岡町塩原新田から磐田市中泉所在磐田病院までの間における浜岡・袋井間に昭和四五年七月三一日までは静岡鉄道の電車が運行されており、同年八月一日からは同鉄道が代替バスを運行させていてその所要時間は約一時間で、袋井・磐田間は国鉄東海道本線で所要時間約七、八分である。したがって、これに待ち時間を入れても一時間半の所要時間で十分通院することができるし、また塩原から浜岡を経由して国鉄菊川駅前までバスで、同駅から東海道本線で磐田まで国鉄を利用すれば(この方法が一般的である。)、待ち期間を入れても一時間半で通院できるのであるから、ことさらタクシーを利用する必要はなかった。
(2) 被控訴人が附帯控訴に基づき当審における新たな請求として主張する請求原因事実はすべて不知。なお、自賠法施行令別表一二級に該当する後遺症の継続期間は二年ないし三年にすぎないし、この継続期間の始期は症状固定時の昭和四六年一〇月一四日から起算すべきである。
(証拠関係)≪省略≫
理由
一、被控訴人主張の損害のうち、通院自動車費用金七四万七、四八〇円、被控訴人が市立磐田病院に支払った文書料及び治療費金五、〇〇〇円、付添看護人松本隆子の看護日当相当額金四万三、〇〇〇円、同付添看護人の食事代金九、三五〇円、本件事故当日から昭和四六年九月までの逸失利益金八一万六、五九七円、慰藉料金一五〇万円についての当裁判所の判断は、原判決書四枚目裏末行中「(三回」の次に「及び当審」を、同五枚目裏六行目中「第三一号証、」の次に「成立に争いのない甲第三三号証、」を、同八行目中「松本隆子」の次に「(原審及び当審第一、二回)」を、同行中「(三回」の次に「及び当審」を加え、同六枚目表六行目の次に「控訴人は、当審においてさらに乙第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし六を提出し、被控訴人住所地から市立磐田病院までタクシーで通院する必要がなかったと縷説するところ、右各証拠によれば右の通院につき当時その主張のような交通機関が存在したことが認められるけれども、前記認定のように、被控訴人の当時の病状からしてタクシーで通院せざるをえなかったものであるから、控訴人のこの点の主張は採用できない。」を、同八枚目表二行目から三行目にかけて「考えられ、」の次に「また、当審における証人松本隆子(第一回)、被控訴人本人尋問の結果によると、このため家庭内の不和が生じたこともあり、被控訴人においては右の病状のため現在なお就労が思うにまかせない状態にあることが認められるのであって、」を加えるほか、原判決と同じ理由でその認容の範囲内で被控訴人の本訴請求を正当として認容すべきものと判断するので、原判決の理由をここに引用する。
二、附帯控訴に基づく請求について
(1) 入院中の雑費金一万二、八〇〇円
被控訴人が本件事故により昭和四四年九月二九日から同年一二月一日までの六四日間市立磐田病院に入院したことは前記認定のとおりであって、このような入院にあたり一日あたり金二〇〇円の雑費を要することは顕著な事実であるから、その合計金一万二、八〇〇円の入院中雑費は本件事故に基づき生じた損害というべきである。
(2) 労働能力喪失による損失金四四万七、二二二円
被控訴人が本件事故に基づく後遺症として昭和四六年一〇月一四日、治療を受けた市立磐田病院医師から障害等級一二級相当と判定されたこと、その後の後遺症状がなお就労に大きな障害をなしていること、被控訴人の事故当時の月収が金六万一、〇〇〇円であることは前記認定のとおりであり、右の事実によると、被控訴人の右後遺症に基づく労働能力の喪失率は一四パーセントを下らないものであって、このような状態は少くなくとも五年間継続するものと考えられるので、月収金六万一、〇〇〇円の労働能力喪失率一四パーセントを五年間として昭和四六年一〇月一四日現在の民事法定利率による単利年金現価をホフマン式計数表に基づき計算すると金四四万七、二二二円となる。
(61,000円×12×0.14×4.364=447,222円)
(3) 弁護士費用金三〇万円
≪証拠省略≫によると、被控訴人は本件訴訟を遂行するにあたり被控訴代理人に訴訟を委任し、第一、二審の着手金として各金一〇万円、勝訴判決確定した時に弁護士会所定の報酬を支払うことを約したことが認められ、また、前記認容の損害額は合計金三五八万一、四四九円であり、本件訴訟遂行の難易性を考慮すると、その一割の範囲内の弁護士費用金三〇万円は本件事故に基づき通常生ずべき損害と認むべきである。
したがって、附帯控訴に基づき、控訴人両名は各自被控訴人に対し右合計金七六万〇、〇二二円及び内金四六万〇、〇二二円に対する本件不法行為発生の日の後(労働能力喪失に基づく逸失利益については前記後遺症認定の日の後でもある)である昭和四六年一〇月二七日から、内金三〇万円(弁護士費用)に対する本判決言渡しの日の翌日である昭和四八年六月二七日(前記認定によると弁護士費用は勝訴判決確定の日に支払うことを約したこととされているが、その主張の弁護士費用の支払債務は本件事故により通常生ずべき損害であるから、勝訴判決確定の日に発生するものでなく、従って、勝訴判決確定の日にはじめてその支払債務につき控訴人が遅滞に陥るものと認むべきではない。)からそれぞれ支払済みまで民法所定の法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
三、したがって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がなく、被控訴人の本件附帯控訴は理由がある。
よって、本件控訴を棄却し、附帯控訴に基づく被控訴人の請求を認容し、控訴費用及び附帯控訴費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させ、なお、仮執行の宣言を付するのを相当と認めて主文のように判決する。
(裁判長裁判官 久利馨 裁判官 栗山忍 舘忠彦)